《兄と妹とVRMMOゲームと》第三話 憧憬③

「有!」

「お、お兄ちゃん……!」

転げて這いつくばった有の姿に、と花音は明確な異変を目の當たりにする。

有のHPは一気に減していた。

有の傷から夥しいが床にこぼれ落ちる。

「お兄ちゃん……。うぅ、うぁぁ……。あぁぁぁぁぁっ!」

堪えようとしても堪えきれない聲が、花音の口から突いて溢れた。

有に抱きついた小さなが小刻みに震えている。

花音は嗚咽をらし、涙を止め処(ど)もなく流していた。

ゲームでゲームオーバーになったとしても、強制的にログアウトされるだけだ。

データは初期化されてしまうが、再度、プレイすることができる。

しかし、帰還不能の狀態である今はどうなってしまうのだろう。

「花音、今すぐ回復アイテムをーー」

「君の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを、彼にーー『椎音梨』に使ってほしい」

の悲痛な聲を遮るように、不快な聲が響いた。

が咄嗟に振り返ると、そこには達の驚愕に応えるように、銀髪の青年が意味深な笑みを浮かべて立っていた。

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段差から降りて、すたりとその場に著地した銀髪の青年。

しくも嗜的な瞳と、どこまでも達を見下ろすような笑みを浮かべている。

そして、青年ーー『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘がくのを見計らっていたように、部屋の中に次々とプレイヤーが現れた。

全員がレア裝備をにつけ、それぞれの武達に突きつけてくる。

恐らく、全員が『アルティメット・ハーヴェスト』の一員なのだろう。

紘は迷いのない足取りで達のもとまで歩いてくると、なんのてらいもなく言った。

「彼が目覚めれば、この世界からログアウトできるようになる。もちろん、君の仲間を救うことも可能だ」

「有を攻撃したのは、あんたなんだな。何で、こんなことをするんだ?」

不可解な空気に侵される中、は慄然と問う。

「君の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを、彼にーー『椎音梨』に使ってほしい。そのためなら、私は何でもする」

「俺に接してきたのは、魂分配(ソウル・シェア)のスキルをこの子に使わせるためなんだな?」

「そうだ。君がたとえ、それを拒み続けたとしても、無理やりにでもそれを実行させるまでだ」

紘は先程、吹き飛ばした有のことなど眼中にないように、梨だけを見ていた。

和な表

だが、瞳の奧には確かなりがある。

「くっ……」

紘の鋭い眼に貫かれて、剣を構えたは後ずさむ。

「何故、この子に俺のスキルを使わせようとするんだ?」

梨を生き返させるためだ」

「生き返させる……?」

予測できていたの疑問に、紘は訥々と語る。

「君の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを使えば、梨は現実世界でも生き返ることができる」

「なっーー」

は改めて、紘が口にした言葉を脳で咀嚼する。

つまり、俺が使うことができる魂分配(ソウル・シェア)のスキルはーー

「生の人間すらも、魂を分け與えることができるのか?」

の問いに、紘は表の端々に自信に満ちた笑みをほとばしらせた。

それが答えだった。

「さあ、君の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを、梨に使ってほしい」

「ーー仲間を傷つけた奴の頼みなんか、聞けるかよ!」

抱きかかえていた梨を床に寢かせたと同時に、が仕掛けた。

の加速に、紘はわずかに自の武である槍をかし、が進む先に刃先が來るようにして調整して対応する。

「くっ!」

槍先を打ち払おうとするの剣のきに合わせて、紘は絶妙な力加減でを吹き飛ばした。

くん!」

瀕死の有に、回復アイテムを使用していた花音が悲鳴を上げる。

途切れそうな意識の中、の心中は疑問だけが浮かぶ。

椎音紘は何を考えているのか。

何故、そこまでして彼を生き返させようとしているのか。

「……どうすればーーどうすればいい?」

「勝負ありだ。仲間が死ぬ前に、梨に魂分配(ソウル・シェア)のスキルを使ってもらおうか」

が消えた瞳とともに、突きつけられた槍先。

地面に倒れたを見下ろし、紘が冷たく言った。

「ーーの、くん!」

「花音!」

視線を向ければ、有を回復させていた花音も、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達によって、いつの間にか捕らえられている。

「……くっ、分かった」

は不満を込めて立ち上がると、ぐったりとしている梨のもとへ歩いていく。

規則正しく繰り返される呼吸。

その穏やかな寢顔を見ていると、彼は本當にただ眠っているだけのような気がしてくる。

『魂分配(ソウル・シェア)!』

そのスキルを使うと同時に、の視界は靄がかかったように白く塗り潰されていく。

覚も薄れて、まるで微睡みに落ちるようだった。

ーー有、花音。

遠くなる意識の中、はただ、仲間の無事を強く願った。

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