《スキルリッチ・ワールド・オンライン~レアというよりマイナーなスキルに振り回される僕~》挿 話 SRO開発前夜(その2)
し長めです。
社長の指名をけて、左右(あてら)常務が話し出す。先ほどから俯(うつむ)いたままの落合専務には目を向けない――それが禮儀であるかのように。
「三(み)車(ぐるま)の協力が得られるという前提での話だが……第一に、ヴァーチャルリアリティのレベルを上げて、プレイヤーが自分ののき、現実でののきをゲームである程度反映できるようにする。言い換えると、パーソナルスキルの介する余地が大きくなる。格闘技の経験者は、その分だけゲームでも有利にはなるだろうな」
常務の発言に中堅スタッフの一人が反応する。こと討論の場では、変な遠慮はしないのがこの會社の社風である。
「それは現実の技格差をゲームに持ち込むという事ですか?」
「一応はそうなるが、大した問題にはならんだろう。現実でモンスターと闘った経験のある者、まして魔法を使った事がある者はいないだろうからな。寧(むし)ろ余計な経験が無い分、未経験者の方がゲームの習が早いかもしれん」
る程という顔で納得するスタッフ。ここで十字(つじ)氏が発言する。
「我々としては、スポーツ経験者がVRフィールドでどうけるかについて、大いに注目しています。スポーツトレーニングやリハビリにVRシステムを使う事は既に実用化されていますが、あれらはごく単純なきを反復させる事で神経回路の再編を図る、あるいはきの度を上げる事が中心です。我々が目指しているのはその先、最適化されたきを現実のに習得させる事です。スキルを発した時のアバターのきを現実のに覚え込ませるようなものですね」
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どよめきを隠せない參加者一同。もしVRシステムを利用して初心者に経験者並みのきをインストール、いや習得させる事が可能となれば、その影響は計り知れない。VRゲームでは時間を加速している事を考慮にれると、効果が大きいどころの話ではない。なるほど、口外止を言い渡されるのも道理だ。ちらとり口付近の軍人っぽい二人に目を遣(や)った參加者の一人は軍事利用という単語を頭から追い払った。余計な事を考える必要はない。他に考えるべき事は多いのだ。
「VRゲームでののきと現実ののきをリンクさせるとはそういう事だ。さて、第二の點だが、最初に話したように必要以上にモンスターを強化しない事を考えている。例えば、生産職など特別な戦闘スキルを持たないプレイヤーでも、工夫次第で討伐できる程度に抑えたい。従來は戦闘職と生産職の活躍する場に共通點が無い……とまでは言わないにせよ乏しかったが、このゲームでは戦闘職と生産職が獲を巡って競爭するような事も起こり得ると考えている」
左右(あてら)常務の説明に対して、スタッフの一人が挙手して発言を求める。
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「生産職でも戦闘スキルを取る者は多いですよ?」
「序盤はな。しかし、ある程度ゲームが進むと、戦闘職が前線で手した素材を買い取ったり、戦闘職に依頼して素材を採ってきてもらう者が主流になる。生産職が戦闘職に依存する構図ができあがる訳(わけ)だ。殊(こと)にレア素材となると売り手市(し)場(じょう)だからな。生産職は強く言えない立場に置かれがちだ。それにつけ込んで橫暴な真似をする攻略者が出てくるのは、諸君らも知っているとおりだ。その問題を脇に置くとしてもだ、本來必要でない戦闘スキルを取る事で、生産職は時間や労力、資金などの面で負擔を強いられる事になる。序盤でしか使わないスキルだとなると、尚更(なおさら)理不盡に思う者も多いだろう。なにしろ、戦闘職はモンスターを斃(たお)せば終わりだが、生産職はそこからが本番だ。仕事量が増える事を嫌って、自力採集を選ばなくなる者は多い。・引き籠もりを目指してゲームに參加したが、生産職を選んで結局引き籠もりになったという笑い話は聞いているだろう」
別のスタッフが挙手して発言を求める。
「常務の言うとおり戦闘職と生産職が獲を巡って競爭するとなると、余計な軋轢(あつれき)を生むだけでは?」
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「生まれるのは軋轢(あつれき)だけだと考えているのかね? 軋轢(あつれき)とは要するに、人と人との結びつきの産だ。軋轢(あつれき)が増えるという事は、プレイヤー同士の関わり合いが増える、あるいは深化する事でもある」
それを言うなら、先ほど槍玉に挙げられた戦闘職優位の力関係も、プレイヤー同士の関わり合いには違いない筈だが……。
「軋轢(あつれき)を生むにしても、戦闘職と生産職の立場は対等である方がましい。現狀は一部の戦闘職、というか攻略組が主導権を握りがちだ」
「攻略組の全てが常務の仰(おっしゃ)るように高圧的な訳(わけ)ではありませんよ?」
「だとしても、現狀では素材供給を外部に頼る生産職の立場は弱くなりがちだ」
「生産職は必ずしも弱者ではありません。彼らは結構強(したた)かですよ?」
「それに、素材採集から生産まで自力で完結するとなると、常務の仰(おっしゃ)るプレイヤー同士の関わり合いは減るんじゃないですか?」
二人目のスタッフの発言に、今度は別のスタッフが異を唱える。既に挙手して発言なんていうお行儀はどこかへ吹っ飛んでいるが、いつもの事だ。
「必ずしもそうはならんだろう。攻略者と生産者の取り引きを止する訳(わけ)じゃないんだ。自力採集する生産者というタイプが増えるだけだ。逆に攻略者と協働する事で新たな関わり合いが増えるかもしれん」
「だが、生産者から冒険者ギルドへの依頼は確実に減るぞ?」
「それよりも、モンスターの脅威を抑えて生産者の自力採集を促すのなら、結局生産者は戦闘スキルを取得したり、採集に時間を取られる事になります。問題は解決しないのでは?」
「だが、常務の仰(おっしゃ)るとおり、生産者のとり得る選択肢は増える」
収拾のつかなくなる事を嫌ったのか左右(あてら)常務が、ここでの議論は打ち切りという事を暗に匂わせた口調で発言する。
「要は生産職、というより戦闘職以外のプレイヤーがじるであろう不公平……いや、この場合は無力と言った方がいいのかもしれんが、それを無くしたいという事だ。そうすることで新たなユーザー層を取り込む事ができると考えている」
納得したのか不な會話に飽きたのかは判らないが、スタッフたちはそれ以上の追及をやめた。彼とて現在のVRゲームが停滯しているという実はあるのだ。代わって別のスタッフが質問の聲を上げる。
「先ほどの……十字(つじ)さんのお話との関連は? 常務の仰(おっしゃ)るようなゲームである必要は無いように思えますが?」
「象より大きい怪を叩き斬る行のリアリティなど、どう表現するのかね? のきがリアルかどうかは、現実の経験に照らしてしか判斷できん。十字(つじ)さんにしたところで、現実のトレーニングの參考にならんような怪退治のモーションなどまれんだろう。雙方の利害が一致した訳(わけ)だ」
「象より大きい怪(モンスター)は登場させないと?」
「必ずしもそういう訳(わけ)ではないが、なくとも序盤では現実的なモーションを重視したい」
質問したスタッフが頷(うなず)いたのを見て、左右(あてら)常務は話を続ける。
「さて、三つ目だ。なくとも序盤ではプレイヤーの行を現実に即したレベルに抑えるという方針から必然的に導かれるが、サービス開始直後のいわゆるスタートダッシュは廃止する。経験點の取得にプラス補正をかけるくらいは認めてもいいが、ステータス値の非常識な上昇は無しだ」
左右(あてら)常務の斷言に、落合専務が顔を上げて反駁する。
「馬鹿な! ヘビーユーザーを蔑ろにする気か!?」
「君の言うヘビーユーザーとは、いわゆる攻略組の事かね? 一部の攻略組が先走って進んだ結果、じっくりと腰を據えて生産活に勤(いそ)しんでいた職人組との間に乖(かい)離(り)が生じ、武や防の手に困った攻略組が職人組を強制的に拉致・徴用しようとした事件を忘れた訳(わけ)ではあるまい」
左右(あてら)常務が言うのは、いくつかのVRゲームで起きた攻略組と生産職の対立の事である。突っ走る傾向のあった攻略組が、腰を據えて素材採集や生産に従事している――親方に弟子りしたり工房を立ち上げたりしたら、気軽に先の町へ進めなくなるのは仕方がない――職人組に業を煮やして、お前たちは俺たちの後についてくれば良いんだというような暴言を吐いて職人組の猛反発を買った事があった。この時は両陣営の間に誹(ひ)謗(ぼう)中傷(ちゅうしょう)が飛びい、嫌気がさしたプレイヤーが二十名以上ゲームを辭める羽目になった。以後はそれほど大きな対立は無いものの、先陣爭いに道を上げる攻略組と、じっくりと腰を據えて生産活に勤(いそ)しみたい職人組の意見の対立は解消される事はなく、打開策として攻略組はパーティではなくギルドを作って、自前で生産職を囲い込むのが昨今の主流になっている。
本的な原因が攻略組と生産組のゲーム進行速度の懸絶(けんぜつ)にあるのだから、攻略組の速度を抑え、生産組の速度を上げるのが解決のための一つの道であるのは間違いない。スタートダッシュの廃止とモンスターの弱化は、確かに左右(あてら)常務が期待するような結果をもたらすかもしれない(・・・・・・)。
そう。あくまでそれは「かもしれない(・・・・・・)」であって、確実な話ではないのである。結局の所、現狀では先が見えないとして思い切った改革を主張する左右(あてら)常務と、従來どおりの安全策を採ろうとする落合専務の、意見の違いが底にある。とはいえ議論で明らかになったように、左右(あてら)常務の主張する新作ゲームもまだ細かな部分まで検討されたとはいいがたく、落合専務はそこに付ける隙を認めていた。また、落合専務の派閥以外にも、左右(あてら)常務の主張に納得できない思いを抱く者はいたのである。
「左右(あてら)君にしてもまだ新たなゲームの構想を完全に描けてはいないだろう。今は新作開発の方針を確認するだけでいい。詳細を詰めるのは後日という事にして、各部署は各々の視點から新たなゲームについて検討してみてくれ。あぁ、言い忘れていたが、今回のゲームに関する限り、採算について悩む必要はない。ある種の実験作と思ってくれ」
ワンマンと呼ばれる社長の駄目押しのような発言に、參加者一同は開発方針がもはや変更できないものである事を知ったのである。
本作の世界ではこういう流れになっているという事で……。
本話の続きはまたの機會に譲り、次話では本編に戻ります。投稿は火曜日になります。
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