《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#03
氷上を舞うフィギュアスケーターのように、ホバリング走行を続ける『センクウNX』の機を華麗に翻させたノヴァルナは、相手の撃に対し、カウンターパンチの如く超電磁ライフルを撃ち返し、ギィゲルトの『サモンジSV』を守っていた親衛隊の『トリュウCB』を一機撃破した。そして敵陣を突破して來た家臣達に、命じる。
「ササーラと『ホロウシュ』は俺達とギィゲルトを狙え。あとのBSI部隊は敵の増援を近寄らせるな!」
「意!!」
それに応じてウォーダ軍のBSI部隊は一斉に散開し、それぞれの目標へ向かって行った。無論ウォーダ側のBSI部隊は、統合リンク下での行であり、イマーガラ軍のような無駄な混は起こさない。
「全機、分隊ごとに行。連攜で敵に対処せよ! ノヴァルナ様に余計なものを近寄らせるな。第2艦隊艦載機部隊は対艦攻撃を行え」
自分の専用機『レイメイFS』の照準センサー明度を、小星デーン・ガーク表面の照り返しを考慮したものに調整しながら、カーナル・サンザー=フォレスタは冷靜な聲で、ノヴァルナの命令を補足して告げた。だがその眼はすでに獲を追う狼を思わせる。視線の先に捉えたのは、ギィゲルトの援護に向かっていると思われる、BSIユニットの一団である。使用機種こそ量産型の『トリュウ』だが、混した今の中での安定したコース取りから、中隊規模の手練れ衆に違いない。
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「あれをノヴァルナ様のもとへ、やるワケにはいかんな」
狐のような耳を持つフォクシア星人のもう一つの特徴である、大きめの犬歯を剝き出しにして、カーナル・サンザー=フォレスタは二機の僚機を引き連れ、『レイメイFS』を加速させる。自分達に向かって來るBSHOに気付いたらしく、12機の『トリュウ』は即座に編隊を解いて、戦闘行にった。
「牽制と援護撃!」
後続する二機の『シデンSC』に命じたサンザーは、一気に速度を上げる。サンザーを狙おうと超電磁ライフルを構える複數の『トリュウ』だが、サンザーの護衛機の銃撃をけて、回避せざるを得なくなった。その隙を突いて大型十文字ポジトロンランスの斬撃距離まで飛び込んだサンザーの『レイメイFS』は、眼にもとまらぬ速さで電子フィールドを帯びた鑓を突き出す。
十文字の穂先の橫にびた刃が、コクピットのある敵機の腹部を、グシャン!…というじで切り裂いて、部裝置を宇宙空間へ撒き散らすと、破孔から激しく赤いプラズマを噴き出して発を起こした。
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サンザーはノヴァルナへの進路を遮るように敵の前へ回り込むと、大型十文字ポジトロンランスを斜め下段にピタリと構え、全周波數帯通信で名乗りを上げる。
「我はウォーダ家BSI部隊総監カーナル・サンザー=フォレスタ。我を討ち、高名を挙げたき者は、命を捨てる覚悟でかかって參れ!!」
その名を聞いて、さしものイマーガラ軍のベテランパイロット達も、「お…鬼のサンザー!」とサンザーの異名を口にして、たじろぎを見せた。
そしてまた、サンザーの分隊が中隊規模のイマーガラ軍BSIユニットと、戦を開始したのとほぼ同じ頃、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの分隊も、戦闘にっている。
シルバータの機はBSHOではなく、親衛隊仕様の『シデンSC』だが、突進力はBSHO並みであった。従う二機の『シデンSC』に「俺に続け!」と命じ、「ぬぉおおおおおおお!!!!」と雄びを上げると、敵機の度が一番高い箇所に向けて、突っ込んで行く。
単純思考の豬武者と揶揄される事が多いシルバータだが、それでも全力を出した時の、ウォーダ家隨一と言われる突進力、突破力は本であった。一気呵に的集団へ突っ込んで行くと、イマーガラ軍の量産型『トリュウ』や、ASGULの『ゼラ・ランダン』を五機、六機、八機、十機…と撃破した。
無論、ウォーダ軍の一般兵も、持てる力の全てを出してイマーガラ軍の兵と、死闘を演じている。彼等にとってはウォーダ家への忠義というより、祖國とそこに暮らす家族を守るための戦いであるからだ。
ここでウォーダ軍に有利に働いたのは、イマーガラ軍本陣へ突した部隊に配備されていたのが、新型機の『シデン・カイ』だった事である。ウォーダ軍は先行量産型『シデン・カイ』を、第1、第2、第6に優先的に配備し、集中訓練を実施して敵本陣攻撃の際に、僅かでも戦闘を有利に進めようとしていたのだ。
イマーガラ軍のBSIパイロットの中には當然、これまでにウォーダ軍と戦った者が何人もいる。その彼等が一様に『シデン・カイ』を見て戸いをじた。
「あれは『シデン』…じゃないのか!?」
「だがあんな俊敏なきは、初めて見るぞ」
「それに外見も、ただのバージョンアップとは違う気がする」
『シデン・カイ』は舊來の『シデン』を、設計段階からリファインしたものであるから、外見上は『シデン』と似たシルエットをしている。それがイマーガラ軍パイロットをわせ、先手を取られて撃破される機を、続出させていたのである。
BSIユニット同士の戦いは、新型機『シデン・カイ』の投で、ウォーダ軍に有利に働いているが、雙方がほぼ同じ能のASGUL同士の戦いは、パイロットの技量の差の戦いであって、死力を盡くし合っていた。
「やるッス。やるッス。やってやるッスよぉおおおーーー!!!!」
縦桿を握り締めてそうんでいるのは、ASGULの『ルーン・ゴート』に乗るトゥ・キーツ=キノッサだ。人型と攻撃艇形態の切り替えが出來るASGULをキノッサは、攻撃艇形態で高速飛行し、戦場を飛び回っている。
「俺っちだって!…俺っちだって、訓練したんスからぁッ!!」
一時復帰した前『ホロウシュ』筆頭のトゥ・シェイ=マーディンに率いられ、第1艦隊BSI部隊の一機として、イマーガラ軍本陣へ突して來たキノッサだが、これまでに経験した事のない、大混戦に張の度合いはMAXに達していた。
黃緑の曳粒子を帯びたのはウォーダ軍のビーム。赤の曳粒子を帯びたのはイマーガラ軍のビーム。二のビームがキノッサの視界の中で、上下左右を行きい、コクピットを照らす。しいの差だが、直撃を喰らえばASGULではひとたまりもない威力のものもある。
そして視界の中に飛び込んで來る大小の発。聴覚が捉える味方BSI部隊の、迫した信。時には敵機の撃破を報告し、時には被弾発の際の斷末魔のび。それらの全てがキノッサの呼吸を過剰にし、心拍數を増やしていく。
“どいつと…どいつと戦うべきッスか!?”
むやみやたらと戦場を飛び回っているだけのように見えるキノッサだが、本人的には戦場に到著して早々、味方の隊とはぐれてしまい、自分が単機でも戦えそうな敵を探していたのだ。
“俺っちと同じように、単獨行になってるASGULの、不意を突くのが狙いッス!…同じ単獨行でも、BSIユニットを狙うのは愚の骨頂ッス”
簡易型BSIのASGULが一対一で、正規のBSIユニットに勝つことは、よほど技量の高いパイロットでもない限り、常識的に不可能であった。ASGULが人型に変形できる攻撃艇であるのは、一機のBSIユニットを複數のASGULで仕留める際、短時間だけ人型形態で格闘戦を行うためのもので、戦闘時以外で人型形態になるのは、作業機械として使用される時ぐらいだ。
そんな折、キノッサは近接警戒センサーが、単機でジグザグ飛行をしている敵のASGUL『ゼラ・ランダン』を、モニターに表示させるのを見た。
“こいつを頂くッス!”
キノッサはを鳴らし、唾をまとめての奧へ飲み下すと、発見した単獨飛行中の敵ASGULへ向けて機首を巡らせた。
▶#04につづく
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