《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#15

ノヴァルナの評価を尋ねるギィゲルトに、カウンノンは淀みなく回答した。

「些か風変わりで個的ではありますが、話の通らない方ではありません。いえ…むしろその逆で、信をもって接すれば、義をもってお返しくださるお方です」

「ほぅ…それではノヴァルナ公は、我等が風聞するような、傍若無人な支配者ではないと申されるか?」

さらに問うギィゲルトにカウンノンは頷く。

「そのようなお方ではないのは、ギィゲルト様もご承知のはずと存じますが?」

逆に問われたギィゲルトは、ニタリ…と笑みを浮かべただけで、カウンノンに答える事無く椅子にを沈めた。この史の言いは正しい…と思う。ギィゲルト自がノヴァルナを、決して侮ってはいけない傑だと評価しているからだ。

ノヴァルナは師父であったセッサーラ=タンゲンをして、生涯の敵とじさせた若者であり、ギィゲルトもおよそ四年前に、煮え湯を飲まされている。

キオ・スー=ウォーダ家を征服したばかりのノヴァルナをい出し、シヴァ家とキラルーク家の友好協定締結の機會を利用して、ロンザンヴェラ星雲に艦隊合同演習の罠を張ったのだが、ノヴァルナはいに乗ったように見せかけて、演習が始まるや否や、さっさと逃げ出してしまい、待ち伏せのイマーガラ艦隊は星雲の中を、ノヴァルナ艦隊を探し求めて必死に走り回らされたのである。

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戦いにおいて、そしてそれ以上に政治において、ノヴァルナ・ダン=ウォーダは実利主義者だった。武人であれば罠であっても誇りのため、踏みとどまるであろう戦場を逃亡し、政治家であれば忌避するであろう、商船連合の敵との単獨渉を許可する…一見すると、巷で言われるノヴァルナの特徴、“傍若無人”“天”な行の一部に思えるこういったものこそが、ノヴァルナの本質だ。

「よかろう。恒星間易路の再開…好きになさるがよい。我が軍の艦艇には、商船連合所屬の船舶への襲撃を控えるよう約束する」

ギィゲルトは問い質したノヴァルナの人評に対し、カウンノンが正しく理解しており、全てを承知の上でここに來ている事を良しとした。“あのような暴君では渉もままならないため、イマーガラ家の勝利を確信して、ギィゲルト様にお會いしに來た”などと言うようなら、カウンノンを追い返そうと考えていたのだ。

深々と頭を下げ「ありがとうございます」と告げたカウンノンは、僅かながら笑みを加えてギィゲルトに続けた。

「立場上、“勝利を祈念致します”とは申せませんが、ギィゲルト様の武運長久を祈らせて頂きます」

オ・ワーリ宙域恒星間商船連合會頭、ファリエス・ラダ=カウンノンとの會見…その容は、ギィゲルトにとっても満足すべきものであった。

恒星間貨船などを襲って略奪せずとも、イマーガラ家の補給部隊は充分な資を搭載している。今回の遠征では、オ・ワーリ宙域の制圧を完了した後の事も考えており、輸送船舶だけでなく、ウォーダ家の統治下にあった各植民星系に対する、略奪行為も行わない事を決めていたのだ。それは無論、ノヴァルナを斃した後の事を考えてであり、新たに支配下となるオ・ワーリの領民達に対する、融和政策のためである。

これらの戦略は當初から、イマーガラ家の方針に含まれていたものであるが、ここで予め、オ・ワーリの商船連合と良好な面通しが葉ったのは、ギィゲルトとしては願ってもない事だ。幾何(いくばく)かの植民星を襲い、何隻かの貨船を拿捕し、知れた數の資を奪うよりかは、余程利益になるというものだった。

それにカウンノンは知ってか知らずか、重要な報をもたらしている。彼の言質にあった、ウォーダ家はオ・ワーリ宙域の全ての警備艦隊も、本拠地星ラゴンのあるオ・ワーリ=シーモア星系へ集結させているという話がそうだ。

これは上軍首脳部もある程度予測していた事ではあったが、現地の人間であるカウンノンから実際の報として聞いたのは大きい。警備艦隊は打撃艦隊より戦闘力は落ちるが、それでも數を揃えられると脅威となる。ノヴァルナはこれを予備戦力ではなく、主力の一部として使用する可能が高い。

カウンノンを乗せた恒星間シャトルが、去っていく様子を映し出すスクリーンを眺め、ギィゲルトはウォーダ家を守る外堀が、しずつ埋まっていくようにじていた………

▶#16につづく

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