《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#21

皇國暦1560年5月19日 皇國標準時間15:52―――

それまで、ウォーダ軍第1宇宙艦隊への狙撃を行っていた『サモンジSV』は、目標を第五星トランの宇宙要塞『ナガンジーマ』から発進した、別隊へと変更した。充分に引き付けたと判斷したからである。

「銃換完了」

十五発の耐用限界しかない、超空間転移機能を持つ『D‐ストライカー』の銃換を終えた、『サモンジSV』の縦士が報告すると、ギィゲルトは「うむ」と頷いた。そこに機関士が進言を付け加える。

「銃はあと一本にございます。館様」

「わかっておる」

超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』の銃は四本しかない。ただこの銃は使い捨てではなく、戦闘終了後に部裝置の消耗パーツ換と集中整備を行って、再使用するものであった。それでも四本とはない気がするが、一本當たりの製作コストが、重巡航艦一隻分に等しいとなると、艦隊整備をおざなりにしてまで、そう多く量産できるようなものではない。

「なに。この一本があれば、充分じゃ」

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そう言ってギィゲルトは縦士に命じた。

「機を、敵別隊の照準位置へ移させよ」

意」

応答した縦士は『サモンジSV』を、大型小星デーン・ガークの北極部にある、巨大クレーターの縁(へり)に沿って左方向へ移させた。そしてまた、『サモンジSV』をひざまずかせ、『D‐ストライカー』の長大な銃をクレーターの縁で支えさせる。

「距離は充分に引き付けたゆえ、今後は通常の照準センサーを使用する」

「はっ」

ギィゲルトが第1艦隊への無駄な狙撃を継続して、別隊の接近を許したのは、簡単には退避出來ない距離まで、別隊を引き込むためだった。それはつまりこの時點でもギィゲルトは、別隊の中にこそ、ノヴァルナが潛んでいると考えていた事の証左である。

「ノヴァルナさえ葬れば、當主を失ったウォーダの艦隊主力は、の數ではあるまい。さて、參ろうかの」

どこかに余裕を漂わせながら、ギィゲルトは『D‐ストライカー』の撃照準センサーを起させた。別方向から接近中の別隊が、モニター畫面に映し出される。照準するのは先頭を來る巡航戦艦ではなく、その後方を進む艦(ふね)、戦闘輸送艦という奇妙な艦種であった。

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「照準よし。『D‐ストライカー』発!」

ノヴァルナが乗っていると思い込んでいる『クォルガルード』へ、狙撃の発砲を行う『サモンジSV』。そしてそ上空、全くの別方向から『センクウNX』と六機の『シデンSC』が、ステルスモードのまま忍び寄っていく………

超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』による、『サモンジSV』の狙撃。直接照準で放たれたその一弾は、いまだ遠距離であるため學映像こそ得られなかったが、見事目標―――ノヴァルナの専用艦『クォルガルード』を直撃した。

「目標反応消失。破壊された模様」

長距離スキャナーでバックアップを行っていた機関士が報告すると、ギィゲルトは「ホッ!」と小さな眼を見開いて、「ホッホッホッホッ…」と笑い聲を上げる。ノヴァルナの最期を、あまりにも呆気なくじたからだ。

だがギィゲルトはすぐに思い直して表を引き締めた。簡単すぎる…これは仕掛けがあるに違いない、と思う。あの小憎らしいウォーダの大うつけには、これまで散々煮え湯を飲まされて來たのだ。それがこんな簡単に死ぬとは思えない。その証拠に、ノヴァルナが乗る『クォルガルード』を失ったはずの別隊は、そのままこちらに向って航行を続けている。

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そこでギィゲルトは閃いた。『クォルガルード』は囮で、ノヴァルナは他の艦に乗っているに違いない…と。そこで通信封鎖を解いて回線を開き、直卒の第1艦隊へ連絡をれた。

「ギィゲルトである。第2戦隊及び第1宙雷戦隊を早急に、敵別隊の迎撃へ向かわせよ。BSI部隊の出撃準備も整えておけ」

ギィゲルトは、『D‐ストライカー』の狙撃を行いつつ、戦艦部隊の第2戦隊と第1宙雷戦隊を差し向け、別隊の艦を一隻殘らず、仕留めてしまおうと考えたのである。どの艦にノヴァルナが乗っているか、判然としないからだ。距離的にはまだノヴァルナがBSI部隊を発進させる距離ではないが、手間取っている間に距離を詰められ、『センクウNX』で出て來られると厄介なのも本音だった。

だがノヴァルナはすでに六機の『シデンSC』を従えて、フォルクェ=ザマの中を突き進んでいる。そしてギィゲルトが第1艦隊に発した通信が、完全に裏目に出た。『センクウNX』がその通信を傍し、方位測定で大型小星デーン・ガークにいる事を、確定させてしまったのだ。

「こいつは…油斷してるな」

狀況ホログラムに表示される、大型小星デーン・ガーク上からの通信波を見詰め、ノヴァルナは小聲で呟いた。ギィゲルトの本陣到達まではあと十分弱、すると今度はデーン・ガーク周辺にある、敵艦のものと思しき金屬反応の一部が、移を開始する。ギィゲルトの命令をけた第2戦隊と第1宙雷戦隊が、ウォーダの別隊への迎撃行に移ったのだ。第2戦隊の戦艦七隻がいた事で、ギィゲルトの総旗艦『ギョウビャク』は、真上がガラ空きとなった。

あまりの偶然に、この報表示を見ていたノヴァルナは一瞬、“こいつは罠じゃないのか?”と疑いの眼になる。まるでこの空いた場所から攻撃してくれ…と、言わんばかりだ。

罠か、それとも天祐か…しかし狀況は躊躇いを見せている場合ではない。いずれにしても後戻りはできない。ノヴァルナは縦桿を引き、『センクウNX』を上昇させていった。

ただこの天祐を引き當てたのは、偶然ばかりではない。別隊の行が関係していた。別隊は臨時編されたもので、巡航戦艦4隻と重巡航艦4隻、軽巡航艦2隻、駆逐艦14隻を二等分し、スェーダ=セシアとマーゼス=ササーラの二人の司令が指揮を執っている。

そしてギィゲルトが『サモンジSV』の『D‐ストライカー』で狙撃したのは、『クォルガルード』ではなく似た形をした、遠隔作の無人貨船であった。

ノヴァルナは予め宇宙要塞『ナガンジーマ』に、この『クォルガルード』と似た型の貨船を、三隻停泊させており、別隊の出撃時にれ替えさせていたのだ。

理由は無論、別隊そのものが囮であり、敵がこの囮に喰いついた場合、あっという間に壊滅させられる可能が高く、本格的な艦隊戦に不向きな『クォルガルード』型を帯同させて、むやみに乗員を危険に曬したくないからである。

その『クォルガルード』に見立てた貨船が、ギィゲルトの狙撃によって破壊されたからには、別隊には撤退の選択肢も生まれていた。かに先行したノヴァルナの貨船団は、すでにBSI決死隊を発艦させた頃であり、謎の遠距離撃をけ続けるのは危険だったからだ。それに事実ノヴァルナからも、無理な攻勢は仕掛けなくてもよいと、命じられている。

ところが別隊の二人の指揮は、撤退など考えはしなかった。それぞれが旗艦としている巡航戦艦から連絡を取り合う。

「このまま前進、で宜しいかな。セシア殿」

そう尋ねるのマーゼスはノヴァルナの『ホロウシュ』、ナルマルザ=ササーラの兄である。淺黒いのガロム星人は、白い歯を見せて笑顔を浮かべた。対するヒト種のセシアは瓜実顔に、こちらも笑顔を浮かべて応じる。

「そうする事で、ノヴァルナ様は『クォルガルード』を囮にして、他の艦に乗っておられると、相手に思わせる事ができましょう。引き付ければ引き付けるほど良いという話にて」

「まこと。武人とは因果な商売ですな」

マーゼスがそう告げ、二人の指揮は揃って軽い笑い聲を上げた。敵を引き付ければ引き付けるほど、自分達も開かれた死の顎(あぎと)に近づく。だが命令を発するその表に恐れはなかった。

「全艦。このまま前進!」

「ササーラ殿に後れをとるな。敵本陣を目指せ!」

この二人の司令による進軍続行の決定がギィゲルトに、ノヴァルナは『クォルガルード』ではなく、別隊の他の艦に乗っているのだろう…という、誤った推測を呼び込んだのであった。

「撤退を開始した敵艦は、潛宙艦に待ち伏せさせよ。一隻たりとも逃がすでない。よいな!」

ギィゲルトはそう命じておいて、『D‐ストライカー』のトリガーを引く。距離が近くなったため、通常の撃照準センサーによる狙撃であって、回避はほぼ不可能である。一瞬後、ズシン!…と大きな衝撃に襲われたのは、スェーダ=セシアの座乗する巡航戦艦だった。砲戦能力は戦艦並みだが、速力を重視して防力は巡航艦並みの艦は、『D‐ストライカー』の超空間転移弾一発で、メリメリメリ…と艦が引き裂かれていく。

「馬鹿な!! アクティブシールドは―――」

遠隔作の無人貨船と違い、それなりに耐久力はあるはずと考えていたセシアは、驚きのび聲を上げるが、その言葉を言い終える前に、セシアのは艦橋の床にまで達した裂け目から噴き出した、炎の壁に飲み込まれた。そのままセシアの巡航戦艦は発を起こし、宇宙空間に砕け散る。

「セシア殿!」

セシアの巡航戦艦が散する景を、並走する自分の艦の艦橋で見據えたマーゼス=ササーラは、奧歯をギリリ…と噛み鳴らした。だがすぐに気を取り直して、セシア艦隊の殘存艦に、「これより我が両部隊の指揮を執る」と告げる。しかしものの三分も経たぬうちに、マーゼスの艦も対消滅反応爐に直撃をけ、発の閃に包まれた。

「敵本陣に向け、主砲一斉撃!!」

咄嗟の判斷で命じるマーゼス。座乗艦の全主砲が放たれた直後、艦は大発。冥界の門が開かれる直前、マーゼスは弟に対する呟きを殘した。

「ナルマルザ! ノヴァルナ様によく盡くせ………」

そして砕け散るマーゼス=ササーラの巡航戦艦。機械的に次の超空間転移弾を裝填するギィゲルト。ところが艦隊司令を二人とも失っても、別隊の殘存艦は止まらない。司令だけでなく個々の艦を指揮する艦長も、自分達の行がこの決戦の勝敗を左右するのだという、同様の覚悟でいたからだ。

「ふん。ノヴァルナめ、まだ死んでおらぬか…」

ギィゲルトは々苛立った様子で次の標的を、新たな巡航戦艦へ定めようとしていた。照準センサーがその艦影を捕捉し、照準用の數値データをコクピットのモニターへ表示する。だがそれは、『サモンジSV』の後方やや上空に留まる総旗艦、『ギョウビャク』からの急警報で途切れる事となった。

「敵機直上(ちょくじょう)! 急降下ぁーーー!!!!」

▶#22につづく

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