《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#16

ギィゲルトを乗せた『サモンジ:シャドウ』が、力無く宇宙を漂い始めるのを、シンハッド=モリンは肩で息をしながら茫然と眺めている。そこへ活をれるが如く、主君ノヴァルナの強い聲が屆く。

「モリン!!」

我に返ったモリンは、ノヴァルナの『センクウNX』に振り向いて、「はっ!」と応じた。ノヴァルナはさらに叩きつけるように告げる。

「よくやった! おまえが名乗りを上げろ!!」

「は…ははっ!!」

ノヴァルナの指示にモリンはゴクリ…と生唾を飲み下し、全周波數帯通信で腹の底から聲を発した。

「イマーガラ家主將ギィゲルト・ジヴ=イマーガラ! ウォーダ家のシンハッド=モリンが討ち取ったりィーーーーー!!!!!!」

「ぅおおおおおおおおお!!!!!!」

シンハッド=モリンの名乗りと、『サモンジSV‐S:シャドウ』の機反応の消失。そして期せずして全周波數帯通信で起きたウォーダ軍の勝ち鬨(どき)が、衝撃波となってイマーガラ家の將兵の間を駆け抜ける。続いて広がるのが揺と、指揮系統の麻痺である事は言うまでもない。

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ここで冷靜な…いや冷徹な判斷を下したのが、ノヴァルナから艦隊指揮権を與えられているナルガヒルデだった。戦場の熱量が跳ね上がる中で、赤髪の武將の落ち著いた発令は、氷の刃のような印象だ。

「この機に乗じ、戦果の拡大を図ります。各艦、各戦隊、各艦隊は即時態勢を立て直し、攻勢を掛けて下さい。組織的行が可能な全ての宙雷戦隊は、敵の退路に向けて突撃開始」

さらにこの命令に合わせ、BSI部隊総監カーナル・サンザー=フォレスタが、全周波數帯通信でBSI部隊と攻撃艇部隊に命令を下す。

「全機部隊は対艦攻撃を優先。奴等を生かしてオ・ワーリから逃がすな!!」

殘酷なようだが戦場ではこれが現実である。“水に落ちた犬を叩く”…そうでなければ、明日は自分が咬みつかれる事になるからだ。またサンザーがあえて全周波數帯通信で、イマーガラ側にも屆くように命令を発したのは、敵兵に恐怖心を煽るためであった。

サンザーの言葉に気が付けば、自分がいる場所は故郷から數千年離れた敵地。敗殘のを思い知り、まず下級兵士が乗る宇宙攻撃艇やASGULが怯懦に駆られて、勝手に戦場をし始めた。

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「に、逃げるんだ!」

「こんな所で死にたくないぃ!!」

戦線が瓦解する。下級兵士が乗る攻撃艇やASGUL、艦艇では駆逐艦などこそが戦線を下支えしているのであるから、その逃避はつまり戦線の瓦解に繋がる。

主君ギィゲルトの討ち死にで大きく瓦解したイマーガラ軍の戦線は、モルトス=オガヴェイをはじめとするベテラン武將でも、立て直しは不可能だった。

突撃と追撃をけて次々に火球と化すイマーガラ軍。

宇宙魚雷を複數本喰らってへし折られる戦艦…

大口徑ビームの直撃でシールドごと砕け散る軽巡航艦…

攻撃艇に纏わりつかれ、だらけになる宇宙空母…

『シデン・カイ』の斬撃に両斷される『トリュウ』…

ウォーダ家の狩場となったフォルクェ=ザマで、如何程のが宇宙の闇に吸い込まれたか、推し量る事も出來ない………

虛空に浮かぶ『センクウNX』自は、すでに戦闘行を終了していた。その周囲を、マーディンを加えた二十一機の『ホロウシュ』が警護している。

「…ああ、そうだ。降伏の意思表示をしている奴への攻撃は厳だ。俺の名において、兵達には必ず守らせろ」

総旗艦『ヒテン』のナルガヒルデとの通信でそう命じたノヴァルナは、通信を切るとシートに深く背を沈めた。

…勝った…勝ったんだ――――――

ノヴァルナは自分が全く喜んでいない事に、戸いすら覚える。

乾坤一擲のこの戦いのために、自分の出來得る全てを為した。自分自、そしてウォーダ家とオ・ワーリ宙域のあらゆるものを賭けて、ついに手にれた勝利のはずなのである。

それなのに…なぜか嬉しくじない。いや嬉しいはずだった。その喜びが大きすぎて、現実を喪失しているのだろうか………

「帰(け)ぇるか………」

ノヴァルナがぽつりと呟いた直後、奇襲攻撃で機能不全に陥り、宇宙空間を漂っていたイマーガラ軍の総旗艦『ギョウビャク』が、主人のあとを追うように大発を起こして砕け散っていった………

全ウォーダ軍に対して、オ・ワーリ=シーモア星系における戦闘終了が下令されたのは、そのおよそ三十分後。そして勝利の報が、ノヴァルナの妻であるノアに屆いたのは、さらに約十分後の事である。

その時のノアは、星ラゴンの月の軌道上に展開する最終防衛線に配置された、星系防衛艦隊の前面に『サイウンCN』で出ていた。彼の左右にはカレンガミノ姉妹の『ライカSS』。さらに後方には星系防衛艦隊から付與された、量産型『シデン』二個中隊が並んでいる。

直接に敵と戦闘しているわけでは無いが、戦場となっているフォルクェ=ザマの方を見據えて、『サイウンCN』の縦桿を握るノアの心は、すでにノヴァルナと共に戦っていた。

そして実際にここへ敵艦隊が出現した時…それは夫ノヴァルナが、討ち死にした時であり、自らも命を燃やし盡くす時となるのだ。冥府で夫に再會した時、ノコノコあとを追って來た事に呆れられるだろうけども………

そんなノアのところへ、キオ・スー城で留守居をしている次席家老のショウス=ナイドルから、連絡がった。呼び出し音に回線を繋ぐノア。

「何事ですか、ナイドル」

ノアの問いかけに、ナイドルは咳き込むように告げる。

「お、奧方様!…たった今、前線部隊から連絡が!」

「突破されたのですか!?」

ノアは縦桿を握る指に、思わず力を込めて尋ねた。対するナイドルは言葉に詰まりながらも、高揚した口調で応じる。

「いっ!…いえ。勝ちました。我が軍大勝利!…敵主將ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取り、大勝利にございます!!」

勝った!!―――――

ノアは不意に意識が遠のき、前のめりに倒れ込みそうになる上を、縦桿を握る腕で支えた。ナイドルが続ける「お芽出度(めでと)うございます」という言葉が、ひどく彼方から聞こえるようだ。

そしてやはりノアはノヴァルナの妻であった。

「ノア様」

「おめでとうございます」

控え目に聲を掛けて來るカレンガミノ姉妹に、軽く頭を振って気持ちを整え直したノアは、凜とした口調で応じる。

「戦いはまだ終わっていません。ノヴァルナ様の迎撃艦隊が、『ムーンベース・アルバ』に帰港するまでが戦いです。それまでは私達は戦闘態勢を解きません。いいですね?」

ノアにそう応答されて、メイアとマイアは“それでこそ我等が姫様”と、僅かな笑みと共に「意」と返した。

そのノヴァルナの主力艦隊が、『ムーンベース・アルバ』に帰還したのは、皇國暦1560年5月19日19時47分の事である。

総旗艦『ヒテン』が港を完了してから、ノアは自分の指揮下にっている二個中隊に、武裝解除を命じた。そして自らも、『サイウンCN』で『ムーンベース・アルバ』へ向かうと、艦を降りるノヴァルナに先回りし、パイロットスーツ姿で出迎えたのである。

ゲートの前でカレンガミノ姉妹を従えて待つノア。そこへ『ヒテン』を降りて來たノヴァルナと側近達がやって來た。ノアの前で立ち止まるノヴァルナ。ランやササーラといった側近達は、気を利かせて二人の両脇を一禮と共に通り過ぎてゆく。

「おかえりなさい」

まるで散歩から帰って來た夫に掛けるような、軽い口調で言うノア。ノヴァルナはむしろ、その気負わない妻の聲で、ようやく自分が勝利したのだ、という思いを噛みしめた。「ただいま」と応じたノヴァルナは、どこか照れたような聲でノアに頼みごとをする。

「腹が減った。ライスボール(おにぎり)…作ってくれるか?」

「もちろん」

その言葉のやり取りが二人にとって、『フォルクェ=ザマの戦い』の終結を表していた………

▶#17につづく

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