《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#06

だがやはり…ノヴァルナは死んではいなかった。

キオ・スー城の戦闘指揮所。演技混じりで続けた、カルツェとの通信を終えたナルガヒルデに、「お疲れ」と聲を掛けたノヴァルナは、自分が座る司令席の線モジュールを作し、私室に連絡をれる。

「俺だ。ネイミアの合はどうだ?」

その連絡に出たのは、妻のノアであった。通信スクリーンにはノヴァルナとノアの私室で、ソファーに橫たわるネイミアの姿が見えている。

「まだ麻痺が殘ってて起きられはしないけど。意識はあるから大丈夫」

「そうか」

安堵の表を浮かべるノヴァルナ。ノヴァルナに毒を盛ったあと、ノアに銃を向けたため、駆けつけたメイアに即座に撃たれたネイミアだったが、“麻痺モード”であったため、命に別條はなかったのだ。

しかしネイミアの容態の報告を続けるノアの表には、深刻さが殘っている。

「でも失われた左眼は、眼球をクローン培養で復元させ、結合手をする必要があるわ。しばらく復帰は無理ね」

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「わかってる…」

そう応じて奧歯を噛みしめるノヴァルナ。ネイミアは左眼をえぐり取られ、代わりに映像送信機能を持った、カメラアイを埋め込まれていたのだった。

銀河皇國の醫療技であれば、クローン培養で再生した眼球を移植して復元する事は雑作もない話である。だがそうかといって、ネイミアがけた心の傷は、簡単に癒えるものではない。苛立ち…後悔…自己嫌悪…それらが、ノヴァルナの頭の中で渦を巻く。無論、ネイミアが悪いのではない。このような事態を招いたのは、ノヴァルナ自の甘さ―――以前、ヴァルキスに指摘された、への甘さが原因であるからだ。

事の経緯は、あからさまに怪しいネイミアの様子に、カレンガミノ姉妹がスキャンモジュールをかに作させ、部屋全を走査した結果を見た時點に始まる。

明らかに不自然なエネルギー源の小さな反応が二つ、ネイミアのから検出されており、一つは著の懐、もう一つはネイミアの左眼。著の懐の反応はハンドブラスターの電子バッテリーサイズ、だが護衛役でもない民間人のネイミアには、銃の攜帯は許されていない。そしてそれより遙かに小さなバッテリー反応のある左眼だが、ネイミアがそのような、電子機の義眼を使用しているというデータもない。

狀況に異常ありと判斷したメイアとマイアは、素早く思考を巡らせた。まず考えられるのは、やはり脅迫によるノヴァルナ暗殺の強要である。

を持たされて、ノヴァルナの近くに來た際に遠隔作で自…だがノヴァルナ直屬の使用人といえど、職場にる前にはボディチェックが行われており、不審なは持ち込めない。

ではバッテリー反応のあった銃は?…おそらくこの部屋にある、ノヴァルナかノアの護用の銃を持ち出したのだろうが、暗殺を強要した者がずぶの素人のネイミアに、ノヴァルナを直接撃てと命じるとは思えない。

そうなると、殺害すべき相手の顔を見ずに済む、毒殺の可能が一番高い。そして姉妹で雑談をする振りをしながら観察する、ネイミアの表といつにない手際の悪さが、紅茶への毒を確実にしていた。

そこでメイアがノアに、さりげない雑談口調で告げたのが、ピーグル語による暗殺の危機である。

ピーグル語は銀河皇國辺境部のムツルー宙域などに住む、ピーグル星人の使用する言語で、オ・ワーリなどの皇國中心宙域群では、まずもって使われる事のない言語であった。かつて行きがかり上でこの言語を習得したノアは、カレンガミノ姉妹との暗號會話に応用していたのである。

メイアがこれの使用を考えたのは、ネイミアの左眼に埋め込まれた電子眼球に、盜聴機能があった場合に備えてだ。

そしてメイアはピーグル語で、ネイミアが何者かに脅迫されているらしい事。いま用意している紅茶に、毒をれようとしている事を伝え、すぐに麻痺モードにした銃で撃つ許可を得ようとした。

これに対しノアは機転を利かせ、メイアに銃撃を加える事を控えさせると、強引にノヴァルナに膝枕をして、いちゃつく振りで知らせたのだった。

一方で同様にネイミアを不審に思ったランは、カレンガミノ姉妹のきに合わせてネイミアの死角にり、音聲ではなくホログラムキーボードを使って、まず次席家老のショウス=ナイドルに、ネイミアが言った通り、不在のキノッサに外出の仕事を與えたかどうかを確認し、それが虛偽であった事を知ると、即座にナルガヒルデにノヴァルナ暗殺計畫が実行中で、即応態勢の発を要請したのだ。

ノアの言葉でノヴァルナは紅茶を飲む真似を行い、“死んだふり”をしてみせ、ノアも迫真の演技を見せた。するとそれに前後するように、ナルガヒルデのもとへカッツ・ゴーンロッグ=シルバータから、自分が主君カルツェに暗殺されかけたという、連絡がったのである。

しかしここでイレギュラーな事が発生した。ネイミアがノアに銃を向けたのだ。無論、間髪れず先に発砲するメイア。ノア姫に銃を向ける者は誰であれ、その場で殺する。そのように訓練を積んで來たのであるから當然だ。ただネイミアに幸運だったのは、メイアが銃を麻痺モードにしていたという事であった。

付家老のシルバータを殺害しようとした事から、暗殺犯はほぼカルツェである事は間違いない。拘束したシャトルのパイロットをその場で尋問した、ナルガヒルデの部下の証言も得ている。

次は無い―――

作戦指揮所の司令席に座るノヴァルナは瞼を閉じ、三年前にカルツェに告げた言葉を思い返した。

次は無い―――

カルツェに向けたその言葉は同時に、ノヴァルナ自にも向けたものだ。重い…重過ぎる決斷を、しなければならない時が訪れたのである。するとそこへ一人の男がやって來た。『ホロウシュ』のナンバースリーで、事実上の部隊指揮を務めるヨヴェ=カージェスだ。カージェスはノヴァルナに頭を下げると、主君の気持ちを汲んだ真摯な表で申告した。

「ノヴァルナ様。この先は私にお任せ頂きたく存じます………」

▶#07につづく

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