《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#09

主君ノヴァルナの毒殺を図った、カルツェ・ジュ=ウォーダと、その側近クラード=トゥズークの死という報は、翌日早々にキオ・スー城から発表され、すぐにオ・ワーリ宙域…そして周辺宙域へと広がった。

親の命を奪い合う事は、戦國の星大名家では珍しい事ではない。それでもやはり市井からは、自分の弟を殺害したノヴァルナを非難する聲が幾つも上がった。そうしなければ、ノヴァルナの方が殺されていたのだが、理屈だけで事は左右されないのが世の中である。

NNL(ニューロネットライン)上でも激しい批判が起こり、『iちゃんねる』をはじめとした換サイトでは、最近ようやく擁護され始めていたノヴァルナ関連のスレッドでも、一斉に非難に転じる有様だった。それには一般人の間ではいまだに、ノヴァルナを傍若無人な奇人。カルツェを頭脳明晰な人格者。と見る傾向が続いていた事も大きく関わっている。

これはウォーダ家にとってマイナス面が大きい。なぜなら世論がイマーガラ家のオ・ワーリ侵攻を、歓迎する風へと移りかねないからである。というのも、この事件にタイミングを合わせたようにイマーガラ家が、“オ・ワーリ宙域に侵攻し、これの支配権を握ったのちは、領民に安定した生活を保証する”と、宣伝を始めたからだ。

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星大名家が支配する“新封建主義”とは、言ってしまえば獨裁政権であり、民主主義のように世論や、政権支持率に直接左右される政治形態ではない。しかしその“獨裁者”たる星大名家當主が領民に支持されない場合、他國から侵攻をけるような事が起きた際、その他國の星大名を“解放者”として、歓迎してしまう恐れが出て來るのだ。

そして彼等領民こそが、最前線で戦う一般兵士の家族なのであり、引いては各部隊、全軍の士気に影響する可能がある。したがってイマーガラ家の侵攻が近いこの時期での、カルツェの処斷はノヴァルナ政権にとって、非常に痛手であった。最悪の場合、イマーガラ家が侵攻して來た時、敵に寢返る部隊も出て來るだろう。

そのカルツェの葬儀は、叛逆者という事でノヴァルナとノアだけが立ち會った、非常に質素なものであった。

ノヴァルナとカルツェの母、トゥディラはノヴァルナと顔を合わすのを嫌い、自分の屋敷でカルツェの冥福を祈ったという。そもそもカルツェをの頃から、あのように育てたのはトゥディラ自であり、ノヴァルナにすれば言いたい事が幾つもあったはずだが、呼びつける事も訪ねる事もしなかった。

ただ確実にじたのはこの先もう二度と、母親と顔を合わせる事はないだろう…という予だけである。

だが…ノヴァルナに停滯は許されない。翌日になるとノヴァルナは、カルツェの居城であったスェルモル城へと飛んだ。親衛隊の『ホロウシュ』と陸戦隊一個連隊を率いて、である。

ただし城自はすでに、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータが率いる、第1戦隊から出した陸戦降下部隊が制圧を完了していた。スェルモル城を守備する陸戦隊主力が、キオ・スー城へ移していたのであるから制圧も容易い。

スェルモル城のシャトルポートに降下著地した専用シャトルから、ノヴァルナが降りて來る。こういう場合、いつもは不敵な笑みを浮かべているノヴァルナだが、その表は厳しい。

それを出迎えるはカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ。整列した第1戦隊合同陸戦隊を背後に、片膝をついて深く頭を下げた。シャトルを降り、真っ直ぐに歩いたノヴァルナは、シルバータの橫で立ち止まる。

「ゴーンロッグ!!!!」

「はっ!!」

さらに深く頭を下げるシルバータに、ノヴァルナは前を向いたまま、ありったけの怒號を浴びせた。

「馬鹿野郎ッ!!!!」

「ははっ!!」

片膝をついた狀態だったシルバータは、その場でさらに平伏し、シャトルの著陸床に頭をり付ける。ノヴァルナがんだシルバータの役目は、カルツェの監視だけではない。ニ度と謀反を起こさぬよう、導く事を求めていたのだ。

「もっ!…申し訳ございません!!!!」

「そんな言葉だけで、済むかぁあッッ!!!!」

天に向かって咆えるノヴァルナ。地に頭をり付けるシルバータ。ノヴァルナは大きく息を吐き出し、口調を落としてシルバータへ呼び掛けた。

「ゴーンロッグ」

「はっ…」

「てめぇで死ぬ事は、許さねーぞ」

「!!!!」

ギクリと肩を震わせるシルバータは、この騒が終息したのを見計らって、自分に與えられた責務を果たせず、カルツェを死なせてしまった事への詫びとして、カルツェのあとを追い、自害の道を辿ろうと考えていたのだ。そのカルツェに殺されかけたシルバータだったが、愚直なこの男に、もはや恨む気持ちなど皆無だった。

「てめぇには謹慎を命じる。だがそれが明けたのちは、カルツェの分も合わせて、俺の役に立て!」

そんなノヴァルナの言葉を聞いた途端、シルバータは平伏したまま、獣のような聲を上げて號泣し始める。ノヴァルナはシルバータが泣くに任せ、スェルモル城の中へと足を踏みれて行った。

スェルモル城にはノヴァルナの二人の妹、マリーナとフェアンが暮らしている。マリーナはカルツェの二卵雙生児の姉であり、この事態に臨時で城代を務めていた。玉座の間でマリーナと対面したノヴァルナだが、さすがに張は隠せない。カルツェの処斷を命じたのは、他ならぬ自分だからだ。

しかし、マリーナはウォーダの一族のでも有數の、気丈なであった。雙子の弟の処斷を下した兄ノヴァルナを、禮節をもって迎えれたのである。

玉座に座っていたマリーナは、ノヴァルナの姿を認めると席を立ち、玉座を空けて傍らに片膝をついた。それに対しノヴァルナは、真っ直ぐ歩きながらマリーナに告げる。

「座らねぇから、膝をつかなくていいぞ」

「はい…」

そう言って靜かに立ち上がるマリーナ。背筋をばしたマリーナに、歩み寄ったノヴァルナは、下手な冗談を口にした。

「俺の顔を見るなり駆けて來て、頬っぺたを引っ叩くと思ってたんだがな」

「それをおみでしたら、思いきりそうさせて頂きますわ」

マリーナの言葉にノヴァルナは「ハハハ…」と、乾いた笑いを発する。そしてそのまま向き合って無言の間を置き、「マリーナ」と呼び掛けた。だがマリーナはその先を読み、兄に言わせない。

「兄上。謝らないでくださいまし」

マリーナは、ノヴァルナがナグヤ=ウォーダ家の嫡男であった時代から、兄弟とクローン猶子が揃った食事會などを催して、カルツェとの隔絶した距離をしでもめようと努力していたのだが、それもすべて水泡に帰した。ここでノヴァルナが謝罪の言葉を口にしてしまうと、マリーナにとっては、傷口に塩を塗られるようなものだ。

「わかった」

ノヴァルナは頷いて、玉座の間にある大窓へと歩を進めた。マリーナはそれについて行く。

「フェアンは?」

問いかけるノヴァルナに、マリーナは軽く頭を振った。

「自室で塞ぎ込んでいます」

「だろうな…」

フェアンとカルツェの仲は、ノヴァルナとの間ほど親では無かった。だたそうであっても、親の死がフェアンにとって痛ましくないはずがない。

もしかすると…いや、もしかしなくとも、フェアンの奴は俺を許したりなんか、しないだろうな、と思うノヴァルナ。そんな兄の気持ちを察したのか、マリーナはノヴァルナの左の二の腕に手をれて、優しく告げた。

「あの子はあの子なりに、今の世の星大名がどんな定めにあるかを、理解しております。わたくしと同じく、兄上の苦しい心のも知っておりますゆえ、今しばらくの時間だけ、お與え下さい………」

▶#10につづく

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