「突部隊は全ＢＳＩを発艦させ、敵本陣へ！　敵艦隊は私達で引き付けます！」

ナルガヒルデのさらなる指示で、トンネル陣形の中から飛び出したウォーダ軍の第１、第２、第６艦隊は、即座に全てのＢＳＩユニットと攻撃艇からなる、機部隊を発艦させた。特に空母打撃群の第６艦隊では、ウォーダ家ＢＳＩ部隊総監でもある艦隊司令のカーナル・サンザー＝フォレスタが、自らの専用ＢＳＨＯ『レイメイＦＳ』で、先陣を切って飛び出している。

「ＢＳＩパイロットは総員。今日を命日と心得ろ!!」

大型十文字ポジトロンランスを手にした、『レイメイＦＳ』を最大加速させながら、サンザーは叩きつけるように言い放った。

一方で第１艦隊の宇宙空母から発進したＢＳＩ部隊でも、指揮の檄が飛んでいる。指揮を執っているのはカッツ・ゴーンロッグ＝シルバータ。ノヴァルナの弟カルツェの謀叛に與(くみ)し、最終的にノヴァルナの味方となったものの、カルツェを正しく導けず、みすみす死なせてしまった咎(とが)で謹慎を喰らっていたのだが、ウォーダ家の存亡の危機にノヴァルナは、第１艦隊ＢＳＩ部隊指揮の役職を與えて、復帰させていたのだ。

「サンザー殿に後れを取るな！　全機、後ろを振り返る事なく進め!!　味方のを乗り越えてゆけ!!」

通信モジュールにびながらシルバータは、自分が縦する親衛隊仕様『シデンＳＣ』の縦桿を握り締め、のでかつての主君カルツェに語り掛けた。

“カルツェ様。見ていて下さい………”

突き進むウォーダ軍ＢＳＩ部隊。その進路を塞ごうと、左右から出現するイマーガラの大艦隊。だがそのきは統制を失いつつあるように見える。総旗艦『ギョウビャク』との通信が途絶し、本陣に異変が起きた事を知り始めたからだ。

しかもノヴァルナは、『センクウＮＸ』のステルスモードを解除して、『ギョウビャク』に銃撃を浴びせた直後、ＩＦＦ(敵味方識別裝置)に自らの家紋を表示させた。敵味方を問わず、自分が見ている戦狀況ホログラムのイマーガラ家本陣、または本陣と想定している位置に、突如としてウォーダ家嫡流―――この場合ノヴァルナ當人を示す、『流星揚羽蝶』の金紋が出現したのだから、ウォーダの將兵はい立ち、イマーガラの將兵は驚愕するのも當然である。

本來であれば、戦力を削いでおいたウォーダ軍のトンネル陣形に、とどめを刺すため立ち塞がるはずだったイマーガラ艦隊の壁は不完全で、サンザーやシルバータらが率いるＢＳＩ部隊に次々と突破されてゆく。

ここでイマーガラ家に弊害を起こしたのは以前、シェイヤ＝サヒナンやモルトス＝オガヴェイなど、ベテラン武將が酒を酌みわしながら語り合った、キヨウ上に備えるためここ數年で大幅に増強された宇宙艦隊の、実戦での指揮経験の淺い司令達であった。

トンネル陣形を組んだウォーダ軍の主隊にとどめを刺す、壁を形する役目を得ていたのが彼等だったのだが、総旗艦『ギョウビャク』との連絡が不通になり、その位置に突然『流星揚羽蝶』の金紋が出現した事で、思考停止と混に陥り、自らの艦隊指揮にまで支障が生じたのである。

しかも間が悪かったのは、その直後、今度はギィゲルト本人から、本陣に出現したノヴァルナを討ち取れという、第１艦隊への命令を耳にした事だった。ギィゲルトは“第１艦隊へ命じた”のであるが、彼等の中には獨斷で、ノヴァルナの討伐へ向かうよう命令を下した者が何人かおり、その勝手な艦隊行が、當初の命令通り壁を形しようとしていた艦隊の間で、足を引っ張り合う狀況を生み出したのだ。

「おい、貴様ら。勝手な事をするな！」

「何言ってる、本陣が攻撃されてるんだぞ！」

「本陣を奇襲して來たのは小部隊だ。第１艦隊に任せておけ！」

「その部隊の中にノヴァルナがいるんだろう。奴を討ち取れば報酬は思いのまま。こんなとこで壁役なんか、やってる時じゃないだろ!!」

「む…う。それもそうか」

自らの忠誠心なり野心なりに従い勝手に本陣救援に向かう者、あくまでも命令を遵守しようとする者、そして途中から変節する者…それら若手司令の思がりれて、混する敵陣の中を次々と突破していく、ウォーダのＢＳＩユニット。

ただ無論、そんなウォーダ軍の突破を許そうとしない、イマーガラの兵も多い。指揮のレベルはどうであれ、個々の戦闘は激烈を極める。艦と艦の間隙を埋めるように立ちはだかる、イマーガラ軍の量産型『トリュウ』が超電磁ライフルを連し、簡易型ＡＳＧＵＬの『ゼラ・ランダン』が、攻撃艇形態で突っかかって行く。

「立ち止まるな！　迎撃機の撃破戦果など捨て置け！」

そうぶのはカーナル・サンザー＝フォレスタだ。ＢＳＨＯ『レイメイＦＳ』が右手に握る超電磁ライフルを一連。前方からビーム砲を討ちながら接近する、二機の『ゼラ・ランダン』をまとめて撃破すると、確認に気を回す事無く、さらにその後方から間合いを詰めて來ていた『トリュウ』を、ポジトロンランスで刺し貫いておいてこれも宇宙に放り出し、本陣目指して先を急ぐ。

しかし激戦と言えばやはり、小星デーン・ガーク上の戦いであった。イマーガラ軍の最初の増援はまず、墜落した『ギョウビャク』や周囲の直掩戦艦から発進した、ギィゲルトの親衛隊の殘り１２機である。

主君を守るための選りすぐりのパイロットが乗る、親衛隊仕様『トリュウＣＢ』は撃も格闘も別格で、正確な照準と鋭い切っ先をして、ノヴァルナと六人の『ホロウシュ』に迫って來る。

だが、この一戦に裂帛の気迫を持って臨んだ、ノヴァルナ達も引けは取らない。特にこの日、この時のため、の滲むような訓練に勵んで來た『ホロウシュ』は、倍する敵の親衛隊機と互角以上に渡り合った。

飛び回る蜂の群れの如く、連する超電磁ライフル弾を悉く回避し、間合いを詰めて來る『ホロウシュ』達の『シデンＳＣ』。ライフルを撃つギィゲルト親衛隊が口を揃えてくように言う。

「くっ！…當たらないだと!?」

「こ、こいつら!!」

「チィイッ！」

それは奇しくもノヴァルナと戦った敵が、驚愕の表と共に口にする言葉と同じであった。まさに今の『ホロウシュ』達の技量は、ノヴァルナの分と言ってもいいほどまでに高まっている。

外れ弾がクレーター側の壁面で、灰白の砂煙の柱を林立させる。それを背景に回り込んで來たシンハッド＝モリンの『シデンＳＣ』が、ポジトロンパイクを真橫に一閃した。咄嗟に腰のクァンタムブレードを引き抜いて、打ち防ぐギィゲルト親衛隊の『トリュウＣＢ』。すると次の瞬間、『トリュウＣＢ』パイロットの視界から、モリンの『シデンＳＣ』が一瞬で消える。

「なにっ!?　速…」

驚きの言葉を言い終わらぬうちに、発に包まれるパイロット。そしてその時にはもう敵機のバックパックを、超電磁ライフルのゼロ距離撃で撃ち抜いたモリンは、別の『トリュウＣＢ』からの斬撃を躱すため、新たな機にっていた。

さらにもちろん、こういう俊敏な機戦闘を行っているのは、モリンだけではない。ナガート＝ヤーグマーやキスティス＝ハーシェル、トーハ＝サ・ワッツにジョルジュ・ヘルザー＝フォークゼムも同様に、敵の親衛隊機との戦いを有利に運んでいる。

ただ、やはり油斷はできなかった。ギィゲルトの命令をけた、イマーガラ第１艦隊の各艦から発進したＢＳＩ部隊が、ノヴァルナを討ち取るため続々とデーン・ガークへ飛來し始めている。それらは十數機単位でギィゲルトの『サモンジＳＶ』と、ノヴァルナの『センクウＮＸ』の間に割ってって、主君を守り、ノヴァルナを葬ろうとした。

▶＃０２につづく