《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#19

「左舷艦底部で発発生! 予備第6、第8重力子ジェネレーター室大破!」

「第4電子加速室大破! 死傷者多數の模様!」

初弾の人気(ひとけ)の無い個所への著弾と打って変わり、今度のダメージは小さくない。

「やはり、超空間転移技を応用した兵のようですね」

狀況ホログラムを見據えて言うナルガヒルデ。周囲をトンネル陣形の護衛艦が固めて、艦自も八枚のアクティブシールドは健在。外殻裝甲板の防力をさらに強化する、エネルギーシールドもフルパワー狀態の中、艦の部へ直接著弾して來るとなると、超空間転移を使う以外考えられない。ナルガヒルデの言葉に揺を隠せない參謀の一人が、問い掛けて來る。

「いかがされますか?」

前述の通り、敵本陣があると思われる小星フォルクェ=ザマまでは、距離がある。いま現在も最大戦速で突撃中だが、到達までまだ三十分はかかるはずだ。総旗艦級戦艦の『ヒテン』は、通常の主力級戦艦よりも大型で、艦自の耐久も格段に高いため、複數の著弾にも耐えられるだろうが、それとて限度がある。

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“ノヴァルナ様なら、どうなされるか…”

ギィゲルトには見抜かれているが、ナルガヒルデの立場からするとあくまでも、『ヒテン』にノヴァルナが乗って指揮を執っている(てい)で、かなければならないのである。

「艦長」

ナルガヒルデは參謀の問いに答える代わりに、『ヒテン』の艦長へ聲を掛けた。

「はっ」

初老の艦長は壯年の參謀と違って、揺も見せずにナルガヒルデへ応じた。

「艦の運用権限は私ではなく艦長にある事を承知の上で、指示をさせて頂いて宜しいでしょうか?」

「どうぞお気兼ねなく」

どこまでも幾帳面なナルガヒルデに、『ヒテン』の艦長は穏やかに頷く。するとその直後、『ヒテン』は不規則かつ急激なジグザグの回避行を取り始めた。右へ左へ上へ下へ、六百メートルを超える大型戦艦が、まるで嵐の海の上を行く小舟のように、激しく、ランダムにく。

そこへ『サモンジSV』が放った『D‐ストライカー』の、三発目の狙撃弾が転移して來た。ところがそれは急速移した『ヒテン』上部外殻で実化し、艦表面を覆うエネルギーシールドと反応して発した。

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「上部外殻258エリアで発発生! 外殻裝甲板第三層まで破壊」

當てられたことは當てられたが、それまでのような部への大ダメージにはならず、『ヒテン』の艦橋に「おお…」というざわめきが広がる。

激しく、目まぐるしく回避運を行う『ヒテン』のBSI格納庫。ノヴァルナの専用機『センクウNX』や彼に従った六人の『ホロウシュ』の機は無く、代わりに居たのは以前に『ホロウシュ』の筆頭を務めていた、トゥ・シェイ=マーディンの『シデンSC』と、一時的に彼の指揮部隊として編されたASGUL小隊が待機していた。

「うぇえええええ!!!!」

荒波にまれる小舟狀態で、ASGULの『アヴァロン』に乗るトゥ・キーツ=キノッサは、胃がでんぐり返りそうな狀態に悲鳴を上げる。

「これじゃあ、船酔いするッスよぉ!!」

だが彼等の臨時指揮であるマーディンは、小隊の通信回線を開いたまま「ハッハッハッ…」と、軽く笑い聲を発するばかりだ。それを聞いたキノッサは、困気味に問いかける。

「よ…よく笑ってられッスねぇ。マーディン様」

マーディンはウォーダ家を出奔した事になっており、皇都星キヨウで報収集を行ってはいるが、もう五年近く実戦から遠ざかっているはずである。それでありながら、この狀況を笑っていられる神経が、キノッサには呆れるものだったのだ。

だがそれに対するマーディンの返答は明確だった。

「當たり前だろう。これはナルガヒルデの腕の見せ所…晴れの舞臺だからだ」

久しぶりの一時復帰であっても、マーディンがウォーダ家の―――ノヴァルナの腹心であり続けている意味を、キノッサは理解した。ナルガヒルデの役目はあくまでも、ノヴァルナが『ヒテン』に乗って指揮している振りを演じる事であり、この『ヒテン』の暴とも言える回避行は、まさにノヴァルナならこのような行を命じるだろうと、考え抜いての命令に違いない。

するとそう思ううちに、再び振が艦を震わせる。だがそれは一つ前の振よりは、軽いものであった。『サモンジSV』からの四度目の狙撃は、『ヒテン』の艦に接する事なく、左舷外殻を覆うエネルギーシールドで実化して、そのまま発したのである。

「ほう…」

ウォーダ家の総旗艦『ヒテン』が、連続して『D‐ストライカー』の超空間転移銃弾の発を、紙一重で回避した事に、ギィゲルトは興味深げな言葉をらした。

「なかなかやりおるわ。この『サモンジSV』の、狙撃能力に気付いたか」

とその時、『ギョウビャク』から報告がる。

「お館様。第五星の宇宙要塞から、『クォルガルード』型戦闘輸送艦三隻を含む小艦隊が、急加速で発進したと連絡がございました」

これを聞き、ギィゲルトは粘著質の笑みを浮かべる。本命のノヴァルナが指揮する別隊だと判斷したからだ。

一見すると、ノヴァルナは主隊の総旗艦『ヒテン』に居り、第五星の宇宙要塞から発進した小部隊は、規模的に見て部隊のようである。

しかし、これまでのノヴァルナの戦い方を分析したギィゲルトと、イマーガラ軍首脳部は、協力者ヴァルキス=ウォーダからの報とも照らし合わせ、決戦においてノヴァルナは、もう一つの専用艦『クォルガルード』を使用した、機戦を仕掛けて來る可能が高いと推測していた。そのため星ラゴンを発進した『クォルガルード』とその僚艦に対し、潛宙艦を差し向けてかに向を探らせていたのだ。

くならそろそろと思うておったが、やはりな」

ギィゲルトは、『サモンジSV』のコクピットに展開している、戦狀況ホログラムに新たに追加された、別隊のマーカーとデータに眼を遣る。ステルス狀態中の潛宙艦からの電送データであるから、詳細なものではないが、戦力編制程度は判明していた。

ノヴァルナが専用艦としている『クォルガルード』と同型艦が2隻、巡航戦艦級が4隻、巡航艦6隻、駆逐艦14隻…數からすればそれなりに揃っている。

「巡航戦艦…足の速い部隊よの。ここへの到達所要時間は?」

ギィゲルトの問いに、『サモンジSV』の機関士が所要時間を算出して答える。

「およそ三十分弱であります」

「ふむ。では芝居をもうし続けて、引き付けておくか」

ノヴァルナの別隊を引き付けてから一挙に殲滅する…それがギィゲルトの目論見であった。そのため気付かぬふりで、“別隊をと考えて主隊への攻撃を続ける”芝居が必要だ。

「照準數値275584‐66735。 追尾狙撃する」

にトリガーを引かせるギィゲルト。その超空間転移銃弾は、『ヒテン』の右舷外部裝甲板で実化し、発を起こした。だが急激な回避運を継続しているおかげで、今回も深手を負う事は免れる。ただギィゲルトにすれば、もはやどちらでもいい話だった。『ヒテン』を撃っているという、事実だけが必要なのだから。

そしてウォーダ軍のトンネル陣形も、周囲を取り囲んで同航戦を行うイマーガラ家の大軍の攻撃を浴び、次第に痩せ細っていく。このままでは中心部にいる、本陣突部隊までが攻撃にさらされるだろう。

しかしそれでもイマーガラ軍の破綻の芽は、確かにそこに存在していた。

ギィゲルトが大して気にも留めていなかった、貨船団の一つ…フォルクェ=ザマに近づく、三隻の中古タンカーの中に―――

▶#20につづく

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