《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#07
キオ・スー城の門前まで侵したカルツェの陸戦隊一個中隊は、二十四臺の裝甲車から一斉に降りて、城へ向かう。カルツェの來城は告げられており、城側に表立った抵抗は無い。すると、城のり口に立つ三人の人影がある。
陸戦隊指揮はが三人の先頭に立つ人に敬禮し、何事かを告げると、その先頭の人は頷いて何らかの言葉を返した。すると指揮の合図で、二百名以上の陸戦隊は、その三人の両側をすり抜けて城へ突していく。
「シウテとナイドル…それに、ニーワスか」
陸戦隊に遅れて指揮裝甲車から降りたカルツェは、クラードと共に出迎えの三人を見上げて呟いた。出迎えていたのは、筆頭家老シウテ・サッド=リンと次席家老ショウス=ナイドルに、ノヴァルナの腹心ナルガヒルデ=ニーワスである。新たな當主を出迎える重臣の順位としては、妥當なところだ。続いて自分を支持する家臣団が二十名ほど、各裝甲車から數名ずつ降りて來て合流すると、カルツェとクラードは毅然として三人のもとへ歩き始める。
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ちなみにカルツェ達の中に、皇國貴族院報調査部を名乗るバハーザとその部下の姿は無い。ノヴァルナ暗殺に貴族院が関係している事を知られるのを、バハーザが嫌ったためであった。そのバハーザは後日、銀河皇國事務次として、新當主となったカルツェのもとを訪問するという。
「お待ちしておりました。カルツェ様」
近づいて來たカルツェに、シウテ・サッド=リンが片膝をついて頭を下げると、それに続いてショウス=ナイドル。さらにナルガヒルデ=ニーワスが、同じように片膝をついて頭を下げた。「出迎えご苦労」と告げるカルツェは、背後のクラードが必死に笑いをこらえている気配をじる。頭を下げるナルガヒルデがかつて、ノヴァルナから重用されたいがために、クラード達カルツェ支持・反ノヴァルナ派に加わったように見せかけて欺き、スパイ行為をしていた事を嘲っているのだろう。
クラードの軽薄さに舌打ちしたくなるのを抑え、カルツェは努めて落ち著いた口調でシウテに告げた。
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「三人とも立つがいい。余計な混を避けるため、非常時に申し訳ないが陸戦隊を同行させた。こちらの指示に従ってくれれば助かる」
それに対しシウテは「承知しております」と応じ、「ニーワス」とナルガヒルデのセカンドネームを呼ぶ。ナルガヒルデは「はっ」と聲を上げ、カルツェに返答した。
「『ホロウシュ』は全員、詰所に集めて待機させております。當初は興狀態にありましたが、今は幾分落ち著いた様子」
それを聞き、クラードはわざとらしい労わりの言葉を口にする。
「『ホロウシュ』達はみな、ノヴァルナ様の忠勇の士。さぞや無念でありましょうなぁ………」
クラードの余計な言葉を無視し、カルツェはシウテに告げた。元々自分の支持派であったシウテであるから、これは好都合だとカルツェは思う。
「早速だが、兄上と対面したい」
カルツェの要請に「ははっ」と応じたシウテは、通信時のナルガヒルデと同じように、「お驚き。これ無きように…」と聲のトーンを落として、古風な言い回しを続けた。“死を見ても驚かないように”という意味合いだ。そして「どうぞ、こちらにございます」とカルツェを案し、城へる。
カルツェ、クラード、そして支持派の家臣が二十一人の順で、城の主通路を奧へと進む。途中でカルツェは、自分達が連れて來た陸戦隊員が早くも、歩哨に立っている景を眼にした。すれ違う城の人間達は、カルツェの姿を認め、みなその場で片膝をつき、恭しく頭を下げる。初めて目通りをける主君に対しての、臣下の禮だ。
この景を見てクラードは歩を速め、カルツェに追いついて耳打ちした。
「カルツェ様、覧あれ。みなカルツェ様に、早くも臣下の禮を取っております。これは思ったより早く、事が進みそうですぞ」
「うむ…」
周囲の狀況も鑑み、カルツェもようやくその気になり始めた。これはどうやら本當に、兄ノヴァルナは死んでいるらしい。となると當初の想定通り、ノヴァルナの死と対面して確認したのち玉座の間で、ウォーダ家存続の大義のため、自分が兄を毒殺した事を打ち明け、新たな當主となる事を宣言するべきだろう。
“よし。やれるぞ…”
頭脳明晰な一方で慎重な格のカルツェだが、この時はさすがに、新當主の座を目前にして傍らのクラードと同様、舞い上がっていた………
そして狀況の変化―――
それは、キオ・スー城の玉座の間へ進。抵抗する者があれば制圧し、カルツェの到來に備える事を目的とした、スェルモル城陸戦隊に対してだった。指揮が直卒する陸戦隊が、照明を抑えて薄暗い玉座の間にると、そこにいたのは玉座に座るただ一人。
指揮はすわ“ノヴァルナ様か!?”と張した。だが目を凝らすと、その頭部には犬のような耳が二つ、飛び出している。何かの悪ふざけでない限り、それはヒト種のノヴァルナが座っているのではない。格もノヴァルナより大柄の男だ
すると玉座に座る人は、ノヴァルナとはまた違った質の高笑いを発した。
「ワハハハハハ!!」
サッ!…と表を張させる指揮に、玉座に座る人は野太い聲で告げる。
「玉座の座り心地というのは、なかなか得難いものだな…いずれは俺も出世して、このような玉座を頂きたいものよ。なぁ、指揮殿」
そう言って立ち上がった人の顔が、照明の下に浮かび上がる。獰猛な狼を思わせるその顔の持ち主は、ラン・マリュウ=フォレスタの父親でウォーダ家BSI部隊総監、カーナル・サンザー=フォレスタであった。
「フォ、フォレスタ様。ここで何をしておられます…?」
狀況を全く理解できず、スェルモル城陸戦隊指揮は、口ごもりながらサンザーに問い掛けた。対するサンザーはこれ見よがしに、四丁ものアサルトライフルを首から掛けた姿で、どこか気に応じる。
「何をしてるって、そりゃ當然、おまえさん達を待ってたのさ」
BSIパイロットの技量をして、“鬼のサンザー”と恐れられるこのフォクシア星人だが、白兵戦においても、その二つ名を與えられて可笑しくないだけの、戦闘力を有しているのは有名だ。無論、三十名以上いる完全武裝の陸戦隊が、ただ一人に敗北するとは思えないが、指揮の眼にはサンザーの狙いが、指揮自の首である事が見えていた。
「なっ!…何を仰っておられるか分からんが、その玉座は誰彼なく勝手に座ってよいものではない。フォレスタ様の行為、主家に対する不敬ですぞ!」
陸戦隊指揮のその言葉で、サンザーはいよいよ愉快になったらしく、再び「ワハハハハハ!」と大笑いし、余裕綽々といった表でその理由を口にする。
「いやいや。ご心配には及ばんよ指揮殿。なぜなら俺は、ここで貴殿らを待ちける褒として、つい先ほどノヴァルナ様から、玉座に座るお許しを得たのだからなぁ!」
殊更、“つい先ほど”という言葉に力を込めるサンザーに、ノヴァルナの生存を知った陸戦隊指揮は、彼の部下と共にその場で立ち盡くした。
陸戦隊指揮の様子を見て、サンザーは本題を切り出す。
「それで…貴殿に選択の機會だ。貴殿らは今現在、叛徒(はんと)となっている。その叛徒のまま、ここで俺と一戦えるか。それともノヴァルナ様の指揮下に復帰し、部下に作戦中止を命じて撤収するか選ぶがいい」
「………」
「今ならノヴァルナ様も、無かった事にして下さるそうだが…どうだ?」
どうだ?…と言われても、陸戦隊指揮に選択肢などなかった。自分達はすでに詰んでおり、ノヴァルナが健在でこれが最初から、キオ・スー城全を使った罠であったなら、陸戦隊一個中隊程度で制圧出來るはずもない。カルツェがウォーダ家の當主とならぬ限りは、自分達には何の見返りもないまま、叛逆者としての罪を問われる結末しか待っていないのだ。
うなだれた指揮は、手にしていたアサルトライフルを床に置き、そのままサンザーに対して片膝をついた。それに従って部下達も一斉に同じきをする。「分かりが良くて助かる。俺もまだ死にたくはないからな」と頷いたサンザーは、すぐに続けた。
「早速だが、貴殿の部下達全員に狀況停止と、カルツェ様及び側近達の命令には従わぬよう、連絡してくれ」
▶#08につづく
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