《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#03
ただこの時のノヴァルナの抜け駆けによって生じた、ウォーダ軍の混はイマーガラ軍に対して、ある副次効果をもたらした。複數の哨戒駆逐艦が、星系に飛びっているウォーダ軍の通信を傍した結果、イマーガラ軍司令部はノヴァルナ直卒の第1艦隊を含む迎撃艦隊の出撃に遅れが生じ、統一も欠いていると判斷。これはイマーガラ艦隊の発見が遅れたための、混ではないかと推測したのだ。
だがそれはノヴァルナが第1艦隊の総旗艦、『ヒテン』に搭乗しているものと考えているからで、『クォルガルード』に乗るノヴァルナ自が、自軍に混を引き起こしながら、単獨行をしているとは思っていなかったのである。
オ・ワーリ=シーモア星系へ侵した、イマーガラ上艦隊の司令部では、參謀の間に、ウォーダ家の迎撃部隊の初が遅れているらしいというこの報に、安堵の空気が流れていた。大きな戦力差があるとはいえ、なんといってもウォーダ家の本拠地星系へり込んだのだから、どのような仕掛けが待ちけているか分からないからだ。
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イマーガラ軍総旗艦『ギョウビャク』の、艦橋後方に設置されている作戦司令室では、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラと參謀達、さらに通信ホログラムスクリーンを通した各艦隊司令が円卓に集まっていた。円卓の中央には、オ・ワーリ=シーモア星系の巨大なホログラムが映し出され、星系に散開させた哨戒駆逐艦と先行偵察艦隊から得た、ウォーダ軍の配置と行報が表示されている。その表示された報には、通信傍によって判明したものもあった。
その表示された報によると、イマーガラ家の迎撃部隊主力は第五星公転軌道上に、立ち塞がる形で帯狀に展開している。だが通信傍では、各艦隊の旗艦は総旗艦『ヒテン』を含み、首都の第四星ラゴンを発進したばかりで、まだ指揮下の艦隊と合流も果たしていないという狀況だった。
「これは…ウォーダ側の索敵態勢に、想定外の不備があった…という事か?」
通信スクリーンに映る艦隊司令の一人が、怪訝そうに言う。
「敵の自哨戒プローブ網は、我が先行艦隊が寸斷し、この本隊の所在は摑めずにいたとは思うが…迂闊過ぎるな」
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別の艦隊司令も首をかしげる。それに対し意見を返したのは、ギィゲルトを取り巻く參謀の一人だった。
「哨戒部隊からの報告では、ウォーダ軍は恒星間打撃艦隊の後方に、星ラゴン直掩のため星系防衛艦隊を配置。さらにオ・ワーリ宙域の、全ての恒星間警備艦隊を呼び寄せて、予備戦力として星系に複數配置している事が確認されています」
その參謀の言葉に合わせ、シーモア星系のホログラムに表示されている、ウォーダ軍警備艦隊の表示箇所が點滅する。それは十個存在し、八つは巡航艦と駆逐艦の宙雷戦隊規模だが、殘り二つには巡航戦艦や軽空母も含まれて、それなりに危険な戦力のようだ。參謀はそれらを指差して言葉を続ける。
「これらの予備戦力は本來、自哨戒プローブ網を寸斷された場合の、埋め合わせとして行する艦船です。それを搔き集めたのですから、ウォーダの索敵能力が低下したのだと思われます」
參謀の推測はそれなりに筋は通っている。だがそこに重臣の一人モルトス=オガヴェイが、どこかのんびりとした調子で口を挾んだ。
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「ふむ…分からん話ではないが。あのオ・ワーリの“大うつけ”殿が、それほどまでに迂闊であるかな?」
多なりともノヴァルナの為人(ひととなり)を知るモルトスは、司令部の參謀達と違って、ウォーダ軍迎撃部隊のこの初の遅れは、ノヴァルナ流の演技ではないかとじていたのだ。これと同じように、ノヴァルナのきを侮る事なかれという容の伝言が、別隊としていている筆頭家老シェイヤ=サヒナンからも、ギィゲルトの元へ屆いている。ただモルトスが喚起する懸念に、參謀達は思うところを口にして反論する。
「オガヴェイ様のご意見は尤もではありますが、些か慎重論に過ぎるのではないでしょうか?」
「そうです。古來の兵法にも“兵は拙速を尊ぶ”とあるように、ここは一気に全軍で押し出し、敵の防衛ラインを突き崩すべきではないかと」
「わたくしも敵の索敵能力が低下している以上。ここはこの機を逃すべきではないと、判斷致します」
このあたりが司令部付き參謀達と、モルトスら古參の武將―――基幹艦隊司令との、見解の微妙な齟齬であった。イマーガラ家第1艦隊は実のところあまり最前線へ出る事が無く、司令部付き參謀達は、実戦経験が富なモルトスやシェイヤのように、“戦場の匂い”を嗅げる能力を養えられていないのである。
“まぁ、それも分からんでもない…”
…とモルトスは思う。司令部付きの參謀達はまだ若く、戦意は旺盛である。なぜなら第1艦隊というエリート部隊に配屬されながら、大々名イマーガラ家の主君直卒艦隊という事もあって、実戦に出る事はほとんど無い。したがって自分の能力を発揮する場に恵まれず、実戦での功績という評価を得られないまま、日々を過ごすだけとなっているのだ。
しかも通常、こういった參謀達は參謀長クラスでもない限り、貴族に次いで様々な特権を持つ武家階級の『ム・シャー』ではなく、士學校卒の民間人が登用される事が一般的であった。民間人は士學校を卒業し、艦長または參謀から艦隊副司令または戦隊司令を経て、やがて艦隊司令や基地司令といった將となる事で、『ム・シャー』の地位を得る事が出來るのである。
そういった立出世を求める若者達にとって、実戦の無い第1艦隊司令部付き參謀である事は、出世レースに後れを取る事でもあるのだ。そうであるからこそ若い參謀達は、今回の上遠征を、手柄を立てる好機と捉えている向きがある。モルトスの思いは、このような若い參謀の心を理解してのものだったのだ。
ただそのような私事のみを反映されてばかりでも困る。そこでモルトスは主君ギィゲルトの判斷を仰ぐべきだと考え、言葉にした。
「ここは一つ、お館様のお考えをお聞かせくだされ」
モルトスに水を向けられ、ギィゲルトは懐から扇を取り出して、パチリ!…と音をさせながら僅かに開く。扇を弄ぶのは自分の意見を開陳したり、思考を巡らせながら言いをする時のギィゲルトの癖である。
「まず…我は、ウォーダ軍の索敵能力は低下していない、と思う」
「!?」
いきなり自分達の見解を覆され、參謀達は“えっ!?”といった表で、満の主君を振り向く。鈍重そうな型のギィゲルト・ジヴ=イマーガラだが、星大名としての能力は申し分ない。トーミ/スルガルムそして事実上のミ・ガーワという、三つの宙域を統治する者だけあって、狀況把握と観察眼は余人の追隨を許さない。
「過日。この宙域に進した直後、我はオ・ワーリ宙域恒星間商船連合の會頭を名乗る、カウンノンなる史の訪問をけた。話の容は省略するが、恒星間易路の再開を要求して參ったので、それを認めたわけであるが、我はその易船こそがウォーダ軍の索敵船の役割を果たしている、と見ておる」
ギィゲルトはそう言うと手元のコンソールを作し、オ・ワーリ=シーモア星系のホログラムに、商船連合へ許可した恒星間貨船やタンカーの船団の位置反応を追加する。
ギィゲルトが「この通りよ」と告げながら薄笑いを浮かべると、シーモア星系に大量の貨船の位置表示が追加された。その數は約四十隻。一隻または數の船団に分かれてはいるものの、その全てがイマーガラ家上軍の、針路方向に散らばっている。
「これらの貨船やタンカーは皆、ノヴァルナめの息のかかった、哨戒船に違いあるまい」
それを聞き參謀達は一様に、意表を突かれたような表をした。
「なんと!?」
「まことにございますか!?」
壯の參謀達の反応に、幾人かの艦隊司令が通信ホログラムスクリーンの中で、“まだ若いな…”といった眼をする。だがそれは決して非難の視線ではない。経験値から來る差を見下す者は、その者自がまだ未であることの証明だ。
「うむ。あのようなタイミングで、易路再開を我に申しれに來るなど、カウンノンなる史…怪しき事この上あるまいて」
「それと分かっておられながら、許可をお出しになられたのですか?」
參謀の問いにギィゲルトは半開きにした扇で、口元を隠して応じる。
「これも政治よ」
「政治…でありますか?」
「カウンノン史も、我に易船の正を知られる事を分かって、やって來たに違いあるまい。そして我もそれを知った上で許可を出した…つまり誼を通じたという事じゃ。これでノヴァルナめを滅ぼしても、オ・ワーリの商船連合は我等に協力を惜しみはしまい」
ギィゲルトのしたたかな計算を聞かされ、政治には不慣れな壯の參謀達は「おお…」と口々に嘆息をらした。ギィゲルトは口元を扇で隠したまま命じる。
「敵の索敵能力は落ちてはおらぬ。ウォーダ軍が浮足立っておるように見えるは、ノヴァルナの罠じゃ。先走って陣形をすは、その罠に飛び込むだけ。小細工は無用にて當初の予定通り、戦力差をもってウォーダを圧し潰す」
ここ一番でノヴァルナの意図を見抜く辺りが、ギィゲルトという大々名の恐ろしさであろう。だがノヴァルナとギィゲルトの腹の読み合いは、まだ始まったばかりであった………
▶#04につづく
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