《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#11

普段から怒られ慣れているキノッサだったが、さすがにこのレベルのノヴァルナの怒號には、今もを震え上がらせる。

「奴等の脅しに屈した時點でなぁ、ネイミアはアウトなんだよ!!」

「そ…そそ、それは私の命と引き換えに、脅されたからで―――」

「だったら、二人揃って死んどけや!!」

「!!!!」

まるで敵兵に対するようなノヴァルナのきつい言い方に、キノッサは半ば怯え、半ば怒りをじて顔を青ざめさせた。しかしノヴァルナは、かつての傍若無人に振舞っていた頃のようにお構いなしだ。

「カルツェ達は、民間人のネイミアなら脅しに屈して、言う事をきくに違いねぇと踏んで、てめぇと一緒に捕まえたんだろが。その通りになりやがって!」

「それは!…」

「違うだろが!! たとえを人質にされようが、反吐を吐くような拷問をけようが、脅迫を拒む!…星大名の傍に仕えるなら、それが正解なんだよ!!」

キノッサにもノヴァルナの言っている事は理解できる。『ホロウシュ』やカレンガミノ姉妹なら敵に捕らえられて、どのような慘い目に遭わされても、ノヴァルナやノアの命を狙えという脅迫になど、決して屈しないだろう。しかしだからといって、今のノヴァルナの冷酷な言いは、キノッサにはれ難かった。

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「だけど…だけど、わたくしもネイも、これまで誠心誠意お仕えして來たつもりです。わたくしはともかく、ネイにそのような言い方は―――」

ところがこういった説得の仕方は、今のノヴァルナに対して、怒りの炎に油を注ぐだけである。キノッサが言い終わる前にズカズカと歩み寄ったノヴァルナは、ぐらを摑んで、「いい加減にしやがれ!!!!」と手荒く突き飛ばした。

「覚悟のねぇヤツがどんなに仕えようが、雑魚でしかねーんだよ!!!!」

「そんなあんまりな…」

さらに抗議しかけるキノッサに、「うるせぇ!!!!」と怒鳴ったノヴァルナは、ぐい!…と指を差して言い放つ。

「いつまでトチ狂ってやがる!! 目ぇ覚ませ、サル!!!!」

「!!??」

そう言われてキノッサはノヴァルナの怒りの方向が、自分の考えているものと違うらしい…と気付き始めた。これはもしやネイミアの解雇は、単なる今回の不手際に対しての、自分との連帯責任ではないのではないか…キノッサの眼が、何かを考え始めたものに変わったのを見たノヴァルナは、し口調を和らげて問う。

「ふん。ちったぁ事を考える気になったか…じゃあ、てめぇに訊く。今回の事件で誰か、てめぇやネイミアを進んで助けようとしたヤツがいたか?」

ノヴァルナの剝き出しの言いざまに、キノッサは「ウッ…」と返す言葉に詰まった。確かにあの時、自分が助け出されたのは事件の一番最後、降伏したスェルモル城陸戦隊の兵士が、居所を告げた事によるもので、キオ・スー側の制圧行中は誰も、キノッサの安否など気にはしなかったのだ。そしてネイミアに至っては、メイアに何の迷いも無く撃たれていた。

「………」

現実を突き付けられて、キノッサもようやく頭を冷やした。どんなにノヴァルナの側仕えで勤勉に働いても、民間人あがりの下っ端でいる限り、ノヴァルナが言った通りに自分やネイミアは“雑魚”に過ぎないのである。

理不盡なようだが、銀河皇國も宙域星大名政権も民主主義ではなく、主君を頂點とした専制・封建政であり、ヒエラルキー構造の社會である以上、個人の価値に差があるのは當然の事なのだ。そしてこのような社會構造であるからこそ、這い上がろうとしていたのが、キノッサの野心のはずだった。

“ネイミアのクビも全部…俺っちのせいなのか”

いくらネイミアを擁護しても、自分自にそれを訴えるだけの価値が無ければ、聞きれられるはずも無いのだ。そう思ったキノッサは、ノヴァルナの怒りの意味が分かりかけて來た。そこへ飛んで來る、ノヴァルナの“猿呼ばわり”の聲。

「サル!!!!」

だが今度は怒號ではない。キノッサは「はっ…」と応じ、その場で頭(こうべ)を垂れて片膝をつき直した。ノヴァルナはキノッサの前で腕組みをし、説教口調で告げる。

「俺の言いてぇ事を、しは理解したか?」

「はっ…」

「…ったくよ。頭の回転の速さが、てめぇの売りじゃなかったのかよ。オンナ絡みでのぼせ上がんのなんざ、十年早(は)ぇってんだ」

「はっ…」

自分と三歳しか違わないノヴァルナに、“十年早い”とか言われるのはどうか、と思うが、ここはキノッサも逆らわずに聞く。

「…ったく。五年前に俺んトコに來た頃の、ギラギラとした抜け目の無さはどうした!? ネイミアと一緒に働くようになってからのてめぇは、小さく纏まろうとしてばっかじゃねーか! ひと山幾らのような奴なら、別に仕えてもらわなくてもいいんだよ!!」

これを聞いたキノッサは、うつむいたまま歯を喰いしばった。腹立たしいが正論である。ノヴァルナのような才気あふれる主君の傍で、平民からり上がろうとするなら、凡庸である事は許されるはずもない。やはり今の自分では、ネイミアの解雇に赦しを乞う資格は無い…という事なのだ。

「サルッッッ!!!!」

一拍置いてノヴァルナは、天雷のような聲で厳しくキノッサを呼びつけた。

「相分かったかッ!!!!」

「はっ…」

うなだれたままのキノッサを睨み付け、ふん…と鼻を鳴らしたノヴァルナは、口調を鎮めて淡々と告げる。

「ネイミアは明日15時キオ・スー発の、中立宙域巡回旅客船に乗せる。間に合うように見送りに行ってやれ…てなわけで用は済んだ。下がって休め」

意…」

失意ありありといったじで両肩を下げ、ノヴァルナの前を辭するキノッサ。その後ろ姿にノヴァルナは再び、ふん…と鼻を鳴らした。するとノヴァルナの席の背後に提げられた、『流星揚羽蝶』紋のタペストリーの橫からノアが姿を現す。そこには私室區畫からこの執務室へ通じる、専用通路があるのだ。

「隨分、冷たい言い方するのね」

ノヴァルナのキノッサに対する態度を、咎めるふうも無く指摘するノアは、椅子に座る夫の肩を、後ろから手でんでやる。別にノヴァルナの肩が凝っているというのではなく、今の“演技”の労をねぎらう意味合いだ。

「ん?…まあな」

素っ気なく返事するノヴァルナに、ノアはしからかう口調で問い掛ける。

「昔…ムツルー宙域で、自分が星大名の次期當主だという立場も考えずに、人質のお姫様を命懸けで助けようとした、誰かさんの言える言葉だったのかしらね?」

「んなもん、人は人、俺は俺だ」

偉そうにを張って言うノヴァルナに、ノアは思わず吹き出した。

「それ、なんか使い方違うし」

「ばーか。そこは“私ってウォーダのイケメン殿下に、星大名の座を投げ捨てさせるぐらいのイイ”って、喜ぶトコだろが」

「やだぁ。ホントですかぁ」

ノヴァルナの返し言葉に、いま星ラゴンで流行のアイドルグループ、“キオス坂44”ばりの可い系の反応をしてみせるノア。だがそれをジト目で見たノヴァルナは、そっぽを向いて言い放った。

「すまん。忘れてくれ」

「こら!」

というじでイチャついておいて、ネイミアを去らせるノヴァルナの心を慮ったノアは、靜かな口調で話し掛ける。

「淋しくなるわね…」

「そうだな…」

「早く帰って來てくれたら、いいんだけど」

「そいつはキノッサ次第さ…だがまぁ、あのヤローは転んでも、タダで起きるようなヤツじゃねーからな。それが出來なきゃ、俺の目が節だったって事さ」

そう言ってノヴァルナは気分をがらりと変え、続けた。

「て事で、今からツーリング行こうぜ。キオ・スー灣周回道路沿いの早咲き桜が、いいじらしいからな」

やれやれといった表で、冗談まじりに応じるノア。

「いいけど。誰かに狙われても知らないわよ」

▶#12につづく

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