《兄と妹とVRMMOゲームと》第七話 籠の中のは星を求める③
時は、が目覚める前ーー紘が梨を連れて『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに戻った頃に遡る。
「梨……」
「お兄、ちゃん」
ベッドに下ろされた梨は、何かに怯えるようにして俯いていた。
不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるようにに手を添える姿はいじらしかった。
ならまず見せない気弱な姿に、紘は優しく微笑んだ。
「梨、もう大丈夫だ」
「お兄ちゃん、わ、私ーー」
梨のその聲音は弱々しく、あまりにも脆い。
まるで、ここに存在していること自に恐怖しているようだ。
紘はふっと悟ったような表を浮かべて、梨のもとに歩み寄ると膝をついて語りかけた。
「梨は生きている。もう怯える必要はない。これからはずっと一緒だ」
「……うん」
紘の懇願に、梨は噛みしめるようにそう答える。
ただ、今は、濁流みたいに押し寄せてくるに耐えるだけで一杯だった。
「紘。梨、本當に目を覚ましたのか?」
「ーーーーーーっ!」
唐突に響いた年の聲とドアが開く音に、梨は聲にならない悲鳴を上げる。
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「よお、梨!」
「…………っ」
年の気楽な振る舞いに、梨は怯えたように紘の背後に隠れた。
「そうやってすぐ隠れるところは、生き返っても変わっていないな」
「徹。梨を驚かせるな」
年がそう労うと、紘は不服そうに眉をひそめる。
年の名は、鶫原(つぐみはら)徹(とおる)。
『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドの一員であり、現実でも紘達の友人だ。
梨は顔を上げると、躊躇うように口を開いた。
「……ねえ、お兄ちゃんは、私がここにいても、良いと思う?」
「當たり前だ」
紘の即座の切り返しに、梨は初めてらかく微笑んだ。
「俺もそう思うぞ!」
「……う、うん」
徹がここぞとばかりに口を挾むと、梨は掠れた聲でつぶやいた。
「徹、何しに來た?」
「おっ、そうだった」
紘の指摘に、徹は持っていた星の髪飾りを差し出す。
「……あっ」
小さく聲をらし、梨は星の髪飾りを見つめた。
「梨に似合うかなと思って買ってきたんだ。ほ、ほら、退院祝い、いや、生還祝いだな」
上った徹のその聲が聞こえていないのか。
梨は星の髪飾りに目を落としたまま、おしそうにれている。
「綺麗……」
梨はしばらく星の髪飾りを見つめーーやがて優しい手つきで髪に付ける。
「似合うな」
「……うん」
紘の稱賛に、梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。
「紘様。梨様が目覚めたことにより、『創世のアクリア』からログアウトできるようになりました。運営から、今回の件についての通達が屆いております」
「分かった」
『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバーからの知らせに、紘は表を引き締める。
「梨、すぐに戻る。そして徹、梨を泣かせるな」
「……うん」
「何で泣かせること前提なんだ!?」
紘の言葉に、梨が小さく頷き、徹は不満そうに言い返した。
部屋を出て、階段を降りた紘は早速、運営側とコンタクトを取る。
『仰せのとおり、『帰還不能狀態』は既に解除されています。今回の現象については、プレイヤー側にはシステム上の不合として説明させて頂きました』
「首尾は上々だった」
『ありがとうございます』
運営側と談を行っていた紘は、上の階にいるしい妹に想いを馳せた。
原因不明の帰還不能狀態。
それは紘達、『アルティメット・ハーヴェスト』によって仕組まれたものだった。
が持つ『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』を、亡くなった梨に使わせるためにーー。
紘は通信を切り、控えていたメンバー達の方を振り向くと、神妙な面持ちで話し始めた。
「私はこれから梨とともにログアウトして、亡くなったはずの梨の環境がどう変わっているのか、確かめてくる。分かっているとは思うが、今回のことは他言無用だ。あくまでも、運営側のミスとして扱うように」
「かしこまりました」
紘の指示に、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達は丁重に一禮すると、速やかにその場を後にしたのだった。
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【今日の一冊】に掲載されました。 勇者パーティーから追放された俺。役に立たないのが理由で、パーティーだけでなく冒険者ギルドまでも追放された。勇者グラティアスからは報酬も與える価値はないとされて、金まで奪われてしまう。追放された俺は、本當に追放していいのと思う。なぜなら俺は錬金術士であり、実は俺だけ作れる伝説級アイテムが作れた。辺境の領地に行き、伝説級アイテムで領地を開拓する。すると領地は最強になってしまった。一方、勇者もギルドマスターも栄光から一転して奈落の底に落ちていく。これは冒険者ギルドのために必死に頑張っていた俺が追放されて仲間を増やしていたら、最強の領地になっていた話です。
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