《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#15
ノヴァルナの脳裏に蘇ったのは、二年前の皇都星キヨウ上の際に出會った、伝説のパイロットと言われるヴォクスデン=トゥ・カラーバの言葉である。
自分で“トランサー”発をコントロールできる、私兵集団『ヴァンドルデン・フォース』のエースだったベグン=ドフ。そして星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガとBSHOで戦い、苦戦した事からノヴァルナがヴォクスデンに、教えを得ようとしたパイロットとしての強さ。
しかしヴォクスデンがノヴァルナに告げた…いや、問うたのはノヴァルナの求める強さとは何かという事だった。
BSIパイロットとして天下無雙の強さを持つ、テルーザ・シスラウェラ=アスルーガ。だがその高すぎる技量が銀河を統べる星帥皇に、本當に必要なものであるのかは疑問であった。そして同じ道を求めようとしたノヴァルナに、ヴォクスデンは問い、諭したのである。星々の支配者たる星大名の、真の強さは奈辺にあるのかという事を。その答えを求められているのが、今この瞬間なのだ。
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ギィゲルトの『シャドウ』は、もう『センクウ』では屆かない距離にいる―――それならば、とノヴァルナは咄嗟に戦狀況ホログラムを再確認した。周囲では両軍の混戦が続いており、『センクウNX』と『シャドウ』の周りでも、數多(あまた)の機兵が死闘を繰り広げている。彼等の目的はウォーダ軍…特に『ホロウシュ』は、イマーガラ軍の機をノヴァルナに近付けさせないため。一方イマーガラ軍の機はギィゲルトの撤退を援護するためだ。
ノヴァルナは味方のBSI部隊に対し、主君専用機のみが搭載している強制通信回線を開いて、意を決した聲で命じた。自分達の目的を履き違えてはならない。
「ウィザードゼロワンより全機。ギィゲルトのBSHOに屆く機は誰でもいい。俺の援護じゃなく、奴を仕留めろ! 俺が援護撃する!!」
「!?」
およそノヴァルナらしくないように思える命令に、『ホロウシュ』やノヴァルナを知る『ム・シャー』は首を傾げそうになる。だがノヴァルナを知るからこそ、その疑念は一瞬で吹き飛んだ。これもまた我等が主君らしいと、瞬時に納得したからである。自分がギィゲルトの機を捕捉可能だと判斷した、ウォーダ軍のパイロット達が一斉にスロットルを全開にして、『サモンジSV‐S:シャドウ』のコース上へ向かっていく。
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そのあとを追おうとするイマーガラ軍の『トリュウ』。だがそれらは次々と発を起こし始める。『センクウNX』からの超電磁ライフルによる狙撃だ。
ギィゲルトの『シャドウ』の進路上へ回り込めたのは、『ホロウシュ』のナガート=ヤーグマーとトーハ=サ・ワッツとシンハッド=モリン、そしてセゾ=イーテスの四機。そしてウォーダ軍第1艦隊の量産型『シデン・カイ』が六機と、第6艦隊の『シデン・カイ』二機に、ASGULの『ルーン・ゴート』が三機。さらに舊型ASGULの『アヴァロン』が四機だった。総兵力からすればほんのひと握りだが、これに賭けるしかない。
「いくぜ!!」とヤーグマー。
「絶対、逃がさねぇ!!」とワッツ。
二人の『シデンSC』を皮切りに、ウォーダ軍のBSIユニットが次々と『シャドウ』に襲い掛かる。高速で離を図る『シャドウ』に対し、戦の機會は各機ワンチャンスしかない。その突撃隊を阻止しようと、追撃を仕掛けるイマーガラ軍の機には、『センクウNX』から狙撃をける。追撃で単調な行となっている敵機は、“トランサー”狀態のノヴァルナには百発百中だ。
思いもよらぬ展開だが、主君の正確な援護撃をけ、まず超電磁ライフルを放ちながらヤーグマーが接近戦を挑む。それに間髪れず続くワッツ。銃撃はまるで當たらない。だがヤーグマーも承知の上だ。自分の銃撃が當たるぐらいならノヴァルナ様が、とっくに仕留めている。
「たあああああああ!!」
気迫の全てを込めて、ヤーグマーはポジトロンパイクを振り抜いた。だが『シャドウ』はその名の通り、影のようにヤーグマーの斬撃を躱してゆく。それに続いたワッツの斬撃も同様である。スルリと切っ先をすり抜け、到底追いつけない速度で距離を開いた。“クソッ!…あんだけ訓練したってのによぉ!!”と、ワッツは飛び去って行く『シャドウ』を睨み據え、奧歯を噛みしめる。
だが二機の襲撃行が、僅かだが『シャドウ』の逃走を遅らせたのも事実だ。速度優先である攻撃艇形態のASGUL勢が、『シャドウ』の捕捉に功し、ビーム砲での戦闘を仕掛ける。
民間人上がりの一般兵が乗るASGULだが、撃は正確だった。これもノヴァルナがこの日に備え、演習や訓練を重ねに重ねたたまものだ。忌々しげに回避行を取るギィゲルト。『シャドウ』には撃兵が無いため、反撃は出來ない。
“むぬ!…雑兵が!!”
差して襲い掛かるASGULのビームを、悉く躱した『シャドウ』だが、その間に最大速度の直線飛行で航過したBSI部隊が、ついに『シャドウ』の前方へ回り込んだ。
「おおおおおおお!」
「でやぁああああ!」
「うわぁああああ!」
『シデン・カイ』に乗る『ム・シャー』達が一斉に雄びを上げる。バックパックから発する重力子ののリングが、オレンジの輝きを大きくする。牽制の超電磁ライフル…決意に走った眼…強く握りしめる縦桿が示すのは、する者への想いか…はたまた栄達の野心か…それとも恐怖からの逃避か。だが示すベクトルはどうであれ、気迫は一線級の武將に引けは取らない。
上下左右、そして斜めから飛來する銃弾を、恐るべき機で回避するギィゲルトの『シャドウ』。そこへ最初の『シデン・カイ』が攻撃を仕掛ける。ポジトロンパイクを突き出すように構えて突撃。しかしすれ違いざまに、『シャドウ』の両前腕部からびたクァンタムブレードに、“X”字型に切り裂かれて火球となった。
続いて二機の『シデン・カイ』が、『シャドウ』の前後から同時攻撃。さらにセゾ=イーテスがそれらに続く。そこへ三機のきを阻止しようと接近する、イマーガラ軍の『トリュウ』が七機と、親衛隊仕様機の『トリュウCB』が二機。しかも敵の新手は続々と集まって來ようとしている。
後方でそれらを狙撃によって援護するのが、今のノヴァルナの役目だ。しかしいかんせん、數が多い。それに問題はライフルの殘弾だった。ここまでの戦闘で、通常弾の殘りは八発…弾倉1個分しかない。
「チィッ!…弾が足りねぇ!」
いま裝填してある弾倉の、最後の一発で狙撃した『トリュウ』が、閃とともに砕け散るのを見ながら、ノヴァルナは舌打ちをした。
するとそこへ駆けつけて來た味方の機がある。『ヒテン』で超電磁ライフルの補給を済ませた、マーディンの『シデンSC』だ。マーディンは『センクウNX』と機を並べ、自らのバックパックからライフルの予備弾倉をまとめて手に取り、ノヴァルナへ差し出した。
「ノヴァルナ様。こちらをお使い下さい」
「おう、マーディンか。すげー助かる!」
さらにマーディンは『シデンSC』に、超電磁ライフルを構えさせて続ける。
「私がここで狙撃を行います。殿下は距離をお詰め下さい」
自分が狙撃による援護を引き継ぐ間に、『センクウNX』をギィゲルトに接近させ、援護の制度をさらに上げようというマーディンの意図を理解し、ノヴァルナは機を加速する。
「よっしゃ。任せるぜ!」
主君の言葉をけ、即座にギィゲルトの救援に向かおうとしている敵機に、照準を合わせたマーディンはトリガーを引く。ところが放たれた銃弾は、僅かだが敵機を外した。
「!?」
修正して再発。しかしまた當たらない。『ヒテン』で再裝備した予備の超電磁ライフルとの微調整が、上手くいっていなかったらしい。苦蟲を嚙み潰しながら誤差を見越した照準を行おうとするマーディン。だが敵機はギィゲルトの元へ辿り著いてしまいそうだ。
“くそっ。ノヴァルナ様に大口を叩いておきながら!”
と次の瞬間、照準ディスプレイの中で、その敵機は発を起こした。そして聞こえて來るからかうような聲。『ホロウシュ』のヨヴェ=カージェスだった。
「どうした、マーディン。久しぶりの戦闘で腕が落ちたか?」
そしてマーディンの機に並ぶカージェスの『シデンSC』。そこへさらにランとササーラの機も加わる。マーディンは苦笑いしながら言葉を返す。
「調整がズレてただけだ…よし。修正完了」
「じゃ。やるか!」
ササーラの景気のいい聲にランが無言で微笑むと、四人の親衛隊員は揃って超電磁ライフルを構え、ウォーダ家の勝利のためトリガーを引いた。
「えぇい! 目障りな!!」
次々と斬りかかって來るウォーダ家のBSIユニットに、ギィゲルトは業を煮やして、『シャドウ』の両腕前腕部に仕込まれたQブレードを振るう。二機の『シデン・カイ』がコクピットのある腹部を切り裂かれ、搭乗していたパイロットののように、赤いプラズマを撒き散らして機能を停止する。
そこへ『シャドウ』の背後に回り込んだセゾ=イーテスの『シデンSC』が、至近距離でライフルを放ち、ポジトロンパイクで斬りかかった。
これに対して『シャドウ』は、瞬間移したかのような素早さで銃撃も斬撃も回避し、セゾの懐まで間合いを詰めて來る。
「くッ!!」
咄嗟に『シデンSC』の腰部左側に裝備する、Qブレードを摑もうとするセゾ。しかし速度は『シャドウ』の方が圧倒的だ。煌めく『シャドウ』のブレード。だが次の剎那、『シャドウ』はセゾの機に斬撃を浴びせる事無く、瞬時に機を翻した。するとその『シャドウ』がいた位置を掠めていく銃弾。距離を詰めて來た『センクウNX』の援護撃だ。
「ギィゲルト!!」
全周波數帯通信でぶノヴァルナ。ギィゲルトはセゾの反撃のブレードを打ち払いながら、怒聲を発する。
「ノヴァルナぁあッッ!!!!」
その直後、新たな『シデン・カイ』が橫合いから突撃して來た。ノヴァルナの代わりとばかり、ギィゲルトは怒りに任せて相手の機を刺し貫いた。深く突き刺したその刃先はバックパックまで達し、対消滅反応爐を急停止させる事無く、大発を発生させる。
「ぬうゥッ!!」
発に巻き込まれ視界を妨げられるギィゲルト。それが一瞬の隙を生んだ時だ。グシャリという衝撃が『シャドウ』のコクピットを襲ったかと思うと、全周囲モニターの畫面を突き破ったポジトロンパイクの刃先が、ギィゲルトの突き出た腹まで抉ったのである。裂けたパイロットスーツの部が流に満ち始める。真っ直ぐに吶喊して來た『シデン・カイ』の一撃が、ついに『シャドウ』を捉えたのである。
「お、おのれぇツ!!!!」
即座にQブレードを一閃し、『シデン・カイ』の腹部に切りつけるギィゲルト。だが縦桿を握る腕に力がらず、淺い斬撃となったそれは、『シデン・カイ』のコクピットに達して、パイロットの左膝を切斷したものの、命を奪うまでには至らない。そしてさらに突っ込んで來る『シデンSC』。パイロットはシンハッド=モリンだ。
「覚悟ぉおおおおお!!!!」
超電磁ライフルを撃つ、モリンの『シデンSC』。回避するギィゲルト。傷口が広がって出が増える。モリンはポジトロンパイクを投擲した。Qブレードで打ち払ったものの、ギィゲルトは意識が朦朧とする。モリンは自らもQブレードを起させると、腰だめに構えて機ごと『シャドウ』へぶつかって行く。
機を刺し貫かれたギィゲルトの最後の反撃は、モリンの『シデンSC』の右手首を切り落としただけであった。コクピットを貫いたブレードは、ギィゲルトの右肩から肺臓をも量子分解して、へと化している。
「かっ!…はっ!!………」
たかが雑兵ごときに!…そう思い、自分を待つ戦艦に向けて縦桿を引こうと、力を込めた左腕の指先に眼を遣ったその時、視覚と意識は闇に飲み込まれていき、スルガルム/トーミそしてミ・ガーワの三つの宙域を支配し、銀河皇國の名門貴族でもある大々名ギィゲルト・ジヴ=イマーガラの生涯は、志半ばで幕を閉じたのであった………
▶#16につづく
現実でレベル上げてどうすんだremix
ごく一部の人間が“人を殺すとゲームのようにレベルが上がる”ようになってしまった以外はおおむね普通な世界で、目的も持たず、信念も持たず、愉悅も覚えず、葛藤もせず、ただなんとなく人を殺してレベルを上げ、ついでにひょんなことからクラスメイトのイケてる(死語?)グループに仲良くされたりもする主人公の、ひとつの顛末。 ※以前(2016/07/15~2016/12/23)投稿していた“現実でレベル上げてどうすんだ”のリメイクです。 いちから書き直していますが、おおまかな流れは大體同じです。
8 183【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ來られてバレバレです。
【講談社ラノベ文庫より8/2刊行予定】 権力者の孫娘にして超人気聲優アイドル・瑠亜の下僕みたいな立場に甘んじていた俺。 「アタシと幼なじみなこと、光栄に思いなさい! ッシャッシャ!」 しかし、しかし……。 彼女がやった「あること」がきっかけで、俺はぶち切れた。 お前とはこれまでだ、さらばブタ女。 これまでずっと陰に徹して、ブタの引き立て役だった俺。 ようやく普通に生きられると思っていたが、「普通」はなかなか難しい。 天才が集うS級學園の特待生美少女たちに、何故か次々とモテてしまって――。 これは、隠れハイスペックの主人公がヒロインとの「絶縁」をきっかけにモテまくり、本人の意志と関係なく「さすがお前だ」「さすおま」されてしまう物語。 ※ジャンル別日間・週間・月間・四半期1位獲得 ※カクヨムにも投稿
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主人公はいつもいじめられていた。そして行き過ぎたいじめの果てに“事故”死した。はずだったが、目が覚めると、そこは魔法も魔物も存在する異世界だった。 *以前小説家になろうというサイトで投稿していた小説の改変です。事情があって投稿できなくなっていたので、こちらで連載することとしました。
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ごく普通の一般高校生…でもないか… よくいる學校の地味ーズの[魔壁 勇] 天使より悪魔押しの廚二病… 異世界勇者ライフを満喫!…とおもいきや! とまぁ異世界系の小説です!初心者ですがよかったら! ※二作目で【我輩はモンスターである。名前はまだない。】を投稿中です。そちらもよかったら!
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8 135彼の名はドラキュラ~ルーマニア戦記~改訂版
大學の卒業旅行でルーマニアの史跡を訪れた俺はドラキュラの復活を目論むカルト宗教の男に殺されたはずだった……。しかし目覚めて見ればそこはなんと中世動亂の東歐。「ヴラド兄様……」えっ?もしかして俺ドラキュラですか??
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