《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#02

第一種戦闘配置のアラーム音を聞いて跳び起き、慌てて用意を整えた殘りの『ホロウシュ』や、各艦隊の司令達が作戦指令室にようやく參集した時には、ノヴァルナはもう『クォルガルード』に乗り込んで、二隻の僚艦と共にラゴンを離れようとしていた。

昨日の夕食會の最後でノヴァルナは各艦隊司令に、「明日は朝のうちに、自分の艦隊に戻っておくように」とは言っていたが、皆まさかノヴァルナ自に抜け駆けされるとは思っておらず、不意を突かれた形だ。

そうとは知らない家臣達が、軍裝のれを直すのもそこそこに指令室へ駆け込んで來ると、そこにいたのは司令席に座るノア姫である。両脇にパイロットスーツ姿のカレンガミノ姉妹を控えさせたノアは、一人または數人の家臣が來るたびに、「ご苦労様。夫はもう出陣しました。あなたも持ち場について下さい」と、丁寧に聲を掛けていく。

我儘勝手な主君はともかく、誠実なノア姫からそのような聲を掛けられ、出遅れた者達は恐の極みで自分の旗艦や、搭乗機へ向かった。そんな折、哨戒用仮裝巡航艦の『シー・ナーノア』號から、イマーガラ艦隊発見の報告が屆く。第七星サパルの宇宙要塞『マルネー』を攻撃しようとしている、トクルガル艦隊とは全く別の位置、第十星ザナルの公転軌道上での接敵だ。探知しただけでも千隻を超える規模である事から、こちらが本隊に違いない。

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またそれにやや遅れ、ウォシューズ星系付近にも敵の二個艦隊。さらにイマーガラ側の支配下となっているオーダッカ星系へ向かっている、敵の一個艦隊発見の報告もって來た。

ここに至り午前五時三十分。ノアは欺瞞行を兼ねてノヴァルナの名で、ウォーダ軍総司令部から全部隊宛の通達電を発する。

“敵艦隊発見ノ報ニ接シ、宇宙艦隊ハタダチニ出撃。コレヲ撃滅セントス。本日太風穏ヤカナレドモ電磁波強シ”

これをけて自分の乗艦に辿り著いた艦隊司令達は、各々の指揮する艦隊へ向けて、座乗する旗艦を急がせる。

「後れを取るな! 急げ急げ!」

「これ以上遅れると、あとで若殿の雷が落ちるぞ。全速力だ!」

座乗艦の床を蹴って、まるで自分の乗る馬に、鞭でもれているかのように急かせる、各艦隊の司令。そしてその慌てっぷりに拍車をかけているのが、ノヴァルナに取り殘された『ホロウシュ』達である。

「はぁ!? 『ヴァザガルード』も『グレナガルード』も、居ねぇだと!?」

シャトル格納庫の中でいきり立ってキノッサに詰め寄るのは、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチだ。主君と生死を共にする親衛隊の『ホロウシュ』が、當直だった五人とランを除いて置いてけぼりにされるなど、あってはならない事だから仕方はない。

キノッサはハッチだけでなく、居並ぶあとの『ホロウシュ』達も見渡し、ノヴァルナからの指示を伝える。

「皆様方におかれては、第1艦隊の空母に搭乗し、こちらのきに合わせて戦闘に參加されたし。との事でございます」

「なんだその適當な指示は?」

不納得顔で文句を言うハッチ。だがその肩に背後から手を置き、宥めるように言う者がいる。『ホロウシュ』の事実上の指揮、ヨヴェ=カージェスだ。

「今回の戦いは、最初から第1艦隊の指揮をナルガヒルデが執る。あいつなら上手くやるだろう」

ノヴァルナの懐刀とも言える武將のナルガヒルデ=ニーワスは、通常は第2戦隊司令を務めており、ノヴァルナが『センクウNX』で出撃した際などに、次席司令として艦隊指揮を執る事になっている。だが今回は最初から、ノヴァルナは『クォルガルード』で出撃したため、ナルガヒルデが指揮を執るのだ。彼にすれば、途中から指揮を引き継ぐよりむしろ、やり易いと思われる。

「全てはノヴァルナ様の意のうち。お前が當直であったら、おまえを連れて行かれただろうよ」

そう言いながら最後にやって來たのは、ナルマルザ=ササーラだった。この厳ついガロム星人の『ホロウシュ』は、ノヴァルナのボディガード役でもあり、この男まで殘されているとあっては文句も言えない。

「よし、揃ったな。発進するぞ!」

カージェスの號令で、『ホロウシュ』と彼等の機を乗せた四機のシャトルは、キオ・スー城を離れた。その中で座席に座るササーラは、今しがたハッチにああは言ったものの、心では舌打ちを繰り返している。それはノヴァルナの出撃に際して、ラン・マリュウ=フォレスタに出し抜かれたからだ。ランはこれある事を予想し、部屋に戻らずに格納庫のシャトルで仮眠をとって、ノヴァルナを待っていたのであった。そういう周到さは、ランの持ち味と言える。

そして『ホロウシュ』達を乗せたシャトルが向かったのは、総旗艦『ヒテン』ではなく、同じ第1艦隊に所屬する宇宙空母の『リューダス』であった。これはある意味、ノヴァルナの現実に即した判斷である。『ヒテン』にノヴァルナが乗らないのだから、親衛隊の護衛も必要ないという事だ。

そんな彼等を喜ばせる事が、『リューダス』で待ちけていた。かつての『ホロウシュ』筆頭トゥ・シェイ=マーディンが、皇都キヨウから駆け付けて來ていたのである。これから命を懸けるであろう『ホロウシュ』達への、ノヴァルナからのサプライズだった。

「遅いぞ、みんな!」

空母『リューダス』の格納庫で出迎えたマーディンに、ササーラやカージェスをはじめ、『ホロウシュ』達が一斉に駆け寄る。

「マーディンか!!」

「マーディン様!!」

「元気そうだな。ササーラ、それにみんな」

トゥ・シェイ=マーディンはおよそ四年前、表向きは命令違反を犯してウォーダ家を出奔した事にして、実際は皇都キヨウに赴き、ノヴァルナが報の収集を行っていた。それがこのウォーダ家の一大事に、しでも力になるべく帰って來たのである。

マーディンはササーラ、カージェスとガッチリと握手をした。するとその時、彼等の乗る空母『リューダス』がき出す。第1艦隊が出撃するのだ。マーディンは集まって來た『ホロウシュ』達を見渡して、「ランはどうした?」と尋ねる。それに対しササーラは、苦笑い混じりで答えた。

「ノヴァルナ様と一緒だ…出し抜かれた」

「ハッハハハ…アイツらしいな」

「それで、マーディン。おまえの『シデンSC』は?」

カージェスの問いに、マーディンは格納庫の奧の方を指差して応じる。

「もちろん搭載してる。ここに來る途中で、『ムーンベース・アルバ』に寄って、保管してあったのを領した」

「じゃあ、おまえが指揮を執ってくれるのか?」

カージェスが尋ねると、それが半ば本気で口にしたものと気付いたマーディンは笑い聲を上げ、冗談口調で「甘ったれんな」と言う。

「俺はもう四年近く、実戦から遠ざかっているからな。遊撃隊として、好きにさせてもらうさ」

マーディンはそう言い放つと、笑顔で続けた。

「どうせみんな、またノヴァルナ様に振り回されて、朝メシもまだだろ。士食堂でどうだ? 俺の奢りだ」

無論、士食堂で料金を取られるはずも無いが、相変わらずのマーディンの言いに、浮足立ち気味であった『ホロウシュ』達も、落ち著きを取り戻していった………

▶#03につづく

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