傍若無人なユーザーがいると、大変なのはメーカー側で……

「噓だろ……」

ＳＲＯ(スロウ)の運営管理室では、一人のスタッフがログを見ながら呆けていた。それを見た年長の男――責任者のようだ――が聲をかける。

「どうした？」

「あ……木檜(こぐれ)さん、キルされたＰＫが裝備品と所持金の全てを失いました……」

「何？　……バグか？」

「いえ、バグならまだ良いんですが……例の『スキルコレクター』です」

「は？　『スキルコレクター』にそんな効果があったか？」

「いえ、彼がＰＫ三人をキルして……まぁ、これも充分異常なんですが、キルされたＰＫはデスペナで所持金の三分の一を、【解】と【落とし】で殘り三分の一ずつを奪われて、所持金ゼロとなったようです。所持アイテムの場合はもっと酷い。【解】の効果でアイテムバッグもろとも所有権を引き剝がされ、【落とし】がドロップ品扱いに設定して、あとは寄(よ)って集(たか)って(ね)刮(こそ)ぎです」

「何とまぁ……」

この頃には他のスタッフも何かあったらしいと悟って集まって來ていた。その中の一人が、最初のスタッフに聲をかける。

「中嶌(なかじま)、『スキルコレクター』の彼はどうやってＰＫを三人もキルできたんだ？　戦闘スキルは持ってないんだろ？」

「ええ、けど、パーソナルスキルが桁違いに高い。多分リアルで何か武道をやってるか……喧嘩の場數を踏んでるんだと思います」

両方である。

「記録は撮ってるか？　モニターに映してくれ……いいですよね？　木檜(こぐれ)さん」

「ああ。俺も興味がある。中嶌(なかじま)、やってくれ」

「はい」

こうして問題の殺戮シーンがモニターに再現された。

「【地味】【腹話】【べとべとさん】……マイナースキルをよくもまぁ使いこなすもんだ……」

「手(て)拭(ぬぐ)いと石であんなに兇悪な武ができるのか……」

「てか、あれ絶対武か何かやってるだろ」

「ステータスアップの効果もあるんだろうが……一撃で頭蓋骨が陥沒したぞ……」

「首の折り方、妙に手慣れてませんでした？」

冷靜にモニター畫面を眺めていた責任者――木檜(こぐれ)と呼ばれた男は、徐(おもむろ)に全員を見渡して口を開く。

「さて、彼のパーソナルスキルについては、運営としては何も言う事はできない。問題は【解】と【落とし】の相乗効果だ」

「もし彼がＰＫに悪墮ちしたら、酷い事になりますよ」

「普通に狩りしても問題だろ。モンスタードロップが(ね)刮(こそ)ぎにされるぞ」

「あの……既にされてるようです」

中嶌(なかじま)と呼ばれた若いスタッフの聲に、一同が振り返る。

「どういう事だ？」

「これ……同じ日の北フィールドの狩猟記録なんですけど……」

「はぁ！？」

「何だこれは！」

「あり得ねぇ……」

「ドロップ品、(ね)刮(こそ)ぎじゃねぇか……」

全員が呆然とする中で、木檜(こぐれ)と呼ばれた男が獨り満足げに頷(うなず)いていた。

「【落とし】の効果がここまでとは思わなかったな」

「どうします、木檜(こぐれ)さん。修正をれますか？」

「大(たい)楽(ら)、運営が度々修正をれてたらユーザーからの信頼を失うと、以前から言ってるだろう？」

「し、しかし、これはいくら何でも……」

「俺の判斷としては、このままでいいと思う。彼は我々の予想以上の『トリックスター』のようだ。きっと面白い事をやらかしてくれるぞ」

「じゃぁ、このまま放置ですか」

「今のところはな。何かあったら、またその時考えよう。この年を重要監視対象に指定しておけよ。俺は一応上の方に報告してくる」

・・・・・・・・

「そうか……『トリックスター』がね……」

「ええ、我々の予想を上回る逸材のようです」

「予想より大分早いが……大丈夫かね」

「そのために充分な時間をかけて舞臺(ＳＲＯ)を組んでありますから。尤(もっと)も、そういう予測を覆(くつがえ)すのが『トリックスター』なんでしょうが……」

「では、そのプレイヤーの追跡はよろしく頼むよ。それと……そのプレイヤーとの接はどうするね？」

「現狀では考えていません。『スキルコレクター』について説明する必要が生じた時で良いかと思います」

「わかった。その件についても一任する。くれぐれもよろしく」

「はい」

本日はあと二話ほど更新の予定です。