《VRMMOで妖さん》88:説教しよう。

むぅ、飼い犬に手を噛まれるとはこのことか。

昨日と同じようにお腹の前にしっかり手を置かれて、抜け出せない狀態にされてしまった。

「シルク、さっきの左手はお腹の前に添えるんじゃなくて、の前から白雪の右腕を摑んでしまえば腕も封じられたんじゃないか? 脇を締めれば左腕も押さえ付けられるだろうし」

いや、アヤメさんはなにを助言してるのか。

「頑張ったら左腕は脇の方に抜けられそうじゃない?」

「でも無理に両腕をまとめて持ったら、ちょっとしたきでどっちかをへし折っちまいそうにならないか?」

「腕を揃えてもらえば持てなくも無さそうですが、抵抗する相手には難しそうですね」

「當然っちゃ當然だけど、こんな事したことが無いからなぁ」

皆して腕をかして試してみながら変な相談を始めるなよ。

背後から著した狀態で、片手だけで相手の両腕を封じる方法とか模索しなくていいから。

ってか二人で試そうとしても、私とシルクみたいな二倍の格差が無いからまとめて摑めないだろうに。

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「遊んでないでお魚食べなよ。冷めちゃうよー」

というかシルクが熱心に見て覚えようとしてるからやめて。

「そうだな。覚えても活かす機會も無いだろうしな」

「っていうかさ、むぐ、んっ。私昨日シルクと、お世話は家の中だけにするって、あむっ…… 約束した筈なんだよね」

「思いっきり抱っこされて食べさせられてるけど」

「そうなんだよ。これは由々しきむぐっ…… 事態だよ。ここは一発、ご主人様の威厳をっ…… 示さないとだよ」

「威厳、有る?」

「有りますかね?」

「無いだろ」

「あるの! むぐ…… シルク、お外じゃやらないって約束したでしょ!」

言い切った所にまたねじ込まれる。

「こら! やめなさいって…… もー!」

むぅ、これはダメだ。甘やかしすぎたかな。

「シルク、ストップ。一つ聞きたいんだけど、私が怒っても大した事は出來ないし全然怖くないって思ってない?」

意図的に聲を靜めて、若干の圧力を乗せて問いかけてみた。

を捩って上を見てみると、笑顔のままこちらを見て首を振っている。

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あぁ、ダメだなこれ。完全に舐められてる。

「ふぅ、仕方ないね。ちょっと怖い目に遭ってもらうしかないかな」

「ゆ、雪ちゃん…… 相手はまだ小っちゃい」

「お姉ちゃんは黙ってて。これはうちの問題です」

「いや、私雪ちゃんの実のお姉ちゃん…… うぅ、解ったよぅ」

睨み付けて黙らせる。お姉ちゃんは悪くないのにとばっちりだな。終わったら謝ろう。

「どうした?」

「いや、雪ちゃんって上手く加減出來ずにやり過ぎちゃうから……」

失禮な。ちゃんと加減はするつもりだよ。

「さてシルク、覚悟はいいかな? ……ねぇ、私の話聞いてなかった? 何でお魚持ってるの?」

ふーん、そうかー。この期に及んでも笑顔のままかー。

今まで私が流されっぱなしだったのが悪いんだけどさ。

「シルク、魚をお皿に置きなさい」

【跳躍】で正面に転移してから振り向き、驚いた顔のシルクに命令する。

うん、実際今までのも転移すれば抜けられはしたんだよね。

そこまでしなくてもまぁ仕方ないかってじで流されてきたけど。

手に持った魚を置いたはいいけど、前に浮き上がろうとしてるな。

また捕まえるつもりか? 捕まえても抜けられるって示しただろうに。

浮いて移するから別に姿勢はそのままでも飛べるんだろうけど、人っぽくこうとするから椅子から立ち上がるようなきがってる。

シルクが上を前に倒そうとしたところに、顔にぎりぎり屆かないよう気を付けつつ炎を吹き付ける。飛ばせないよ?

あ、びっくりして直した。そういえば私がシルクの前でやった事って、【魔力武】と【錬金】で作りしたくらいだっけ?

ふよふよ浮いてるだけのひよわなご主人様がいきなり火とか吐いたらそりゃ驚くか。

「今、何をしようとしたの? もう一度捕まえちゃえばいいや、なんて思ったの?」

無表のまま問いかける。あの顔は「思ってたけど頷いたら怒られる……」って思ってる顔だな。多分。

「怒らせても大丈夫だと思ってたんでしょう? それじゃこれ、當ててみても良いよね?」

【魔力弾】を使って右手の上に十センチほどの球を浮かべる。

威力は調整してないから、當たると私でもちょっと痛いと思う。

シルクは必死な顔でブンブン首を振ってるな。

「そう。……それじゃこれかな。ったら、一どうなっちゃうのかなぁ……?」

手の上の球を【吸】で吸い取って回収した。

代わりに右手に魔力を集めてらせ、し表に出して手袋の様に魔力を纏う。

例によって、ぶっつけでやってみたら出來た。

出來なかったららせるだけだったけど、威嚇ならそれでも十分だし。

むしろこれ、本當に殺傷力有りそうで危ないかもしれないな。

今更引っ込められないし、當てない様に気を付けよう。

座ったまま怯えた顔でのけ反り、私の手から遠ざかろうとするシルク。

絶対にらない様に注意しつつ、シルクの目の前に手を掲げて……

あっ、を翻して宙に逃げた。往生際の悪い子だ。

「どこへ行こうって言うのかな?」

視界という制限が有るので、し橫を向いて左目の視界の端にシルクを捕らえて【追放】。

右目の視界の端にシルクを飛ばして笑顔で迎える。

「おかえり。話はまだ終わってないよ?」

驚きと恐怖の混ざった顔で急停止して、反転してからまた逃走する。逃がさないよ?

っていうか、再召喚されたら結局逃げられないと思うんだけど。逃げる意味無くない?

「はい、おかえり。まだ続ける? ……仕方ないなぁ」

【魔力武】を使ってシルクより一回り大きい、中が空の箱を生する。

用途の関係もあってちゃんと空気は開けておいた。

「【追放】。はい、ご案と。暴れても無駄だよ。壊れないから」

せっかくお姉ちゃんから吸ったのに、大きなを作ったせいでMPを殆ど使ってしまった。

ご飯食べに來たのにお腹空いちゃったよ……

箱の中から、シルクが壁をドンドン叩いてる。家の中での力ならともかく、敷地外じゃ壊せないよ。

ちゃんと臺に固定して、箱ごと飛んで逃げるのも封じたしね。

「さて、今シルクは私が作った箱の中に居るんだけどさ。……まず、ちょっとこれを見てね」

お皿から魚のほぐしを一塊拾い上げ、シルクがっているものと同じ形の小さな箱にれる。

蓋をして完。今のシルクと同じ狀況だ。

「これが…… こうなっちゃうんだね」

左手に乗せた箱を、右手の人差し指でトントンと何回も叩く。

一度叩くごとにしずつしずつ箱の天井を下げていき、最後には真っ平らに押し固められた魚が殘った。

「……ちゃんと見た? うん、良い子だね……」

穏やかな笑顔は崩さずに言う。あくまでも私の中で穏やかな笑顔だけど。

箱の中のシルクは泣きそうな顔で震えている。……これ、私の顔が怖いんじゃないよね?

「で、さ。私は昨日、家の中で自由にしていいから、お外ではやっちゃだめだよって、シルクと約束したよね?」

言葉を區切る度に箱をトン、トン……と指で叩いてめていく。

最初の問いかけが終わった時點で半分くらいの高さまで下げた。

シルクは既に立つことなど葉わず、へたり込んで壁に両手を突き怯えた顔でブンブンと首を縦に振っている。

「でも、ちゃんと約束したのにさ。シルクは私のいう事なんて聞かずに、約束を破って、自分のしたいようにしたんだよね?」

トン、トン、トンと、一度に下げる量をし減らしてゆっくりと下げていく。

半分から更に三分の二くらいになった。腕をまっすぐばしたくらいか。

涙目になって右手で壁をバンバン叩き始めた。うぅ、心が痛む。

「改めて聞くよ。ちゃんと約束を守れる? あぁでもシルクはもう、一度約束破っちゃったからなぁ。本當に信じていいのかなぁ?」

トントン、トントンと二回セットにして叩いていく。

まぁその分下げるペースは落として、さっきの一回以下なんだけどね。

それを知らなければ、けるプレッシャーは増える一方だろう。

腕をばす事さえできなくなったシルクは床に肘を突き、握った両手を壁に叩きつける。

恐怖に染まった顔でび続けているが、聲は無い。

とはいえ、何を言っているかは容易に察せるので問題は無い。

「約束だよ?」

箱を叩くのを止め、明な壁越しにシルクの顔を覗きこみ一言。

というか、これ以上下げたら本當に潰れ始めてしまう。

殆どけないままで、泣きながらゆっくりと何回も頷くシルク。

これくらいにしてあげよう。

箱を【吸】で食べて、シルクを自由にしてあげる。

……あれ、起き上がらないぞ。

っていうかなんか橫向きに丸まって、両手で肩を抱いてガタガタ震えてる。ヤバくないかこれ。

「雪ちゃん、いくら何でもやり過ぎだよう! シルクちゃん、大丈夫、大丈夫だからね……」

「白雪、お前な…… もうちょっとやりようがあっただろ……」

「ミヤコさん、癒しますのでシルクさんをこちらへ。 ……流石にこれは酷いですよ、白雪さん」

……おおう、味方が居なくなった。お姉ちゃんの危懼通り、やり過ぎちゃったか……

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