《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#04

皇國暦1560年5月19日 皇國標準時間05:00―――

オ・ワーリ=シーモア星系、第七星サパルの衛星軌道上に浮かんでいた宇宙要塞『マルネー』は、星周回から離し、接近するトクルガル家の宇宙艦隊に正対していた。

宇宙要塞『マルネー』は約5千メートル四方、高さ150メートルの、六角形の構造を三段重ねにした要塞本の周囲に、大口徑砲臺を備えた12基のシールド衛星を配置する、シーモア星系最大の宇宙要塞である。これと同型の要塞が第五星ベラムに『ナガンジーマ』として設置されており、この『マルネー』と合わせ、シーモア星系防衛の要となっている。

「全火撃準備完了。機発進準備完了。いつでもいけます」

指揮の報告に、『マルネー』の守將ジュモル・ディグ=ザクバーは大きく頷いた。

「充分に引き付けてから、要塞主砲を一斉撃。しかる後に各セクターごとに防火砲を開け。機部隊は別命あるまで待機」

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指揮が「了解」と応じると、BSIパイロットでもあるジュモルは、「機出撃の際は自分も出る」と告げた。第二星ビマスの宇宙要塞、『ゼンショルス』に配置された弟のシンモールと共に、かつてはカルツェ支持派であった自分達の寢返りを、快くれてくれたノヴァルナに、今こそその恩を返す時と心に誓っていたからだ………

一方、『マルネー』に迫るトクルガル艦隊でも、旗艦『アルオイーラ』の中で當主イェルサスが気持ちを新たにしている。“イェルサス=トクルガルここにあり”というところを、恩人であるノヴァルナ様に見せつけなければならない…と。

そして同時に武人とは度し難いものだ…とも思う。

兄同然に慕って來た、恩人の窮地を増すような真似を、“恩返し”だとするこの価値観こそ、武人ならではの非常識な価値観であった。しかもそれに喜びをじてしまう自分がいる事が、なんとも“度し難い”………

「全艦隊攻撃準備、完了であります」

速足で歩み寄って來た艦隊參謀の報告に、イェルサスは丸顔を僅かに頷かせ、穏やかな聲で命令を下す。

「艦隊を散開させて。要塞主砲の直撃を出來るだけ避けて、要塞に迫。まずシールド衛星の一つに、集中攻撃を仕掛けるように。敵の防は堅いけど、一點にを開けて、そこから突き崩していこう」

するとその直後、艦前方の宇宙要塞『マルネー』を見據えていたイェルサスは、ふと予めいたものをじた。“この戦いが終わったあとで”ノヴァルナとまた、直接顔を合わせる日が來るという予だ………

主君イェルサス=トクルガルが、宇宙要塞『マルネー』との戦端を開いたのと同じ頃、そこからおよそ二百年離れたウォシューズ星系でも、戦闘が開始されていた。イマーガラ家の筆頭家老シェイヤ=サヒナン率いるイマーガラ軍第3艦隊と、トクルガル家の重臣タルーザ=ホーンダート率いるトクルガル軍第2艦隊が、ウォシューズ星系に展開していたウォーダ一族の艦隊と、戦闘にったのである。

ウォーダ軍の指揮は艦隊指揮をシェルビム=ウォーダ。そしてその甥にあたるダムル=イーオが、BSI部隊の指揮を執っている。

彼等はナガン・ムーランという植民星系を領地とする、ウォーダ一族の獨立管領で、本來は舊キオ・スー系の筋であったが、ノヴァルナのいたナグヤ=ウォーダ家に早くから接近し、友好関係を結んでいた。そのためノヴァルナのオ・ワーリ統一の際、領地安堵の他にウォーダ宗家に対する納稅額に大幅な優遇を得て、家勢を上げる事に功したのだった。

そこからさらに、ノヴァルナ統治の新たなウォーダ家の中で、より重要な地位を得たいと考えたシェルビムは、優遇された納稅額の差益の大半を軍事費に回して、最近になり、ようやく恒星間打撃艦隊の編制と整備を完了した。

またシェルビムの甥のダムル=イーオはBSIパイロットとして優秀で、叔父が恒星間打撃艦隊を編制する以前から、BSHO『タイゲイDC』を駆って、ノヴァルナ軍に參加しており、ノヴァルナが謀反を起こした弟カルツェと戦った“イノス星系會戦”やその後の、領域境界付近で発生したイースキー軍との小競り合いで、戦果を挙げている。

「敵艦隊家紋『三つ銀河』及び『丸に三つ彗星』。イマーガラ軍シェイヤ=サヒナン殿の第3艦隊及び、トクルガル軍タルーザ=ホーンダート殿の第2艦隊!」

オペレーターの報告で旗艦に座乗するシェルビムは、口元を引き締めて呟いた。四十代半ばのややふくよかなこの男の顔には、がある。

「二個艦隊…しかもシェイヤ=サヒナンか」

イマーガラ家筆頭家老でもある武將シェイヤ=サヒナンの名は、周辺宙域の武人でその名を知らぬ者は無い。冷靜沈著にして苛烈、そのうえBSIパイロットとしても、その技量はイマーガラ軍隨一と言われていた。

するとそんなシェルビムのもとに、甥のダムル=イーオから通信がる。

「叔父上! そう気をみなさるな!」

「おお。ダムルか!」

ダムル=イーオはこの時22歳。自らの才を恃(たの)み、若武者として一番気盛んな時期である。

「我と我が機『タイゲイDC』が必ずや、サヒナン殿を戦場へ炙り出し、仕留めて見せましょうぞ!」

甥っ子の力強い言葉に、シェルビムは「うむ。頼んだぞ」と応じる。だが時を同じくしてシェイヤ=サヒナンではなく、新たなが輝こうとしていた。長大なポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』を手にした、悍なスタイルのBSHOが、母艦からの発進に臨んで通信をれる。

「ティガカーツ=ホーンダート。『カヅノーVC』、出撃する!!」

▶#05につづく

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