《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#08

以前にも述べた事ではあるが、BSHOや親衛隊仕様機でポジトロンランスを使う者には、腕に覚えのある近接戦闘の達者が多い。

ポジトロンランス自は簡易型BSIのASGULが、標準武として使用しているが、これは単純な刺突と打擲を戦法にした、戦闘の素人でも扱い易い武として裝備されたもので、長さも二十メートル程だった。

これに対してポジトロンランスを得にしている上位機は、柄が式でばせば三十メートル以上にもなり、穂先も大型で二や十文字など、オリジナルの高いものを使用している。ウォーダ家で言うなら、BSI部隊総監のカーナル・サンザー=フォレスタ。イマーガラ家で言えば宰相のシェイヤ=サヒナン。さらにトクルガル家でいえば、この戦いが初陣でありながら驚異的な能力を見せた、ティガカーツ=ホーンダートが、オリジナルのポジトロンランスを持っていた。

以前は通常のポジトロンパイクを使用していたマーディンだったが、実はノヴァルナのもとを離れ、皇都星キヨウで報収集を始める前から、通常タイプのポジトロンパイクが、段々と手に馴染んで來なくなって來ていたのだ。

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そこでキヨウのガルワニーシャ重工出張所にある、『シデンSC』のシミュレーターを使い、自分の戦闘スタイルに合うポジトロンランスを構。その訓練を積むと同時に、実際の鑓を個人的に発注していたのである。

二機の敵BSIユニットに対し、ピタリと下段に構えたマーディンのポジトロンランスは、柄をばした狀態で三十二メートル。穂先の刃は刺突だけでなく斬撃力も持たせて四メートル強はあり、敵の刃をけるための小振りな“L”字型の刃が穂先の元に取り付けられている。

ただしマーディンは、この鑓を実戦で使用するのは初めてだ。シミュレーターでは繰り返し訓練を積んでは來たが、戦場で敵のBSIユニットを相手取るのは、これが最初となる。

二機のイマーガラ軍BSIユニットも、相手が鑓使いの親衛隊仕様機である事に警戒を高め、神集中のレベルを高め始めたようだ。三機の間で周囲の大戦の喧騒か消える。

すゥ…ふゥ…とヘルメットの中に靜かに響く呼吸音―――

鑓と鉾の刃が電子の淡い緑のと、恒星の反を綯いぜに―――

斬撃のラインが視覚の中に、描かれたそのとき―――

三機のBSIユニットは、バックパックに重力子の黃のリングを輝かせ、一斉に加速して間合いを詰めた。

相対位置はマーディンの『シデンSC』に対して、量産型『トリュウ』が右斜め前方。親衛隊仕様『トリュウCB』が左斜め前方。能差か、同時に飛び出した二機だがやはり、親衛隊仕様機の方が僅かに速い。

その差を瞬時に見越してマーディンはポジトロンランスを、親衛隊仕様機へ鋭く突き出した。ただ親衛隊仕様機は穂先を瞬時に躱し、ポジトロンパイクを手に間合いへ飛び込もうとする。

だがマーディン機も次の瞬間には、長大な槍の柄を大きく回転させていた。そのひと回しは石突き部分で、親衛隊仕様機のポジトロンパイクを打ち払い、同時に別方向から來る量産型機を、首の付けを左側から切り裂く。しかし穂先が掠めただけで、咄嗟に距離を取ろうとする量産機。そこですかさずマーディン機は鑓を投擲した。尖端が量産型『トリュウ』の部分を貫き、発を起こさせる。

そして敵の親衛隊仕様機が再び斬りかかって來た。マーディン機が鑓を投擲した事で、相対位置は背後に代わっている。ここでマーディンは素早くNNLと縦桿とフットペダルを作し、ポジトロンパイクを振り上げた敵機に、當たりを喰らわせた。

そこからさらに勢を崩した敵機に対し、間髪れずに腰のクァンタムブレードを右腕逆手で鞘から抜いて起。刃を巻き込むように機を回転させて、敵親衛隊仕様機の腹部を掻き切ると、バチバチといった様子で裂け目から、赤いプラズマを飛沫のように噴き出し始めた機を、突き飛ばす。縦者が死亡したらしい敵の『トリュウCB』は、人型の機をまるで討ち死にした武人そのままの姿で、力無く宇宙の暗い闇を漂い去って行った………

すぅ…ふぅ…すぅ………

マーディンは呼吸を整えながら、今の戦闘の流れと結果に自分なりの、評価と反省を與えていた。結果として二機の敵をほぼ一瞬で撃破したが、早々に量産型機へ対してポジトロンランスを投げつけてしまったのは、あまり正しい戦とは思えない。さらに他の敵が現れた場合、超電磁ライフルを失っっていた自分の武裝は、Qブレードだけであったからだ。何度も言われている通り、やはりシミュレーションと実戦は別であった。

そこに接近して來るキノッサの『ルーン・ゴート』。

「マーディン様」

「キノッサか。よく無事だった」

通信をれるキノッサに、マーディンは僅かに笑顔を見せて応じる。キノッサはマーディンの壯健そうな聲に、安堵した様子で禮を述べた。

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

▶#09につづく

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