《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#14

ギルターツ=イースキーの突然の死。アイノンザン=ウォーダ家筆頭家老ヘルタス=マスマに報告によれば、その発端は3月15日にミノネリラ宙域との國境近くに位置する、とある放棄植民星で行われた、イースキー家當主ギルターツ=イースキーと、舊サイドゥ家重臣ドルグ=ホルタの會見だという―――

元トキ家の典醫、そしてドルグ=ホルタから出生のを聞き出し、自分の本當の父親が、母ミオーラの不義通の警備兵だと知ったギルターツは失意と、育ての親のドゥ・ザン=サイドゥへの複雑な思いを抱いたまま、首都星バサラナルムへと帰還した。

何とも業の深い話であった………

“マムシのドゥ・ザン”と恐れられた、ドゥ・ザン=サイドゥ。それを斃した事によって、初めて自分こそがその跡を継ぐ者となれた事を知ったギルターツだが、を満たしていたのは、やり切れない“空虛”であった。

ノヴァルナやヴァルキスが懸念していたように、イマーガラ家のオ・ワーリ宙域侵攻に乗じて、イースキー軍にもオ・ワーリ宙域侵攻を行わせ、領域の割奪を目論んでいたギルターツだったが、この日を境にその思考は、自分の後継者をどうするか…へと移っていったのである。

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そこで思考のベクトルが向けられるのは當然、自分の嫡男オルグターツだった。ノヴァルナと同じ22歳でありながら、酒との放三昧…今更にして、自分が當主の座を奪う事ばかりを考え、“あれ”をこれまで好きにさせていた事が、重くのしかかる。

“あれが…ドゥ・ザン殿…いや父上の…マムシの道を、継ぐ者であって良いのか…あのような癡れ者が………”

やがてギルターツはそういった不満をイナルヴァ、アンドア、ウージェルの“ミノネリラ三連星”をはじめとする重臣中の重臣にらし始めた。それが3月の19日頃の話である。すると話は即座にオルグターツの二人の側近、ビーダ=ザイードとラクシャス=イルマの耳にった。ギルターツを一番近くで護衛しているSPの一人が、オルグターツのスパイである事は、以前に述べた通りだ。

ところが…このSP、正はオルグターツのスパイであると同時に、ヴァルキスがイースキー家へ送り込んだ諜報部員―――二重スパイだったのである。そして二重スパイは、ヴァルキスから與えられた自分の任務を果たした。ビーダとラクシャスに対して、欺瞞報を與えたのだ。ギルターツ様はオルグターツ様を廃嫡して、ウォーダ家と和解。ウォーダ家に保護されているドゥ・ザンの実子、リカード=サイドゥを後継者として迎えようとしている…と。

アイノンザン=ウォーダ家が恐ろしいのは、いまや唯一の宗家となったノヴァルナの、キオ・スー=ウォーダ家以上の諜報能力を有している點である。

父ヴェルザーが戦死し、ヴァルキスが當主の座を継いで家勢の回復を図った際、宇宙艦隊の再建以上に特に力をれたのは、諜報活を含む、こういった報戦能力だった。優秀な諜報部員を育するのと同時に、買収……脅迫…といった、あらゆる手段を講じてウォーダ家だけでなく、周辺の星大名の家中にまで、ヴァルキスは諜報網を構築していったのだ。

そしてそれは現在、オ・ワーリ宙域においては、市民の使用するSNSに対する導工作にまで及び、なからず世論に影響を與えていた。ノヴァルナの施政方針により、他の星大名とは違って、ほとんど報統制を行っていないオ・ワーリ宙域國で、當主継承以來、善政を敷き始めたにもかかわらず、領民の間に強くノヴァルナ批判の風が殘っているのも、実はアイノンザン=ウォーダ家による導工作が影響していたのである。

「我々の與えた欺瞞報を鵜吞みにした、側近のザイードとイルマは、即座にこの報をオルグターツ報告。オルグターツの命令でザイードとイルマが放った暗殺者により、ギルターツ様は毒殺されたとのこと…」

筆頭家老ヘルタスの言葉に、アリュスタは皮めいた笑みを浮かべて応じる。

「毒殺ですか…ノヴァルナ様暗殺の企てと、同じ手を使うとは…」

「毒を混させた酒を、ドゥ・ザン様の書斎で煽り、そのままとか…」

「ヘルタス様のお言葉から判斷すると、暗殺の実行者は我々が放った二重スパイではないのですね?」

「さよう。我々の手の者が居らぬ時に起きた事にて…オルグターツの側近が、別に送り込んだ者であろうと」

「なるほど。スパイ同士でも手を組んでいない限りは、互いの正を知らぬものですからね」

そのやり取りをヴァルキスは靜かに聞いていた。二重スパイの報告から、最近のギルターツが自の出生のを探る事に、執著しているという報。またその嫡男オルグターツが、父親のこのような向を怪しんでいるという報はすでに手済みだ。そこにウォーダ家との和解と、オルグターツ廃嫡構想の欺瞞報を混させて、紛の火種を起こそうというというのが、ヴァルキスの狙いだった。

しかし腑に落ちない點もある。ギルターツの退場は最終的な狙い通りであったのだが、そこへ至る事態のきが、ヴァルキスの想像していたものより、かなり早いのである。するとヘルタスは、主君の疑念を察していたかのように告げた。

「ただし一方で、奇妙な話がイースキー家の間に出回っております」

「奇妙な話?」興味深げな眼を向けるヴァルキス。

「ドゥ・ザン様の呪いにございます」

▶#15につづく

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