《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#19

皇國暦1560年5月19日 皇國標準時間00:09―――

オ・ワーリ=シーモア星系、第十星ザナルの公転軌道上を遊弋する仮裝巡航艦『シー・ナーノア』號では、臨時に設置された戦闘艦用長距離センサーのモニター畫面を見詰める、民間徴用の監視員の男が大きな欠をしていた。

「おい。真面目にやれよ」

をした監視員の隣に座る別の男が、見るからに眠そうにしている監視員に注意する。「へっ。堅野郎だねぇ…」と、茶化すように応じる欠をした男。彼等をはじめ、この『シー・ナーノア』號の乗組員はほとんどが、ウォーダ軍に徴用された民間の船員であった。もっとも徴用と言っても半ば志願制であり、高い臨時手當を目的に集まった船員なのだが。

またこの『シー・ナーノア』號も仮裝巡航艦とされているが、実態は先日ノヴァルナが商船連合會頭のカウンノンと渉して借り上げた、タンカーの一隻であり、哨戒用に戦闘艦用長距離センサーを一時的に設置、船倉に自己防衛用の宙雷艇を三隻格納しているだけの代だった。

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しかし限定的な能であっても、戦闘艦用長距離センサーを搭載しているだけはあって、哨戒能力は駆逐艦や哨戒艇と遜ない。ノヴァルナはこの“哨戒用仮裝巡航艦”をシーモア星系に広く配置させるため、カウンノンにギィゲルトとの易路再開の渉を依頼し、星ラゴンの衛星軌道上に置かれていた貨船や、タンカーを借り上げたのである。

仮裝巡航艦達は本來が恒星間貨船や恒星間タンカーであるため、ギィゲルトの承認のもと、恒星間商船連合から発給された易許可証を保持し、イマーガラ側に見つかっても、怪しまれる可能を下げていた。

するとその『シー・ナーノア』號の長距離センサーが突然、モニター畫面の隅に探知反応を映し出す。素人目には見落としそうな小さな反応だが、それが瞬く間に數を増やしていくと、本職の電探科員でなくとも気が付くというものだ。

「お…おい。ちょっと、これ!―――」

今しがた欠をした男が真顔になって、モニター畫面に指を差す。隣に座る男は顔を引き攣らせて、インターコムのスイッチをれ、寢臺にいるウォーダ家の兵士を呼び出した。ウォーダ家が徴用した宇宙船であるから當然、民間の船員ばかりではなく、軍務に関しては指揮を執る士が同乗している。

「おおい! 起きろ軍人さん。えらい事だ!!」

監視員がウォーダの士を待つ間にも、長距離センサーの反応は増え続け、同じモニターを設置している船橋もの危険をじたのか、船の針路を変え始める。

仮裝巡航艦『シー・ナーノア』號が接したのは、イマーガラ家上軍の本隊であった。だがそれより先、『シー・ナーノア』號の探知圏外からオ・ワーリ=シーモア星系に侵した艦隊がいる。イェルサスが指揮する四個の、トクルガル家宇宙艦隊である。ギィゲルト・ジヴ=イマーガラから先陣を命じられたイェルサスの目的は、第七星サパルの宇宙要塞『マルネー』の攻略だ。

ノヴァルナという人間を知るイェルサスは元來の用心深さを見せ、作戦の設定時間より早く星系へ侵していた。敵として対峙するならば油斷ならないノヴァルナは、こちらのタイムスケジュールも読んでいるに違いないと思った結果である。

このイェルサスの判斷は功を奏し、仮裝巡航艦による監視網が完される前に哨戒ラインを超えたトクルガル艦隊は現在、第八星の公転軌道を通過しようとしている。

トクルガル家の旗艦は『アルオイーラ』。ノヴァルナの『ヒテン』やギィゲルトの『ギョウビャク』のような総旗艦級の大型戦艦ではなく、通常の艦隊級戦艦であり、現在のイマーガラ家に対するトクルガル家の立場を表していた。

「上手く哨戒ラインを抜けられましたな。これなら『マルネー』に対する奇襲も、充分に可能でございましょう」

旗艦『アルオイーラ』の艦橋にいるイェルサスに、第三艦隊を任されたテューヨ=オークボランからのホログラム通信がる。それをけるイェルサスは、ノヴァルナと過ごしていた時代より幾分、ふくよかさを増していた反面、眼には鋭いものを宿していた。

この時、二十歳になっていたイェルサスは、この若者にしか為し得ない、義兄とも呼べる存在の持つへの同調から、オークボランの言葉を否定した。

「いや…ノヴァルナ様であれば、僕のやる事は全て…お見通しであろう」

ノヴァルナが眠っているベッドの枕元のインターコムが鳴り響いたのは、午前四時の夜明け前の事である。

瞼を閉じたまま応答スイッチをれ、「なんだ?」とノヴァルナが問うと、相手は事務補佐のトゥ・キーツ=キノッサだ。

「第七星サパルの宇宙要塞『マルネー』より電。“トクルガル家宇宙艦隊接近、コレヨリ戦闘態勢ニル”との事です!」

このキノッサの言葉を聞き、ノヴァルナは“イェルサスか!”と即座にじ取ると、カッ!…と雙眸を見開いた。

そして勢いよく上を起こしてインターコムのスイッチを切り替え、居住區の正面に設けられている『ホロウシュ』の詰所を呼び出す。出たのは當直の一人ナガート=ヤーグマーである。ノヴァルナはヤーグマーに燃えるような瞳で告げた。

「出撃する! 皆に知らせ! 俺のパイロットスーツを持って來い!!」

【第23話につづく】

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