《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#18

ギィゲルト・ジヴ=イマーガラの死は當然ながら、イマーガラ家にとっての史上最大の衝撃を與えた。

そして戦の時代となったシグシーマ銀河系の星大名の中でも、絶頂期にあると思われたイマーガラ家の當主の死。その衝撃がもたらす連鎖反応は、なくともシグシーマ銀河系の半分に及んだ。

特に驚愕と挫折に包まれたのが皇國中央部、皇都キヨウでギィゲルトとその軍勢を待っていた、上級貴族達である。

星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガを事実上の傀儡として、銀河皇國中央を支配下に置いている星大名ミョルジ家を排除し、その座を取って代わろうと目論む彼等こそが、銀河系有數の戦力を所持するイマーガラ家に、キヨウへの上を要請したのだ。

皇國中央行政府『ゴーショ・ウルム』部。明かりを控え目にした會議室に集まる上級貴族達。円形の會議室の半分を占める大きな展窓の外には、皇都の夜景が広がっている。しかしそのの數は、栄華を誇っていた時代に比べれば、驚くほどない。まるで今の上級貴族の凋落ぶりを表しているかのように…

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「まさか…まさか、ギィゲルト殿が討ち死にするとは…」

円卓を囲む十二人の上級貴族の中の一人が、機の上に組んだ両手を、忌々しそうに激しくみ合わせながら、から絞り出すように言う。

「これで我らの構想も、水泡に帰した」

を滲ませ、別の上級貴族が天を仰ぐ。さらにそれに続く別の貴族。

「さぞやミョルジ家の者共も、小躍りしているに違いあるまい」

するとその時、機を拳で毆りつける、ダン!…という大きな音が響き、貴族達は驚いた表で視線を一人の男に集めた。その視線の先にいたのは皇國貴族院筆頭議員の、バルガット・ツガーザ=セッツァーだ。

瀟灑な裝にを包んだ貴族達の中で、一番値の張りそうな著を纏うバルガットは、拳を機に打ち付けたまま、前屈みにした上を怒りに震わせていた。

「おのれ…」

「セッツァー様?」

どこか合でも悪くしたのかと勘違いした、一人の貴族が聲を掛ける。しかし無論の事、そんなものは余計な気遣いでしかない。怒気を孕(はら)んだ聲でバルガットは唸るように言う。

「おのれ、ウォーダの小僧が!…ふっ、ふざけた真似をッ!!!!」

「!?」

筆頭議員の怒りの大きさをじ取り、他の貴族達はをすくませた。

「オ・ワーリの田舎大名め。大人しく滅んでおれば、よかったのだ!!!!」

バルガットの怒りはイマーガラ軍が敗退し、ミョルジ家の排除の夢が遠のいた事だけに留まらない。

このところ次第にミョルジ家だけでなく、自分達の言う事も聞かなくなって來ている星帥皇テルーザ。ノヴァルナ・ダン=ウォーダはそのテルーザと、立場の垣を超えて友人関係を築いていた。それが近年のテルーザの、強気な態度の後ろ盾となっているのを、バルガットもじ取っていたのだ。そうであるから、ウォーダ家を討ち、ノヴァルナの命を奪う事をギィゲルトが、上途中の至上命題としていた事を是としていたのだ。

「オ・ワーリの大うつけ…この恨みは、忘れはせんぞ―――」

そう呟いてバルガットは、機の上に置いたままの拳をく握りしめた………

そして當の星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガは、バルガットが歯噛みした通り、今や懐刀となった貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナから、“フォルクェ=ザマの戦い”の報告を聞き、ご満悅であった。

「良い。良いぞ、ナクナゴン卿。まさに朗報だ」

「は…」

謁見の間ではなく、執務室で喜びをわにするテルーザ。友人の勝利はつまり、名門貴族のイマーガラ家の敗北と、ギィゲルトの死を喜んでいると、他者に取られかねないからである。テルーザ個人は、ギィゲルトとイマーガラ家を憎んでいたわけでは無いので、人目を避けた形だ。

ただテルーザは、無邪気な笑顔を見せたあと、その笑みを自嘲的なものへと変化させる。自分自に違和を覚えたのだろう。

「ふ…それに比べて、余はけないものだ」

「陛下…」

「こうやってここに座し、余の支援者となってくれるであろう、友の勝利を喜んでいる事しか出來ないのだから…」

銀河皇國の秩序と統治権の回復を目指すテルーザだが、そのために必要な実働戦力は何も無い。自縦するBSHO『ライオウXX(ダブルエックス)』と、準BSHOとされる『サキモリGG』を保有する近衛隊はあるが、その程度で何かが出來ようはずも無かった。

舊皇國軍はテルーザを傀儡としているミョルジ家の支配下にあり、星帥皇室側とされるロッガ家やキルバルター家の戦力は、テルーザではなく上級貴族達と結託しているのが実である。

葛藤を見せるテルーザに、ゲイラは「そのような事はありません」と告げ、説くように言葉を続ける。

「今回の件。陛下はイマーガラ家に、上の勅命をお與えになりませんでした。もしその勅命をお與えになっていれば、イマーガラ家を倒したウォーダ家は皇國に対する、叛逆行為を行った事になっておったでしょう。まことに賢明なご判斷を下されたおかげで、間接的とはいえノヴァルナ様をお助けなされたのです」

の追従口が含まれているのは分かってはいるが、ゲイラの言葉に救われた気になったテルーザは、でオ・ワーリの友人に語り掛けた。

“余は待っているからな…ノヴァルナ”

▶#19につづく

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