《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#02
複雑ながりれるイマーガラ家重臣達だが、それとは対照的に先鋒を仰せつかったトクルガル家のイェルサスは、意外と平然としていた。いやむしろ、來たるべき時に期待している、とすら言っていい。
會議を終え、スーン・プーラス城を辭したイェルサスは、三名の従者を連れて城下の重臣達の居住區へ向かった。ミ・ガーワ宙域の星大名のイェルサスだが、以前にも述べたように実際はイマーガラ家の人質であり、本來の本拠地であるミ・ガーワ宙域のオルガザルキ城ではなく、イマーガラ家の重臣居住區に住まわされているのだ。
しかしその扱いは丁重であり、例えば居住區にあるイェルサスの屋敷などは、筆頭家老シェイヤ=サヒナンの屋敷と、遜ない規模のものが與えられていた。このイマーガラ家へ來て四年、ミ・ガーワ宙域の平定や、新興宗教のイーゴン教徒の叛鎮圧などで功を挙げ、堅実な働きでギィゲルトの信頼を得られるようになっていたのも、理由の一つである。
Advertisement
星空を見上げながら、徒歩で自分の屋敷へ向かうイェルサスは、視界に広がる星の海に、四年前に取引でウォーダ家からイマーガラ家へ引き渡される前、ノヴァルナと誓った事を思い起こした。
「強くなれ! 敵として會った時は、俺をビビらせるぐらいに!…そして味方として會った時は、俺が安心して背中を任せられるぐらいに!!」
その時のノヴァルナの言葉が、イェルサスの頭の中に響く。
“ノヴァルナ様は、僕を認めて下さるだろうか…”
ノヴァルナと戦う事で、トクルガル家當主に長した自分を認めてもらいたい…それは、武に生きる者ならではの矛盾した期待、高揚であった。このような點では溫厚なイェルサスもやはり、ひとかどの武人である。そうであるなら尚の事、全力で戦わなければならない、と思うイェルサスだ。
するとそんなイェルサスに、従者の一人が聲を掛けて來る。
「若殿、隨分とワクワクしておられますね」
その従者はイェルサスと同年代で、穏やかな言いをする年だった。
Advertisement
「分かるかい? ティガカーツ」
口元を緩めて応じるイェルサスが、ティガカーツと呼んだその若い従者は、ティガカーツ=ホーンダートと言い、まだ十五歳の若さながら、トクルガル家最強の稱號が期待されているBSIパイロットだった。
「もう四年も側に仕えていますからね…そのくらいは」
格的に大らかなところがあるのか、ティガカーツのイェルサスへの接し方は、どこか主従と言うより同格の友人のようでもある。
「どのような形であれ、ノヴァルナ様とまた會えるからな。きみも頼むよ、ティガカーツ。次の戦いが初陣だろ?」
イェルサスの言葉に、穏やかな笑みを返したティガカーツは、口調もこれも穏やかに告げた。
「お任せあれ」
イマーガラ家の上軍が5月1日に出発するという報は、4月の20日にはキオ・スー城のノヴァルナのもとへも屆いていた。
イマーガラ家の勢力圏となったミ・ガーワ宙域だが、それでもごく數、ウォーダ家に協力的な獨立管領が存在する。その中の最大勢力ミズンノッド家は、イマーガラ家の部に諜報部員を潛ませており、それが出発日と戦力規模を詳細に、主君のシン・ガン=ミズンノッドへと伝えて來たのだ。
もっともその諜報部員は直後に、イマーガラ家の特務保安部隊に捕らえられそうになり、自ら命を絶ったのだが。
諜報部員が手した報を、シン・ガン=ミズンノッドは惜しげもなく、ノヴァルナへ送った。それは四年前、イマーガラ家に滅ぼされそうになったミズンノッド家をノヴァルナが、自らも苦境の中でありながら、同盟の信義を通して救援に駆けつけて來た事により、ミズンノッド家から全幅の信頼を得るようになっていたからである。あまり表沙汰にはなっていないが、これはまさしく、ノヴァルナの信念の果だった。蒔いた種はやはり実る…という事であろうか。
そしてその當のノヴァルナと言えば、キオ・スー城にて―――
「はぁ!? てめ、ムシャピンクの行に、なんの文句があるんでぇ!?」
會議そっちのけで、『ホロウシュ』のジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムと、昨日観たばかりの『閃國戦隊ムシャレンジャー』第47話について、激論をわしていた。
いやフォークゼムだけでなく、これに関しては他の若手男『ホロウシュ』も巻き込んで大論爭となっている。爭點は“シン・ムシャピンク”への二段変が可能となったムシャピンクが、第47話で父である魔王ヤミ・ショウ・グーンと再び対峙した際、元の父親に戻るよう説得もせずに、戦いを仕掛けた事への是非だ。
「なくともあの場面に、ムシャピンクの説得シーンはあって然るべきです!」
フォークゼムの主張に、ヨリューダッカ=ハッチやイーテス兄弟、カール=モ・リーラ、ショウ=イクマが「そうだ、そうだ!」と同調する。それに対してノヴァルナはを反らせて反論する。
「バカてめぇ。あれは口に出さねぇところで、心を察しろって、視聴者に訴えてるんじゃねーか!」
ノヴァルナの言葉にナガート=ヤーグマーなど、その他若手男『ホロウシュ』が“うん、うん”と頷いた。だが不納得顔のフォークゼムがさらに反論する。
「視聴者と仰いますが、低年齢層の子供に、心を察しろというのは…」
「いやいやいや。おめーら、子供を舐めんなよ!」
すると同席しているキノッサがポロリと言う。
「…というより、時間の都合で編集されたんじゃ―――」
「ああっ、てめ。言っちゃならねー事を!」
一斉にキノッサに食って掛かる、ノヴァルナと『ホロウシュ』達。そこでキノッサ同様、同席しているノアが堪忍袋の緒を切らせた。
「あなた達、いい加減にしなさい!!!!」
叱りつけるノアもそうなのであるが、會議には當然、他の重臣達もおり、全員がノヴァルナ達の悪ふざけに呆れた顔を向けている。実は最近になって來て、公の場でのこういった悪ふざけがまた、増えているのだった。イマーガラ家上軍の出発日や、戦力規模がミズンノッド家からもたらされ、事態は切迫の度合いを大きくしているばかりだと言うのにである。
「ノ、ノヴァルナ様。そろそろ、本題に戻られては?…」
筆頭家老のシウテ・サッド=リンが、ベアルダ星人の熊のような顔を困させて申し出る。するとノヴァルナは、會議場の壁に浮かんでいるホログラムの時間表示に眼を遣って、「おう。もうこんな時間か」と言い、重臣達を見渡して告げた。
「んじゃ、そろそろお開きにすっか。みんなお疲れー」
「え?」
重臣達が呆気に取られるのも無理はない。「こんな時間」と言う表現を、會議開始から一時間で使用するのは、如何なものか…だからだ。
「ま…まだ一時間ほどしか、経っておりませんが?」
「一時間もやりゃ、充分だろ?」
「はぁ…いえ。しかし―――」
一時間と言っても、実際にイマーガラ家の侵攻に対して、何かが話し合われたのはその半分程度の時間で、取り決めなどは全く決定されていないままだ。シウテが引き留めようとするのも無理はない。しかしかつてのような傍若無人ぶりを見せ、ノヴァルナはあっけらかんと言い放つ。
「話し合いたけりゃ、好きにしな。俺達は引き上げさせてもらうぜ」
そして自分から席を立って、『ホロウシュ』とキノッサを引き連れ、さっさと會議場を出て行こうとすると、「待ちなさいよ。ノヴァルナ!」とノアも後を追う。いい面の皮は殘された重臣達だ。主君がいなければ何を話そうと意味をなさない。仕方なく自分達も解散し三々五々、自分達が戻るべき場所へ戻っていく。その道すがら口から出るのは、當然のこと、現狀に対する愚癡である。
「どうしたものかのう…」
「これでは話になりませぬなぁ…」
「このような事をしておる場合では、ないというのに…」
「オ・ワーリを統一され、しは大人になられたと思うておったが…」
「そう言われるな。イマーガラ家とのこれほどの戦力差を考えれば、投げ出したくもなるというもの」
「ううむ…これは、我等も覚悟を決めねばならんか…」
ただ重臣達のそんな愚癡をよそに、今の會議ではふざけ切っていたノヴァルナだが、背後で會議室の扉が閉まると、途端に真剣な表になって『ホロウシュ』達に命じる。
「よし。今日もマジで勝負だかんな。模擬戦闘だからって気ィ抜くんじゃねーぞ、てめぇら!!!!」
それに応える『ホロウシュ』達も、無論、真顔であった。
「意!!」
▶#03につづく
【完結】処刑された聖女は死霊となって舞い戻る【書籍化】
完結!!『一言あらすじ』王子に処刑された聖女は気づいたら霊魂になっていたので、聖女の力も使って進化しながら死霊生活を満喫します!まずは人型になって喋りたい。 『ちゃんとしたあらすじ』 「聖女を詐稱し王子を誑かした偽聖女を死刑に処する!!」 元孤児でありながら聖女として王宮で暮らす主人公を疎ましく思った、王子とその愛人の子爵令嬢。 彼らは聖女の立場を奪い、罪をでっち上げて主人公を処刑してしまった。 聖女の結界がなくなり、魔物の侵攻を防ぐ術を失うとは知らずに……。 一方、処刑された聖女は、気が付いたら薄暗い洞窟にいた。 しかし、身體の感覚がない。そう、彼女は淡く光る半透明の球體――ヒトダマになっていた! 魔物の一種であり、霊魂だけの存在になった彼女は、持ち前の能天気さで生き抜いていく。 魔物はレベルを上げ進化條件を満たすと違う種族に進化することができる。 「とりあえず人型になって喋れるようになりたい!」 聖女は生まれ育った孤児院に戻るため、人型を目指すことを決意。 このままでは國が魔物に滅ぼされてしまう。王子や貴族はどうでもいいけど、家族は助けたい。 自分を処刑した王子には報いを、孤児院の家族には救いを與えるため、死霊となった聖女は舞い戻る! 一二三書房サーガフォレストより一、二巻。 コミックは一巻が発売中!
8 188【書籍化決定】白い結婚、最高です。
沒落寸前の男爵家の令嬢アニスは、貧乏な家計を支えるため街の菓子店で日々働いていた。そのせいで結婚にも生き遅れてしまい、一生獨身……かと思いきや。 なんとオラリア公ユリウスから結婚を申し込まれる。 しかしいざ本人と會ってみれば、「私は君に干渉しない。だから君も私には干渉するな」と言われてしまう。 ユリウスは異性に興味がなく、同じく異性に興味のないアニスと結婚すれば妻に束縛されることはないと考えていた。 アニスはそんな彼に、一つだけ結婚の條件を提示する。 それはオラリア邸で働かせて欲しいというものだった。 (ツギクル様にも登録させていただいてます) ※書籍化が決定いたしました。12/9、ツギクルブックス様により発売予定です。
8 165クラス転移で俺だけずば抜けチート!?
毎日學校でも家でもいじめを受けていた主人公柊 竜斗。今日もまたいじめを受けそうになった瞬間、眩い光に教室中を覆い、気付いたら神と呼ばれる人の前に経っていた。そして、異世界へと転移される。その異世界には、クラスメイトたちもいたがステータスを見ると俺だけチートすぎたステータスだった!? カクヨムで「許嫁が幼女とかさすがに無理があります」を投稿しています。是非見てみてください!
8 53學園事件証明
整合高校の七不思議にこんな話がある。 誰も知らない不老不死の生徒が存在すると… 根倉で性格の悪いただの生徒である和鳥 野津(わとり のず)は學校で起こった數々の事件を推理する…
8 162気付いたら赤ん坊になって異世界に転生していた主人公。そこで彼は、この世のものとは思えないほど美しい少女と出會う。既に主人公のことが大好きな彼女から魔術やこの世界のことを學び、大量のチートを駆使して、異世界を舞臺に無雙する! ついでに化け物に襲われていたお姫様を助けたり、ケモミミ奴隷幼女を買ったりして著々とハーレムを築いていく。そんなお話です。 ※この作品は『小説家になろう』様でも掲載しています。
8 59俺が過保護な姉の前から姿を消すまでの話
過保護を超えた姉から俺が姿を消すまでの物語。 ”俺”と”姉”の他人には到底理解し得ない関係性。 結局理解出來るのは俺と姉だけだった。
8 159