《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#14

再加速を掛けた『センクウNX』に対し、銃弾を二発喰らった『サモンジSV』は、機のバランスがれてきが鈍くなっている。思うように離速度が上がっていない。

「バランサーが損傷している。推進出力で何とかできないか!?」

縦士の訴えに機関士は首を振る。

「無理に出力を上げても、機の制ができなければ同じだ!」

『サモンジSV』の全周囲モニターには、漂う巖塊を次々と躱し、速度も落とさぬままに接近して來る、『センクウNX』の姿があった。このままでは、じきに補足されるのは確実である。

ギィゲルトに付き従う親衛隊員達もまた、ノヴァルナに従う『ホロウシュ』と同様、自分の主君と仕える星大名家へ絶対の忠誠を誓い、そのために命懸けで戦っていた。『サモンジSV』の縦士と機関士は互いに顔を見合わせて頷き、後方の指揮手席に座るギィゲルトに呼び掛ける。決斷は早い方がいい。

館様!!」

二人の意志を察したのか、ギィゲルトは重々しく「うむ」と応じた。

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「もはや『サモンジ』はこれまで。『シャドゥ』のご起を!」

「お主達は!?」

「ご心配には及びませぬ!」

言葉の裏にある縦士と機関士の決意を汲んでやるのも、星大名當主の度量である。「相分かった。おぬしらの忠節、忘れはせぬ!」とギィゲルトは強い口調で言い、座席左橫のレバーを引いた。すると次の瞬間、ギィゲルトの座席は二メートルほども後退し、僅かな曲面を持つ金屬製の二重の壁が下からび上がって來て、縦士と機関士の席との間を隔てる。壁が視界を遮る瞬間、ギィゲルトと二人の部下は、互いに相手が敬禮をしているのを見た。

一気に狹い空間に閉じ込められた巨漢のギィゲルト。だが照準センサーなどのモニター類や、作パネルのレイアウトが一斉に変化し、その間からギィゲルトの座席前方左右に縦桿が出現した。縦桿を握ったギィゲルトは、全システムが再起するに包まれながら縦桿を握り、最終コードを音聲力した。

「ギィゲルト、448823。『サモンジSV-S:シャドウ』起

その時ノヴァルナは、ようやく追いついた『サモンジSV』に、上段からポジトロンパイクの斬撃を浴びせようとしていた。

「これで決まりだぜ!!」

ところがそのパイクの刃が敵の機を切り裂く直前、思いも寄らぬ事態が発生する。『サモンジSV』の両肩のアーマーが切り離(パージ)され、大型のの中から、『センクウNX』より小ぶりな人型機が飛び出したのだ。

『サモンジSV』の中から飛び出し、その肩の上に腕組みをして乗った、小型BSHO『サモンジSV‐S:シャドウ』は黒づくめで、真紅に輝く細いスリット狀のカメラアイが不気味な印象を與える機であった。型的には細ながら筋質な男といったところであろうか。ただ頭部そのままとバックパックの大部分だけは、元の『サモンジSV』のバックパックから分離したものとなっている。

「!!」

小型の黒い機が『サモンジSV』から離したのを見て、ノヴァルナは一瞬、背筋に悪寒をじた。かつて自分の命と引き換えに、決戦を挑んで來たイマーガラ家宰相、セッサーラ=タンゲンが縦していたBSHO『カクリヨTS』の記憶が脳裏をよぎったのだ。あの時は『カクリヨTS』から分離した人型小型機、『カクリヨ・レイス』との連攜攻撃によって窮地に陥り、セルシュ=ヒ・ラティオを失った事でノヴァルナに、拭えない心の傷を殘した。

すると分離した『シャドウ』から、全周波數帯通信がノヴァルナのもとへ屆く。

「見事な戦いぶりじゃ、ノヴァルナ殿。服致した」

「!…ギィゲルト!!」

「なるほど。“トランサー”持ちであるという、ヴァルキス殿の報も本當であった。だがこの『サモンジ:シャドウ』の反応速度は、“トランサー”発者にも引けは取らぬぞ」

「へぇ。そうかい!―――」

それでも見たところ、『シャドウ』は武裝を持っていないように見える。あの時の思いを振り払うかのように、ノヴァルナは歯を食いしばって『シャドウ』へ一気に間合いを詰めた。そしてポジトロンパイクを一閃!…『シャドウ』は腕組みをしたまま。かない『シャドウ』の頭部に振り下ろされるパイク。

ところがその一瞬後、『シャドウ』の両方の前腕部から短いクァンタムブレードが出現。スライドと180度回転を瞬く間に同時に行い、右腕のブレードで『センクウNX』の斬撃をけ止め、左腕のブレードで刺突を放った。

「!!」

その刺突を咄嗟の反神経で躱すノヴァルナ。刃先が『センクウNX』の板から右の肩口までを僅かに切り裂く。“トランサー”が発していなかったら、確実にコクピットを貫かれていただろう。

さらに『シャドウ』は、本とも言うべき『サモンジSV』のウェポンラックから、超電磁ライフルを摑み取ると、牽制撃を行って後方へ飛びずさった。そのまま待機中の戦艦へ逃げ込むつもりに違いない。

“まともに戦って勝てる相手ではないからの。逃げるが勝ちじゃ”

心で呟いたギィゲルトが縦桿を作すると、『シャドウ』はこちらを向いたままで、まるで渓流の石を跳ねていくかのように、飛びう巖塊を足場にして跳躍を繰り返し、自軍の戦艦が待つ方向へ去っていく。

「くそっ。ここで逃がしてたまるかよ!」

ノヴァルナは眉間に皺を寄せると、超電磁ライフルを放ちながら、『シャドウ』への追跡を再開しようとする。しかし『シャドウ』には當たらない。小型の機で小回りが利く上に、もとの『サモンジSV』がバックパックに搭載していた、五基の小型対消滅反応爐のうち、三つを使用しており、総出力では『センクウNX』であったのだ。『サモンジSV』の超電磁ライフルを撃ち盡くした『シャドウ』は、それを『センクウNX』目掛けて投げつけ、さらに退避速度を増す。

「待ちやがれ!!」

ぶノヴァルナ。と次の瞬間、『センクウNX』の機を大きな衝撃が襲った。気が付けば近接警戒警報が鳴りっぱなしだ。見ると、『シャドウ』の抜けたあとの『サモンジSV』が、『センクウNX』の左腳にしがみついている。“しまった”と、ノヴァルナの意識に臍を嚙む思いが湧き上がった。神経を『シャドウ』に集中していたため、頭部まで失った『サモンジSV』に、まだ行力があるという認識が無かったのだ。

「行かせぬぞ、ノヴァルナ!」

「勝利はイマーガラの手に!!」

『サモンジSV』に殘った縦士と機関士が、口々に聲を上げる。

「邪魔すんじゃねぇ!!」

ノヴァルナの怒聲と共に、『センクウNX』はポジトロンパイクを振り抜いた。その斬撃は『シャドウ』が抜け、『サモンジSV』のバックパック部分に出來た大に飛び込んで、がらんどうになった側から割り砕く。発の閃に包まれる『サモンジSV』。それはほんの僅かな時間の出來事であったが、ギィゲルトの『シャドウ』を追う『センクウNX』を遅延させるために、大きな役割を果たしたのだった。この遅延により、待機中の戦艦と『シャドウ』との間の距離の方が、『シャドウ』と『センクウNX』との間の距離より、確実に短くなったからだ。

“何か手はないのか!…”

焦燥が一筋の汗となり、ヘルメットの中でノヴァルナのこめかみをつたう。

“俺は“トランサー”を発させても、ギィゲルトを斃せねぇのか…これはそういう運命だってのか…BSHOの戦いでも、奴の方が一枚上手だったってのか!”

しかしその時、心の中でもう一人の自分が言葉を発した。

こんなもんが運命だと!?…違うだろ!!―――

俺がギィゲルトを斃したいのは、俺自のためじゃねぇだろ。『センクウ』で勝つ事じゃなくて、ウォーダ家を勝たせるためだろが!!

▶#15につづく

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