《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#16

監視カメラの映像などを踏まえた、このような怪談じみた経緯をヘルタスから聞かされ、ヴァルキスと同席していた弟のヴァルマスは、自分の二の腕を手で抱えると、悪寒をじたような反応をする。

「こりゃあ…本當に呪いかも知れないぞ」

「そのような非科學的な事が、この時代に…」

と言うアリュスタではあるが、その端正な顔に浮かぶ表い。ただヴァルキスだけは揺した様子も無く、淡々とした口調で告げた。

「実に興味深いな。無論、一から十まで科學的かつ、心理的に説明はつく話だが、“ドゥ・ザン様の呪い”と呼んだ方が説得力はある」

トリックとしては単純だ。ドゥ・ザンの書斎に予め、毒のったウイスキーを用意し、心理的に不安定となっている狀態のギルターツが、亡きドゥ・ザンの居住區畫へやって來たら、ドゥ・ザンのホログラムでギルターツを書斎へと導する。そしてそこでさらにホログラムで心理導をかけ、毒りウイスキーを飲ませるのである。その後の演出は些か悪趣味だと思うが、救護に駆けつけて來た者達へ見せつけるには、効果的であろう。

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しかしヴァルキスが、“ドゥ・ザンの呪い”に興味を示したのは、そこまでの事であった。二重スパイの報告から、暗殺犯はこちらの教唆に乗せられたオルグターツの、二人の側近が放った工作員の仕業であって、萬が一ドゥ・ザン自が仕掛けておいたものだとしても、結果が同じである以上、このアイノンザン=ウォーダ家當主にとって重要なのは、ギルターツ=イースキーが死亡したという事実だ。

次期當主は暗愚なオルグターツであり、イースキー家はこれで大きく揺らぐはずである。ヴァルキスの狙い通り、イースキー家がイマーガラ家のオ・ワーリ宙域侵攻に乗じて、領域の侵食を行う事は不可能となるに違いない。

“想定とは違ったが…結果は上々だ”

これほど早くギルターツが死に、オルグターツがイースキー家當主となるであろう事までは、想定していなかったものの、これでカルツェを頭目とする反ノヴァルナ派の廃滅に続き、どさくさ紛れに蠢しようとする外部勢力も、排除する事ができた。つまり自分の敬するノヴァルナが後顧の憂い無く、侵攻して來るギィゲルト・ジヴ=イマーガラの大軍を全力で向かい撃ち、滅び果てる舞臺が整ったという事だ。

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ところがその時、ふと自分自でも云い知れない覚が、ドゥ・ザン=サイドゥの殘した想いが、ヴァルキスの背中をでて行く…

“いや。まさかドゥ・ザン様は…ノヴァルナ様に、いずれこの時が來る事を予想し、ギルターツ様を死に招かれたのでは…”

もしやこのように暗躍する自分も、本當はドゥ・ザンのした遠大な思の、一部に過ぎないのではあるまいか…そのような気になったヴァルキスは、頭を軽く左右に振り、「まさかな…」と自分に似つかわしくない想像を、急いで打ち消したのであった………

一方、このギルターツの死に関して、自分達に都合のいいように造した者達がいた。オルグターツの側近にして人の二人、ビーダ=ザイードとラクシャス=イルマだ。

二人は主君であるオルグターツより、このところ目立つようになって來ていた、ギルターツの不審な行を監視するように命じられていたのであるが、ヴァルキスが思っていたような、ギルターツを毒酒で暗殺するよう、誰かに指示を出したりはしていなかったのだ。つまりいずれは暗殺という手段に出る事も考えられてはいたが、現時點においてギルターツの死は彼等にとっても、寢耳に水の出來事だったのである。

ギルターツの暗殺という小さからざる事案の発生に、當然ビーダとラクシャスはオルグターツから報告を求められた。

だがドゥ・ザン=サイドゥが罠として仕掛けておいた、毒のったウイスキーを飲んで勝手に死んだという、途方もない話では論理的説明にならない。むしろ監視を怠っていた言い訳、とオルグターツにけ取られかねないと危懼した二人は、映像記録に殘るドゥ・ザンのホログラムから一計を案じた。

かねてからギルターツの辺警護として潛ませていたスパイ―――実は、ヴァルキスが放った二重スパイの報告にあった、ウォーダ家と和解しオルグターツを廃嫡して、ドゥ・ザンの実子リカード=サイドゥを養子に迎え、イースキー家の次期當主とする思を、ギルターツが急遽実行に移す事を決定。まずオルグターツの捕縛を命じようとしている報を摑んだビーダとラクシャスは、主君オルグターツの廃嫡の危機を救うため、やむなくギルターツの暗殺を謀ったという話を、でっち上げたのである。

その結果、暗愚なオルグターツは、自分達の保のためギルターツの暗殺計畫をでっち上げた、ビーダとラクシャスの忠義話を大いに褒めたたえ、またヴァルキスが放った二重スパイは、自分の作の果に大いに満足するという、ヴァルキスを含む全員が、奇妙な円満終了を迎えたのであった。

だが本當に奇妙な話はまだあった―――

ギルターツの暗殺事件が起きた、イナヴァーザン城のドゥ・ザンの居住區畫。そこのNNLシステムの修復作業をしている技師達の會話…

「え?…NNLのホログラム投影端末に細工がしてあったのは、ドゥ・ザン様の書斎の中だけだって?」

「はい。書斎の中のシステムのみ、対人センサーと連して、ギルターツ様が息を引き取られたあと、他の誰かが室して來ると自的に、ドゥ・ザン様のホログラムが投影されるように細工されていますが、その他のシステムに異常は…」

「じゃあ、あれはなんだったんだ?…あの映像にあった、書斎の前で消えるドゥ・ザン様のお姿は………」

NNLの技師達が背筋を凍らせていたその頃、キオ・スー城のノヴァルナ・ダン=ウォーダと言えば―――

『閃國戦隊ムシャレンジャー』

第41話:ヤミ帝國の逆襲

クライマックス。武を失い、変も解けた生で、細い空中回廊の先端に追い詰められたムシャピンク。彼に迫るヤミ帝國の魔王ヤミ・ショウ・グーンが、地鳴りのような聲で告げる。

「勝負あった。他のムシャレンジャーどもと違い、“シン・ムシャピンク”に“シン化”出來ぬままのおまえでは、ワシには勝てぬ!」

「く…」

「真に正義の心を持てぬ者に、“シン化”は出來ぬ。おまえには無理なのだ。自分でも分かっているはずだ。自分の心の奧底に潛むものが、闇であるという事を」

「あなたに何が分かると言うの!」

「分かる。おまえの父親と同じだ。かつて、おまえの父親に何が起きたか、ワシが教えてやろう」

「言われなくても知っているわ! あなたが私のお父さんを殺した! 伝説の戦士ムシャゴールドだったお父さんを殺したのよ!」

その時、一陣の風がびょうと唸り、グーンの黒いマントをはためかせた。右腕をムシャピンクに差し出し、この手を取れというような仕草でグーンは靜かに告げる。

「違う……ワシが、おまえの父親なのだ」

次回に続く

「えええ!? ここで終わりですか!?」

素っ頓狂な聲を隣で上げる『ホロウシュ』の、ジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムに、ノヴァルナは“こいつもだいぶ馴染んで來たなぁ…”と、生暖かい視線を送る。ドゥ・ザンの最後の従兵として仕え、ウォーダ家へやって來た當初の四角四面だった格も、他の『ホロウシュ』達の影響でらかくなって來たものだ。

「おう。んで、ここからが神回の連続でなぁ」

そう言いながらノヴァルナは、リモコンホログラムを作し、次回予告の音聲をミュートにする。

「どうして音を消すんです?」

「ばーか、おまえ。こういう子供番組の予告は、盛大なネタバレになんだよ」

「なるほど」

そしてタイミングよく音聲を戻すと、今しがたシリアスな演技をしていたばかりのムシャピンク役の優が、ムシャイエロー役の優と並んで、エンディングテーマ開始の掛け聲を朗らかに告げる。

「みんなー。ムシャたいそうが、はっじまっるよーーー!」

♪ムシャムシャムシャムシャ あさごはん

♪おいしくたべる そのまえに

♪みんなでムシャムシャ ムシャたいそう

♪1・2・3・4 ムシャたいそう

♪きょうもげんきに ムシャたいそう

♪みんなもいっしょに がんばろう

♪せいぎのみかた ムシャレンジャー

「ノヴァルナ様」

「おう。なんでぇ?」

「はやく続きを観ましょう」

時代が大きくこうとしているのもどこ吹く風。このようにして新たな『ムシャレンジャー』ファンをまた一人、作り出していたのであった………

【第22話につづく】

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