《兄と妹とVRMMOゲームと》第二十二話 星焔の共鳴②

「失いたくない」

上手くきの取れないの頬を、涙が一筋だけ伝い落ちる。

「みんなを守りたい……!」

息も絶え絶えのは、地べたに這いつくばった。

みんなを守る力がほしいーー。

それは願っても屆かない。

のスキルは、一度きりしか使えない。

そして、そのスキルはもう梨に使ってしまっている。

だけど、は必死に倒れている花音達のもとへと進んでいった。

戦うはないのかもしれない。

ボスモンスターを倒す方法なんて分からない。

それでもは諦めなかった。

『……『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』』

不意に梨の聲が聞こえた。

それはを介し、の意味が付與された梨の聲。

「俺はーー俺達は諦めない!」

顔を上げたは、に燈った炎を大きく吹き上がらせた。

眼前に迫った黒きを前にして、はこの世界で、たった一つだけの自のスキルを口にする。

『魂分配(ソウル・シェア)!』

そのスキルを使うと同時に、の視界は靄がかかったように白く塗り潰されていく。

覚も薄れて、まるで微睡みに落ちるようだった。

ーー何だか、梨とれ替わる時みたいだな。

遠くなる意識の中、はただ、そう思った。

そして、の意識が途絶えたーーその瞬間、に変化が起きる。

が放たれると同時に、腰までびたき通るようなストロベリーブロンドの髪がたなびく。

病的なまでに白い

穢れなき白を基調したドレスは、らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。

まるで語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの貌。

が消えると、そこにはではなく、梨が立っていた。

『……仮想概念(アポカリウス)』

その聲は、靜かに場を支配した。

空気が変わる。

梨は甘く冷めた表のまま、自のスキルを用いて眼前に迫っていた黒いを消滅させた。

「ーーっ!」

想定外の景を前にして、有は思わず刮目してしまう。

手で打ち払ったり、武を用いて、ボスモンスターの攻撃を跳ね返したわけではない。

梨は文字どおり、自のスキル名を口にしただけで、その攻撃をなかったことにしてしまった。

「ど、どういうこと? くんが知らないの子に変わったよ?」

「……梨が、どうしてここにいるんだ?」

花音の疑問に捕捉するように、奏良は虛を突かれた表でつぶやいた。

「えっ? あの子が梨ちゃんなの?」

「…………っ」

花音がたじろぎながらも率直な想を述べると、有達の存在に気づいた梨は息を呑み、驚きを滲ませる。

「あの、梨ちゃん」

「ーーーーーーっ!」

花音が傷ついたを起こして聲をかけると、後ずさった梨は聲にならない悲鳴を上げる。

「妹よ、何が起きたんだ?」

梨!」

「……だ、誰」

花音だけではなく、有と奏良まで近づいてくると、梨は怯えたように跡のに隠れる。

「お兄、ちゃん、徹くん、どこ?」

梨は耳を塞ぎ、小さな肩を震わせて、まるで瞳に映る全てのものを否定するように深く俯いていた。

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

その時、梨の存在に気づいたボスモンスターが跳躍し、一気に梨に迫る。

梨に手を出すな!」

奏良は梨の前に立つと、絶え間なく弾丸を撃ち、ボスモンスターの気を逸らそうとする。

數十発の風の弾がボスモンスターの顔面に衝突し、大きくよろめかせた。

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