《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#19

それからおよそ五時間後、星ウノルバでのシヴァ家とキラルーク家の會見は、ようやく友好協定の議定書に、両家の署名がなされようとしている。

ほぼ丸一日、この“茶番劇”に付き合って來たギィゲルト・ジヴ=イマーガラは、さすがに飽き始めていた。

右隣に座るキオ・スー=ウォーダ家の外務擔當家老テシウス=ラームは、友好協定の締結に安堵の表を浮かべているが、ギィゲルト自はこの友好協定に大して興味はない。それよりもノヴァルナがシェイヤに斃(たお)された事を告げれば、テシウスがどんな顔をするかが楽しみだ。

そう思いながらも退屈になったギィゲルトは、貴族の裝の懐から用の扇を取り出して、音を立てないように右手で玩びだした。するとそこに背後から足音が近付いて來る。

ギィゲルトは思った。きっと側近だろう…ノヴァルナが斃された事を、耳打ちしに來たに違いない。期待が湧き上がるギィゲルト。そうだ、カーネギー姫らが星ラゴンまで帰る船を手配してやらねばなるまい…と、前を向いたまま、そんな事まで考える。

ところが、ギィゲルトの視界の外を近付いて來るその足音の主は、ギィゲルトの背後で止まりはしたが、耳打ちをしては來なかった。

「よっと!」

若い男の聲でギィゲルトの左側の空席に、どかり!と腰を下ろす足音の主。わけが分からず左を向いたギィゲルトは、小さな眼がさらに小さく、まるで點になった。左隣の空席に暴に座ったのは、ノヴァルナだったからだ。

「き、き、き―――」

今度は目を見開き、貴殿は…と言おうとして驚きのあまり言葉に詰まるギィゲルトに、ノヴァルナはあっけらかんと、「ああ、これは失禮。ギィゲルト殿」と言い放った。

「な、な、な―――」

「“な”が、どうかしましたか?」

ギィゲルトが「なぜここにいる!?」と詰問したがっているのを知りながら、ノヴァルナはお得意のすっとぼけでいなすと、前を向いて、カーネギー姫とライアン=キラルークの調印の様子に、気な聲を発する。

「おう、丁度よかった。いい場面に間に合った!」

間に合った、などではない。ギィゲルトの頭の中では、今頃ノヴァルナはロンザンヴェラ星雲でシェイヤ=サヒナンの艦隊に加え、彼が呼び寄せたイマーガラ家主力艦隊群と戦って、死んでいるはずなのだ。

「ノ、ノ、ノ―――」

「だから、何です?…さっきから」

わざとらしい苦笑いで振り向いて茶化すノヴァルナだが、今度はギィゲルトも続きの言葉を繋ぐ事が出來た。

「ノヴァルナ殿、なぜここにおるのじゃ!?」

「なぜ…って、私はカーネギー姫のお供として―――」

再びすっとぼけるノヴァルナ。ギィゲルトの表が業を煮やしたものになる。

「そうではなく、貴殿はロンザンヴェラ星雲で、戦闘中ではないのか!!??」

「おや? 戦闘だったんですか?…演習ではなく?」

「うぬ!…」

つい表向きの合同演習ではなく、裏の戦闘と言ってしまった事を、ノヴァルナに揚げ足を取られて憤怒の表になるギィゲルト。こういう相手の本音が、剝き出しになるように持っていく煽り方をさせると、ノヴァルナは一流であった。一拍置いてから、ノヴァルナの表はいつもの不敵な笑みに変わる。

「サヒナン殿に、一つご教授仕ったのですよ…」

「教授とな?…なにをじゃ?」

ノヴァルナの不敵な笑みが、大きくなる。

「復讐で腹は膨れない。むしろ走り回って、腹が減るだけだ…と」

▶#20につづく

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