皇國暦１５６０年５月１９日 銀河皇國標準時間１4：３８―――

ウォーダ軍第４艦隊第５戦隊戦艦『オストロード』で、その発は突然起きた。

戦場を絶え間なく飛びう、主砲の反子ビームや対艦導弾。そしてＢＳＩユニットなどの機兵は一見すると無秩序のようだが、実際にはそれらが狙っている艦では、自分を狙って來る攻撃は、エネルギー反応や照準センサーの照反応を捉えて、全て察知できている。

ところが戦艦『オストロード』で起きたその発には、それらの事前反応が全くなかったのである。何の警報も無いままに、艦全を激震が襲う。

「左舷第３主砲制室及び、第２傍通信分析室付近で発発生！」

「第１８から第２２區畫まで喪失！」

予期していない発と大損害に、それを報告するオペレーターの聲も、自然と上った。ダメージコントロールを擔當する副長が、眉を吊り上げて問い質す。

「被弾したのか!!　監視班、被弾予測警報はどうした!!??」

「それが、反応は何も!!」

「反応無しだと!?　事故だとでも―――」

その言葉を副長が言い終わる前に、『オストロード』の艦橋は発の真っ白なに包まれた………

「一番観測艦より報告。當機第二弾、目標敵戦艦艦橋付近に著弾。行不能に陥った模様」

通信も兼任する機関士の言葉に、ギィゲルトは「うむ…」と頷く。この二人に機の縦を擔當する縦士を加えた三人が、大型ＢＳＨＯ『サモンジＳＶ』の運用メンバーだった。

艦長と副長もろとも艦橋を破壊され、指揮機能を失った『オストロード』が、初弾の命中した個所から、さらに大きな発を起こして引き裂かれていく景には目もくれず、ギィゲルトは次の目標の選定を始める。

「試し撃ちは、これでもうよかろう。敵の第１艦隊を狙撃する」

「は…」

ギィゲルトの言葉に応じ、縦士は小星デーン・ガークのクレーターの縁で、銃を支えさせていた『サモンジＳＶ』の超大型ライフル、『ディメンション・ストライカー』の向きを僅かに変えた。

『ディメンション・ストライカー』は超電磁ライフルの一種であるが、撃方式は通常の超電磁ライフルとは大きく違っている。通常の超電磁ライフルは、銃の超電磁コイルが重力子と反転重力子の互導を生じさせ、亜速まで加速した銃弾を発する方式だが、『Ｄ‐ストライカー』は銃に、さらに強力な超電磁導を発生させて重力子を高度圧、ワームホール狀態にして銃弾を超空間転移させるのである。

銃撃方式は原理的には、恒星間航行に使用する超空間航法のＤＦドライヴと同じなのだが、宇宙空間へ超高圧した重力子を投する方式ではなく、銃でワームホールを発生させて銃弾を転移させるため、ＤＦドライヴのように宇宙空間を大きく歪める事はなく、星系でも使用できる。

また銃弾自は通常の超電磁ライフルの銃弾より小型なのだが、目標に転移・実化する事で同位相発を引き起こし、通常のライフル弾よりも大きな威力を発揮するのも特徴で、対艦徹甲弾への弾種変更も必要としない。

ただこのように記すと無敵の超兵のようだが、実際の『Ｄ‐ストライカー』には欠點も多い。まず第一にエネルギー消費が膨大である事。事実『サモンジＳＶ』には、小型の対消滅反応爐が五つも搭載されており、そのうちの三つが『Ｄ‐ストライカー』専用、あとの二つは機制と兼用なのだが、それでも『Ｄ‐ストライカー』を使用する際は、そちらへほとんどのエネルギーを供給するため、ほぼ縦が不能となってしまうのだ。

次に重力子の高度圧機能を持つ銃の壽命が短い事。複雑な構造でとてもコストの高い銃だが、その壽命は十五発が限度で、それ以上の撃を行う場合は、銃を換する必要があった。

兵にとって重要であるのは威力だが、工業製品である以上、生産とコストパフォーマンスも重要な要素である。

この『Ｄ‐ストライカー』は元々、銀河皇國軍の兵開発部が開発した新兵であり、これには皇國貴族でもあるイマーガラ家も協力していた。だが開発に功したものの、上記の欠點とコストパフォーマンスから正式採用は見送られて、その試作版をイマーガラ家が引き取り、獨自の改良を加えた上で、『サモンジＳＶ』の兵としたのである。

その獨自の改良というのが、今しがた『オストロード』を狙撃した、程の大幅長だった。通常の場合の程でも戦艦並みの４千～５千萬キロはあるが、これは『Ｄ‐ストライカー』本の撃用照準センサーを使用した場合で、標的近く配置した複數の観測艦から諸元データを得れば、星間の距離の狙撃も可能となっているのだ。無論その分、さらにエネルギーが必要であり、今の『サモンジＳＶ』は、バックパックの一部を帆のように広げ、総旗艦『ギョウビャク』から電子照のエネルギー補填をけていた。

ギィゲルトはこの星間狙撃機能で、ウォーダ家の第１艦隊を狙撃し、第五星の宇宙要塞に潛んでいると思われる、ノヴァルナ直卒の別隊をい出そうと考えていたのだ。

撃勢を解いた『サモンジＳＶ』はクレーターの縁で立ち上がり、僅かに位置を変えて再び膝をつく。真空狀態の中、大型小星デーン・ガークの表面に積もっていた砂粒が、白い埃となってゆっくりと舞い上がった。

コクピットのギィゲルトは戦狀況ホログラムを展開し、ウォーダ艦隊を半包囲している味方艦隊の中から、ウォーダの第１艦隊の各艦を測的するのに、最適な位置にいる戦艦三隻を選択。それらに対して同時に通信をれる。

「こちらはコードＧ。測的艦、諸元データを送信せよ」

“コードＧ”の符牒は無論、ギィゲルトの事である。主君の命令に、選定された三隻の戦艦から「意」の応答と共に、ウォーダ軍第１艦隊の戦列と、各艦の位置データが送信され始めた。先程ギィゲルトに撃破された、ウォーダの戦艦『オストロード』が狙撃の初弾をけた際、オペレーターが敵からの撃照準センサーをけていなかったと報告したのは、『サモンジＳＶ』の星間狙撃には、測的を行った戦艦が撃用照準センサーではなく、通常の接敵哨戒センサーを使用して、そのデータを基に狙撃照準諸元を、數學的に算出していたからである。

三隻の測的戦艦から、ウォーダ家第１艦隊各艦の狙撃用位置データ転送をけ終えたギィゲルトは、「ふん…」と軽く鼻を鳴らした。ウォーダの総旗艦『ヒテン』の周囲には、護衛の艦が集しており、それが妨げとなって完璧なデータが得られないのだ。數億キロも離れた位置からの狙撃であるから、コンマ數百分の一以下の照準角度のズレでも命中は期待できない。

“これは…ノヴァルナの代わりを務めている者は、余程ノヴァルナめに心酔しておるか。あるいは幾帳面極まりない者に違いあるまい…”

ギィゲルトはウォーダの総旗艦『ヒテン』と、それを守る艦の狀況を見て、面識はなくとも、総司令代理を務めるナルガヒルデの人像を、的確に判斷した。

ノヴァルナの代わりは自のを守るためではなく、あくまでも『ヒテン』にノヴァルナ本人が座乗している(てい)を通すため、護衛の艦を『ヒテン』の周囲に集させているのだろう。そしてそれに呼応する護衛艦の艦長達も、同じ気持ちを共有しているに違いない。その演技はおそらく、自らの命が盡きる瞬間まで続くはずだ…

“あのような忠勇の臣が周りに集まるところを見るに、やはりノヴァルナめは巷で言う、大うつけで無い事は明白…それを一目見て見抜いたタンゲンの慧眼、流石と言ったところであろうか―――”

今は亡き師父セッサーラ＝タンゲンへの賛辭をに、ギィゲルトは超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』をウォーダ第１艦隊へ向けさせながら、続く思いを言い放った。

「…だが、その忠勇さが、我の狙いとなるのじゃ」

▶＃１５につづく