《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#06
距離を詰めながらカージェスは口元を引き締める。全周囲モニターが映し出すノヴァルナ機の構えは、素人目で見ると隙だらけだった。だが戦闘経験を詰んで來たカージェスにはその“隙”が、迂闊に踏み込むと危険な“死の罠”であると見抜くことが出來る。解析データでは、『センクウNX』は機の複數個所に、『ホロウシュ』の斬撃でけたものと思われる被害判定が出ているものの、どれもが“かすり傷”程度にとどまっており、大きなダメージではない。
これを見たカージェスは機の武選択をクァンタムブレードに切り替え、殘っている配下の五機に命じた。
「全員で同時に仕掛ける。同士討ちを恐れるな!!」
ノヴァルナの戦闘力に気圧され気味だった『ホロウシュ』達は、カージェスの言葉に活力を得て「了解!」と力強く応答し、機を加速させる。対するノヴァルナも、不敵な笑みを大きくして縦桿を握り直した。様々な方向からタイミングを合わせて、突っ込んで來る六機の『シデンSC』。本當に相打ち覚悟だ。機同士がまともに激突すれば、いくら模擬戦闘でも命に係わる危険がある。だがノヴァルナは高まる危険にもご満悅だった。
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「おう。そうでなきゃ、イマーガラには勝てねぇぜ!!」
そう言い放ったノヴァルナは、右下方から迫るトーハ=サ・ワッツの機に超電磁ライフルの銃撃を浴びせる。同じタイミングで仕掛けた『ホロウシュ』の中で、サ・ワッツの機だけがやや遅れて、包囲の綻びとなった事を瞬時に見抜いたからだ。サ・ワッツが回避したところを一點突破し、反撃に移る…こう考えてノヴァルナは機を加速させる。
ところがそのサ・ワッツは、ノヴァルナが放った牽制のペイント弾を回避もせず、まともに喰らってしまった。頭部と部は青い塗料で染められる。
「なにっ!?」
不意を突かれたのはノヴァルナだった。ありきたりの照準での撃だったため、當然サ・ワッツが回避して來るものと思っていたからだ。かなくなったサ・ワッツの機に退避コースを阻まれ、『センクウNX』は自分の方が回避する事となった。その一瞬の遅れを逃さず、斬りかかって來るカージェスの『シデンSC』。
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「野郎!」
反的にノヴァルナは、『センクウNX』に持っていた超電磁ライフルを放り出させ、カージェス機の前に浮かべると機をスクロール。カージェスの視線が、放り出されたライフルの銃に移った一瞬の間に、斬り込んで來るクァンタムブレードとの間合いを外した。火花が散り、『センクウNX』の右上腕部を刃が掠める。
そこでカージェスはさらに踏み込んで、クァンタムブレードの第二撃。掬い上げるように下段からの一閃だ。しかしその時にはノヴァルナも、クァンタムブレードを起させており、カージェスの斬撃をけ流して、その勢いのまま機を一度、ニ度と後方へ捻り込ませた。シンハッド=モリンとジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムが、別々の方向から間合いを詰めて來ていたからである。二機の突撃を紙一重で躱すノヴァルナ。だがその時には、殘る二人―――タルディ・ワークス=ミルズとモス=エイオンの機も、ノヴァルナの眼前にいた。
「うおおおお!!」
「お覚悟ぉおお!!」
同時にび、同時にポジトロンパイクを斜め方向へ振り抜いて來る、二機の『シデンSC』の斬撃。上下左右どちらへも回避コースは無い。するとノヴァルナは得のQブレードを宇宙空間に手放し、瞬時に機を前進。振り下ろされて來るポジトロンパイクの両方の柄を、刃(やいば)の元で摑み上げた。
「ええッ!!??」
虛を突かれた聲を発するミルズとエイオン。機の出力の差にものを言わせた、ノヴァルナの強引な防だ。ただそれで危機を回避できたわけではない。両手を塞がれた『センクウNX』に、先にやり過ごされた三機が一斉に斬撃を仕掛ける。前からはカージェスがQブレードの刺突。背後からはモリンとフォークゼムの、ポジトロンパイクの上段斬りだ。
「やらせるかよ!!」
ノヴァルナはスロットルを全開にし、両手にミルズとエイオンのポジトロンパイクの柄を握ったまま、機の両腕を出力最大で後方へ振り抜く。『センクウNX』は前へ、ミルズとエイオンの『シデンSC』は後ろへ。すると後方へ振られたミルズとエイオンの機は、モリンとフォークゼムの機の繰り出す斬撃への盾になってしまった。
「!!??」
「うあっ!!」
咄嗟にパイクの軌道を変え、斬撃を浴びせる事は回避したものの、四機は『センクウNX』の背後で激しく衝突する。そしてその時には『センクウNX』は機を宇宙空間で、捻りを加えて一回転させ、前方から刺突して來ていたカージェス機も躱していた。しかもノヴァルナが機に捻りを加えたのは、無重力狀態の中に浮かべていた、自分のQブレードを摑み取るためである。
「おやりになる!!」
カージェスもさすがに反応は早く、即座に機を反転させて、位置を変えた『センクウNX』に斬りかかった。しかしその一撃は、ノヴァルナのQブレードに打ち防がれる。青いプラズマが(は)ぜる中、ノヴァルナは不敵な笑みで告げた。
「おめぇの得がパイクの間合いだったらやられていたが、惜しかったなぁ!!」
ノヴァルナにそう言われて、カージェスは苦笑いする。こちらのポジトロンパイクは、ササーラと戦った際に破壊されており、近接戦闘用の武は、パイクより短いクァンタムブレードしかなかったのだ。刺突を行うにもパイクよりほんの數秒時間がかかる。その數秒の差をノヴァルナにつけ込まれて回避されたのである。ただこれはもう、ノヴァルナの技量が凄まじいのであって、他の誰にも真似できないような技だった。
「流石ですな。しかし真剣勝負の場での、無駄話は命取り!」
「わかってるって!!」
カージェスの言葉に言い返したノヴァルナは、もう機を翻している。その元いた位置を、四発のペイント弾が通過する。モリンとフォークゼム、そしてミルズとエイオンからの銃撃だ。カージェスと切り結んだ狀態の『センクウNX』を狙ったのだが、ノヴァルナは無駄話をしながらも、そのきを見逃さなかったのである。
「もう一度全員で仕掛ける。散開しろ」
気を取り直してカージェスは部下の四機に命じた。上手く逃げられはしたが、今の仕掛けは有効だった、修正を加えれば仕留められると判斷する。
ところが散開し『センクウNX』に向かおうとしていたエイオンは、ヘルメットにあらぬ方向からロックオン警報が鳴ったと思った次の瞬間、バックパックに命中した青いペイント弾で、被撃破判定をけてしまった。
「はぁ!!??」
素っ頓狂な聲を上げるエイオン。近くにいたフォークゼムは事態を察知し、咄嗟に回避運にる。だが一発、二発と躱しはしたものの、三発目が腹部コクピットに命中、“撃破”されて宇宙空間に漂った。
「ランか!?」
センサーの反応を確認し、苦蟲を嚙み潰したような表のカージェス。ラン・マリュウ=フォレスタが三人の『ホロウシュ』の足止めを破って、ノヴァルナの援護に駆けつけて來たのだ。慌てて距離を置くモリンとミルズ。そこへ猛然とやって來たランの、紫にカラーリングされた『シデンSC』は、まずモリンの機を追撃し始める。「えええ。俺かよぉ…」とけない聲で逃げていくモリン。
「アッハハハハハ!」
それを見ながら、高笑いとともに言い放つノヴァルナ。
「時間切れってワケだ。カージェス!」
ジュゼ、キュエル、キスティスの三人もこのところ技量を向上させており、三人なら撃破は不可能でも、ランを一定時間足止めできると踏んでいたカージェスだったのだが、思っていたより早く片付けられたのは、ランもまた技量を上げていたという事だろう。
“いや…あるいは足止めされたのは、俺達の方かも知れん”
ランの技量を一番知っているノヴァルナなら、どれぐらい粘れば三人の足止めを打ち破って來るか読めるはずだ。そして自分と殘ったミルズだけでは、『センクウNX』と程なくモリンを仕留めて帰って來るはずの、ランには勝てない事を知っているカージェスは、やれやれといった顔でノヴァルナに告げた。
「降伏させて頂きます」
▶#07につづく
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