《兄と妹とVRMMOゲームと》第六話 籠の中のは星を求める②
「くん……」
儚き過去への回想ーー。
沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた花音は、改めての様子を伺う。
「くん、大丈夫だよね」
花音は自分に言い聞かせるようにつぶやくと、今も眠り続けているの寢顔をじっと眺める。
既に、あの出來事から丸一日が過ぎていた。
ギルドの窓からし込む夕日は、普段より眩しく思えた。
赤みがかかった長い髪が、の頬をでる。
花音の表には、明白な悄然と焦燥が滲んでいた。
「……っ」
「の、くん!」
その時、の掠れた聲が聞こえた。
「……花音?」
「くん、気がついたんだね!」
意識が覚醒する微かな酩酊は、思いもよらず近くからかけられた花音の聲によって一瞬で打ち消される。
「ここは?」
「私達のギルド、『キャスケット』だよ」
目覚めたは、顔を覗き込むようにしてを乗り出している花音の近さに思わず、瞬きした。
はを起こして一度、ため息を吐くと、安堵の表を浮かべている花音に尋ねる。
「有は?」
「お兄ちゃんは、今回の件を運営に訴えているの。『アルティメット・ハーヴェスト』が告げたとおり、くんがスキルを使ったことでログアウトできるようになったから」
「…………そうか。ログアウトできるようになったんだな」
気まずそうな花音の言葉に、はし躊躇うように顔を俯かせる。
「あのさ、花音。不思議な夢をしたんだ」
「不思議な夢……?」
「俺が、あの梨っていうの子になっている夢を見たんだ」
の追験に、花音は沈痛な表で考え込む。
「もしかしたら、それは夢じゃないかも」
「夢じゃない?」
「あの人が言っていたの。『なら、私達を止めてみるがいい。平等に、彼と彼を取り合おう』って」
あの時の紘の言葉を想起させるような狀況に、花音は切羽詰まったような聲で告げた。
「魂分配(ソウル・シェア)のスキル。つまり、あの時、俺の魂を梨に分け與えたんだよな」
花音の話に、は苦々しい顔で眉をひそめる。
「俺が目覚めている時は、梨は眠っている。逆に梨が覚醒している時は、俺の意識はないと考えた方がいいのか」
「また、くん、目を覚まさない狀態が起こるの?」
「恐らくな。だけど、梨の時は、梨としての自覚はあっても、俺としての自覚はないからな」
の言葉に、花音は思わず心臓が跳ねるのをじた。
知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめてしまう。
「じゃあ、くんが梨ちゃんの時は、私達が話しかけても気づいてもらえないのかな」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて聲を震わせる。
すると、はそんな彼の気持ちを汲み取ったのか、頬をでながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。確かに気づかないかもしれないけれど、気づく努力はするからな」
「……うん。くん、ありがとう」
顔を上げた花音は、のつかえが取れたように微笑む。
は深呼吸をすると、眠り続けていたせいで重くなったをほぐすように両手をばした。
「とにかく、有のところに行こう。ログアウトできなかった理由も知りたいしな」
「うん」
ベッドから立ち上がったのいに、花音は満面の笑顔で頷いた。
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