《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#06

「マーディン様!」

前『ホロウシュ』筆頭トゥ・シェイ=マーディンの聲を聞き、キノッサは即座に機種を翻した。親衛隊仕様『トリュウCB』と量産型『トリュウ』が、ライフルを撃ちながら二手に分かれて急発進する。

「見えないッス。じ、狀況は!?…」

『ルーン・ゴート』のコクピットで、キノッサは激しく頭(かぶり)を振る。『ルーン・ゴート』のコクピットも、正規BSIユニットと同様に全周囲モニターとなっているが、狹さに加えフレームやモジュールパネルなどの多さが妨げとなり、視界は良くない。その中でマーディンと敵の二機の敵機を示す、緑と赤ののマーカーが激しく畫面上を駆け回り、キノッサの視覚では捉えられない。あまりにも三機の機が激しいからだ。

キノッサは『ルーン・ゴート』を人型に変形させて、連裝ブラストキャノンを裝備した右腕を中空へ向けて振り回した。キノッサとしては自分を救援してくれた上に、一対二の不利な狀況で戦っているマーディンを、援護したいのである。しかしそのきは、キノッサの反神経では速すぎて追えない。

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そのマーディンは『シデンSC』を二度、三度と激しく急旋回させて、二機の敵からの撃を回避した。敵の一機は自分と同じ親衛隊仕様機。そしてもう一機は量産型だが、親衛隊仕様機と行を共にしているだけあって、縦技は高い。一機の撃を躱したところへ、もう一機が正確に銃弾を放って來る。

“こいつは三対一のままだったら、死んでるな”

をさらに急激に機させ、マーディンはで呟いた。キノッサの『ルーン・ゴート』を狙って隙を見せていた一機を先に仕留めていなければ、到底躱しきれなかった…と思う。

とそこへ、ようやく敵の位置を把握する事ができ始めたキノッサの、『ルーン・ゴート』が援護撃を開始した。ただその照準はかなり甘い。

「あいつ。逃げろと言ったのに!」

端正な顔をしかめるマーディン。キノッサの技量では、人型で宇宙空間に停止して撃を行うのは危険だ。混戦の中ではどこから、別の敵が現れるか分からないからである。

しかしキノッサの無謀とも思える行が功を奏した。キノッサ機からの撃をけた量産型『トリュウ』が回避運をとった事で、親衛隊仕様機との連攜が中斷したのだ。それは僅かなタイムラグだったが、マーディンに撃の時間を與えるには充分だった。カウンターのように放ったマーディンの超電磁ライフルが、敵親衛隊仕様機の超電磁ライフルに命中して銃をへし折る。

を破壊された超電磁ライフルを宇宙空間に投げ出して、『トリュウCB』は急加速を掛ける。その直後に発を起こす親衛隊仕様機の超電磁ライフル。加速した『トリュウCB』は、ポジトロンパイクを手にしてマーディンへ向かって來た。それにやや遅れ、量産型『トリュウ』もマーディンとの距離を詰め始める。しかもそのやり口は巧妙で、小刻みな回避運を加えながら、機をキノッサとマーディンとの直線コース上へれたのである。これではキノッサの甘い照準技能が、マーディンにまで危害を及ぼしかねず、援護撃は出來ない。

「どっ!…どうすれば、いいんスか!?」

援護撃をするにも、自分の能力を超える撃が必要な狀況に、キノッサは臍を嚙む思いだった。頭の中がもどかしさでザワザワする。自分の無能さに胃の辺りが痛くなる。

人型に変形した狀態の『ルーン・ゴート』は、マーディン機へ向かっていく量産型『トリュウ』の背中に、連裝ブラストキャノンを裝備した右腕を向けるが、大きく震えて狙いが定まらない。まるで初めて誰かを銃で撃とうとしている人間のように、そして縦者であるキノッサの葛藤を示しているかのように…

だがキノッサも自分の思いに囚われている場合ではなかった―――

「撃つ。撃つッスよぉ!」

気持ちを強く持ち直して左手で右腕を支え、量産型『トリュウ』を照準しようとするキノッサ。ところがそんな行為は、無重力狀態の中では何の意味もない。そして次の瞬間、ロックオン警報が鳴ったかと思えば、思わぬ方角から飛んで來たビームが、キノッサの機の右腕を吹き飛ばした。

「うぇえっ!!!!」

ブラストキャノンごと発する機の右腕に、キノッサはび聲を上げる。狙ったのは、キノッサが取り逃がしたあのASGULの『ゼラ・ランダン』だった。駆逐艦との同士討ちを避けて離した後も、襲撃の機會を窺っていたのだ。

「しまったッス!」

確かに不覚であった。だが同時に幸運でもあった。敵のASGULはキノッサのいるコクピットを狙ったのだが、キノッサが機を安定させていなかったため、線上に先に右腕がったのである。命拾いしたキノッサは、殘った左腕でポジトロンランスを摑み、機を何度も翻した。

火力重視型の赤タイプ『ゼラ・ランダン』は、ブラストキャノンを撃ちながら、キノッサの『ルーン・ゴート』に接近して來る。ここで背中を見せて逃げようとするのは、キノッサにとって自殺行為に等しい。

“どうするッスか! どうすりゃいいッスか!!!!”

▶#07につづく

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