《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#16

5月17日。イマーガラ家上軍オ・ワーリ=シーモア星系到達予定日の前日、ノヴァルナは重臣達を集め、防衛作戦の変更を命じる。第1から第12までの基幹艦隊を本拠地の第四星ラゴンではなく、第五星ベルムの公転軌道上に配置し、防衛ラインを構築。ラゴン周辺には星系防衛艦隊を集中し、外宇宙警備艦隊は星系に分散。遊撃部隊として側面からイマーガラ艦隊に攻撃を仕掛ける態勢にした。

この変更に重臣達は戸いを見せたが、それでもここまでのらりくらりだった自分達の若き主君が、ようやく重い腰を上げたのだ…と、即座に配置転換の指示を、各部署に伝える。今までの戦いのほぼ全てにおいて勝利し、ウォーダ家とオ・ワーリ宙域の支配を確立させた実績には、揺るぎないものがあったからだ。

ただ配置転換の命令を出した當のノヴァルナは、重臣達をキオ・スー城に置いたまま、自分も含めてこうとしない。総旗艦の『ヒテン』を含め、各基幹艦隊の旗艦も、ラゴンの衛星軌道上で待機を続けている。かと言って軍議を開くわけでもなく、開催されたのは重臣一同を集めた大夕食會であった。

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重臣達は、數時間後にはイマーガラ軍がこの星系に到達するとあって、夕食會を兼ねた、戦の最終打ち合わせが行われるものと思っていた。ところが夕食會が始まってもノヴァルナは全然、明日の戦の話はしない。

「まだ5月だってのに、暑いよなぁ」

「そういや、おまえん家。子供が出來たんだってな。祝わせてもらうぜ」

「海岸通りに新しいステーキの店が開店したんで、こないだノアと行って來たんだけど、旨くてなぁ。こんどおめーも行ってみろ」

…などと重臣達相手に世間話をするだけして、並べられた豪華な料理を平らげるばかりである。

すると午後八時過ぎ、ノヴァルナのもとに補佐のキノッサが、足音も靜かに歩み寄って來た。「失禮致します。ノヴァルナ様」と小聲で呼びかけるキノッサに、ノヴァルナは顔を近づけて、その耳打ちを聞く。

「商船連合のカウンノン史より連絡。易路再開の許可を得たそうです」

の瞳をキラリ…と輝かせ、キノッサの耳打ちを聞いたノヴァルナは、無言で頷いたあと、「ごっそさん」と言って席を立とうとする。

「と、殿。軍議はなされないのですか?」

慌てて引き留める筆頭家老のシウテに、ノヴァルナは不思議そうな眼を向けた。

「軍議? なにそれ?」

「え?…い、いえ。明日はイマーガラ軍が、この星系へ侵攻して來ますゆえ、その迎撃作戦の最終打ち合わせを…」

「なんで?」

すっとぼけ顔のノヴァルナと、困顔のシウテ。

「な…なんで、と申されましても」

「今日はただ、おめーらとメシを喰いたかったたけだ。これが一緒に喰う、最後のメシかもしんねーからな」

不敵な笑みとともに、縁起でもない事を平然と口にしたノヴァルナは、席を立って去り始める。

「で、では、最終打ち合わせは、無しにございますか?」

なおも問い質すシウテに、ノヴァルナは面倒臭げに応じた。

「最後は“臨機応変”。そういうこった!」

そしてさらに、幾分気な口調で付け加える。

「明日はそれぞれ、朝のに自分の艦隊へ戻っておくよーに。遅刻した奴には、罰ゲームだかんな。んじゃ、おやすみー」

私室に戻ったノヴァルナは、さっさと軍裝を解くとバスルームへ向かった。観葉植が多く植え込まれて、ちょっとした天然溫泉のような印象をける、広いバスルームの湯船に浸かったノヴァルナは、ふぅ…と深く息を吐いて、天窓から見える星空に眼を遣る。そして數日前に面談を求め、ある依頼をした商船連合のカウンノン會頭とのやり取りを思い起こした。

「いきなり押しかけて、済まない」

「いいえ。そのような…呼びつけて頂きましたら、いつでも馳せ參じますものを、このような所に、殿下ご夫妻自らお越し下さるとは、恐至極にございます」

キオ・スー宇宙港と隣接するオ・ワーリ宙域恒星間商船連合本部を、バイクツーリング途中にアポ無しで訪れたノヴァルナとノアに、二人を応接室へ案したカウンノンは、至って普通なノヴァルナの詫びの言葉に戸いながら応じる。

「実は、頼みたい事がある…」

ノヴァルナがカウンノンに依頼した話…それはつまりギィゲルトに會い、恒星間易路の再開を願い出て來てしい、というものだった。だがこの話の流れは、カウンノンがギィゲルトに告げたものとは微妙に違う。カウンノンはギィゲルトに対し、自分からノヴァルナに易路再開を願い出た、と言っていたのだ。

ノヴァルナの要請にカウンノンは承諾はしたものの、はじめは良い顔はしなかった。許可を得ても、実際に易を再開させる事に不安があったからで、會頭という立場であれば當然、必要とされる慎重さである。

しかしノヴァルナはまた奇妙な事を言う。実際に貨船団などは、かさなくていい、許可だけ貰って來てくれ…と。

無論、宙域を支配するウォーダ家の當主の言葉であるから、命令とあらば従わねばならない。だが、ノヴァルナの“頼み事”という形の要請が、カウンノンに好印象を與えていた。それに元々、カウンノンはノヴァルナを悪くは思っていない。それは以前にも述べた、ノヴァルナがノアとの結婚式を、カウンノン達アントニア星人の発祥の星で、彼等の古式に則って挙げたためだ。あれでノヴァルナは、オ・ワーリ宙域のアントニア星人のコミュニティから、支持を得られるようになっていたのである。

「一つ、お聞かせ頂きますか?」

カウンノンか問い掛けると、ノヴァルナは無言で頷く。

「これは…殿下が勝利されるための方策ですか?」

「ああ…」

ノヴァルナの真顔での返答に、カウンノンは穏やかな笑顔を見せて応じた。

「わかりました。必ずやギィゲルト様との渉を、纏めて參りましょう」

ノヴァルナは「助かる」と行ってカウンノンに頭を下げ、「それからもう一つ」と続ける。「どうぞ…」と促すカウンノンにノヴァルナは、真剣な表のまま答えた。

「ラゴンの衛星軌道上に置いてある、船を何隻か貸してくれ」

▶#17につづく

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