《兄と妹とVRMMOゲームと》第十五話 その先の未來③
「彼が死んだ……?」
言葉の意味を理解した瞬間、年の瞳は涙に濡れた。
年はずっと、一人のに想いを寄せていた。
人見知りの激しい彼を、遠くから見守っているだけの儚い。
彼に聲をかけることも、れることもできずにただ見つめていた。
しかし、その日、年は初めて、救急車に運ばれていくと遭遇する。
椎音梨。
両親の口論に巻き込まれて死んだ。
それは、世界の端っこで起きた小さな悲劇。
だけど、年にとっては、何よりも堪えがたい事実だった。
一転として混沌と化す現実に、年は呆然と立ち盡くす。
「僕は、梨のために何もしてあげられなかったのか」
それはまるで、祈りを捧げるような懇願だった。
その虛無は、今までの不甲斐ない過去よりも、年の心に突き刺さった。
その後、梨の通夜と葬式が取り行われたことで、年は梨の死を否応なしに実する。
その時、攜帯端末にメッセージが屆いた。
いつものギルドマスターからの招集の連絡に、年は苦悶の表を浮かべる。
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「僕はどうして、梨と同じギルドにらなかったんだろう」
年ーー巖波(いわなみ)奏良(そら)は蚊が鳴くような聲でつぶやいて、自分の袖を強く握りしめた。
もしも、自分が梨と同じギルドにっていたら、彼を護ることができたかもしれない。
その事実は、奏良の心に底の見えない亀裂を浸食させていく。
涙が止まらなかった。
湧き水のように溢れ出してきて、止めることができなかった。
奏良は、いつまでもいつまでも自分自を責め続けた。
紘達の策略によって、が梨としても生きるようになってから、しばらく経った日。
「の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを使って、梨を生き返えらせた?」
ギルドマスターである有からの報告に、奏良は耳を疑った。
『創世のアクリア』の公式リニューアル前に、の家に招かれた奏良は、想定外のことを聞かされて目を瞬かせる。
「梨って、椎音梨さんのことか?」
梨が生き返ったことを未だに信じられない奏良が、すがるように有を見る。
「ああ。『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスター、椎音紘の妹だ」
「そうか」
有に何度も確認した後、奏良はひそかに口元を緩める。
その時、目を覚ましたが、花音に支えられながら有達がいる部屋にってきた。
「奏良、來ていたんだな」
「……ふん」
が軽い調子で言うと、奏良は不満そうに目を逸らした。
「最初は報告を疑っていたが、おまえは本當に彼とれ替わるようだな」
「ああ。だけど、梨の時は、梨としての自覚はあっても、俺としての自覚はないからな」
「それならいい。むしろ、あってもらっては困る」
の言葉に、奏良は素っ気なく答える。
魂分配(ソウル・シェア)のスキルは、自の魂を梨に分け與えるスキルだ。
今の梨は、の魂と生前の梨の魂が融合して生き返った存在だった。
しかし、現実で半年ぶりに再會した梨は、以前の彼のままで、魂を分け與えたの片鱗さえもなかった。
あの日以來、抱くこともなかったしいが沸き上がるのを奏良はじていた。
奏良は目を伏せると、梨を思い浮かべながら優しく語りかける。
「。梨が困っている時はいつでも言ってくれ。すぐに馳せ參じよう」
「あ、ああ」
梨に対しての言葉に、は何と答えたらいいのか分からず、曖昧な返事を返した。
それをどう解釈したのか、奏良は踵を返し、噛みしめるように言う。
「僕が必ず梨を守ってみせる。今度こそ、君の不安を取り除いてみせる」
決然とした言葉を殘して、奏良はその場を後にした。
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