ここで鬼神の働きを見せたのが、ラン・マリュウ＝フォレスタだった。

メタリックバイオレットのしい機が、まるでテレポーテーションでもするような瞬間的な機を行い、ポジトロンパイクを右へ左へ降り抜く度に、量産型『トリュウ』もＡＳＧＵＬの『ベゼローダ』も、機が引き裂かれてゆく。

そんなランを払いに、周囲を『ホロウシュ』の『シデンＳＣ』に守られた、ノヴァルナの『センクウＮＸ』は超電磁ライフルを放ちながら、ギィゲルトの『サモンジＳＶ』との距離を、詰めようとしている。

だが『サモンジＳＶ』も『センクウＮＸ』より二回りもの巨ながら、きは俊敏であった。遠距離狙撃用の『ディメンション・ストライカー』は、この距離での使用は不向きであるため、武は通常型の超電磁ライフルに切り替えており、またこれによって五基も蔵されている、小型対消滅反応爐の出力を機機へ回すことが可能となっているからだ。

前方左右に二機ずつの親衛隊仕様『トリュウＣＢ』を置いた、『サモンジＳＶ』が半重力ホバリングで、デーン・ガークのクレーターの底を不規則蛇行し、『超電磁ライフル』を放って來る。それを回避しつつノヴァルナも撃ち返すが、雙方ともに決定打はない。しかもノヴァルナはギィゲルトの『サモンジＳＶ』だけでなく、張り付くように護衛している、四機の『トリュウＣＢ』　からの撃を回避する必要もあった。

“くそっ。時間をかけてる場合じゃ、ねぇってのに！…”

縦桿を握り、トリガーボタンを押し込みながらも、ノヴァルナは焦燥を募らせずにはいられない。なにしろ自分達がいるのは、敵の本陣の真ん中なのだ。手間取れば今以上の増援のＢＳＩなどが、続々と殺到して來るに違いない。

ただ焦燥に駆られているのはギィゲルトも同様だった。

まずノヴァルナのＢＳＨＯに対する撃が當たらない。自らの『サモンジＳＶ』だけでなく、隨伴する四機の親衛隊機も同時に撃しているのだが、これが當たらない。『サモンジＳＶ』は三人乗りで、手を務めるギィゲルトは、撃だけに集中すればよいのだから、當たらない事への忌々しさも、ひとしおである。

「おのれ、ちょこまかと！」

そしてもう一つの苛立ちの要因は、自軍のきであった。もっと一斉に増援が參集して、數でノヴァルナを押し包んでしまえば、仕留めるのも容易いのだが、その増援が思うほど數を揃えられず、ノヴァルナの親衛隊に各個撃破されてしまっているのだ。

その原因は前述した、実戦経験の淺い司令達の部隊が勝手に殺到し、かえってギィゲルト直卒のイマーガラ第１艦隊の行の、妨げになっていたためである。

主君ギィゲルトを救援せねばという忠誠心、あるいはノヴァルナを討ち、勲功第一の稱號を得たいという野心。その比重は個々人によって違いはあれ、獨斷で本陣救援へ向かって來た艦隊司令配下の、ＢＳＩなどの機兵や小艦艇が一ヵ所に向け殺到した事で、ニアミスによる急回避が頻発。縦が安定しないまま本陣へ接近しては、『ホロウシュ』達の各個撃破に遭っていた。これが、本來のギィゲルトの増援部隊であった、イマーガラ第１艦隊のＢＳＩ部隊の行を、阻害していたのである。

多數の機兵が集まって來ているとは言え、広大な宇宙空間でニアミスの頻発とは、奇妙な話ではあるが、準速で移しているＢＳＩユニットの速度は、最高で秒速１０萬キロ近くも出ている。その上で例えば、僅か衝突十秒前での自ニアミス回避を、機に設定していたとしても、１００萬キロもの相対距離で回避運にる事になるのだ。

そうであるから広大な宇宙空間といえど、多數の機が味方同士で一點に集中するのであれば、部隊間の統合リンクが必要であり、それがなされていないまま無計畫に集まろうとすると、機が自的に味方同士で距離を取る行を起こし、こういった事態が発生するのだった。しかもここは小星帯のただ中であり、衝突の危険があるのは味方機ばかりではなく、辺りを浮遊する小星をも注意しなければならない。

「むぅ。愚か者どもめ!!」

呼んでもいない部隊の參集による戦場の混。自軍の狀況を把握したギィゲルトが罵り聲をらす。

しかもこの直後、カーナル・サンザー＝フォレスタ、カッツ・ゴーンロッグ＝シルバータらが率いる、本陣突撃艦隊のＢＳＩ部隊が、イマーガラ側の迎撃網を突破して出現した。當然ながらナルマルザ＝ササーラが指揮する、殘り十四人の『ホロウシュ』も一緒である。

艦砲の援護撃と、弾種を炸裂弾にした超電磁ライフルの発が、デーン・ガークの上空で無數に起こり、イマーガラ軍のＢＳＩユニットやＡＳＧＵＬ、攻撃艇を大量に吹き飛ばされる。

まるで巨大なを穿つように一連の発が発生した個所から、ウォーダ軍の機が雲霞の如く、続々となだれ込んで來た。

「ノヴァルナ殿下!!」

「ノヴァルナ様！」

「ノヴァルナ様は、いずこにおわす!?」

ササーラ、シルバータ、そしてサンザーの呼びかけに、ノヴァルナはせわしなく縦桿を作しながら、いつもの不敵な笑みを浮かべて応じる。

「おう！　來たか!!」

▶＃０３につづく