《兄と妹とVRMMOゲームと》第二十三話 星焔の共鳴③
「怖い……」
跡のに隠れていた梨は、怯えるようにして俯いていた。
不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるようにに手を添える姿はいじらしかった。
ならまず見せない気弱な姿に、花音は優しく微笑んだ。
「梨ちゃん、大丈夫だよ。一緒にここから出よう」
「……だ、誰?」
「私は、西村花音。よろしくね」
梨の殊勝な発言に、花音はそっと語りかける。
に染みる靜寂が舞い降りたのは一瞬。
「……私は、椎音梨」
顔を上げた梨は、今にも壊れてしまいそうな繊細な聲でつぶやいた。
「くっ……。一向に、HPが減らないな」
ボスモンスターとの戦闘の合間、有は花音達のもとに訪れると、が梨に変わってからずっと疑問に思っていたことを口にした。
「梨よ。俺は、西村有だ。先程の力は、特殊スキルだな?」
「ーーっ!」
有の指摘に、梨の肩がびくりと跳ね、あたふたと視線を泳がせる。
「もう、お兄ちゃん。梨ちゃんをびっくりさせたらだめだよ」
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有の率直な発言に、花音が嗜めるように腰に手を當てた。
そんな花音の反応に、有は表を緩めて軽く肩をすくめてみせる。
「梨よ、驚かせてしまってすまない」
「……っ」
有の謝罪に、梨は持っている杖をぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。
梨は顔を上げると、意を決して話し始めた。
「うん。特殊スキル」
「そうか」
梨のその発言が、先程の疑問の答えなのだと気づくと、有は改めて切り出した。
「梨よ、ここから出るために力を貸してほしい」
「力……?」
有から思いもよらない言葉を告げられて、梨はただただぽかんと口を開けるよりほかなかった。
戸う梨をよそに、有は先を続ける。
「梨よ、頼む」
「梨ちゃん、お願い」
「……っ」
有と花音の重ねての懇願に、梨は息を呑み、驚きを滲ませた。
「…………」
梨は何も答えない。
ただ、沈痛な表を浮かべて、何かを我慢するように俯いている。
その理由を慎重に見定めて、有はあえて軽く言う。
「もしかして、椎音紘から、知らない者達と関わるなと告げられたのか? しかし、『特殊スキル』のことを、俺達に話しても大丈夫だったのか?」
「ーーーーーーっ!」
有に指摘されたことにより、梨は自分の迂闊な発言に気づいてその場に屈み込む。
消えるようにつぶやかれるのは、抑揚のない言葉。
「ごめんなさい。ごめんなさい。お兄ちゃん、特殊スキルのことを話してごめんなさい」
まるで壊れた機械のように、梨は懺悔の言葉を繰り返す。
「梨……?」
その異様な景に、有は手を差し出すことさえできなかった。
どうして、特殊スキルのことを話しただけで、梨は取りしたのか。
どうして、が特殊スキルを使った途端、梨とれ替わる現象が起こったのか。
有の脳裏に浮かぶのは、疑問ばかり。
それでも、わずかに殘る理は、ある仮説を立てる。
魂分配(ソウル・シェア)のスキルは、自の魂を他に分け與えるスキルだ。
の魂を梨に分け與えたことで発生した、と梨のれ替わり現象。
もっとも、片方が目覚めている時は、もう片方は眠っている狀態になるため、の意識が移することで発生するれ替わり現象と言った方がいいのかもしれない。
現実では一日置きに起きる現象だったが、仮想世界では恐らく、の特殊スキルを使うことによって発生してしまうのだろう。
「梨ちゃん、大丈夫だよ」
怯える梨を前にして、花音が視線を合わせるように屈んだ。
「梨ちゃんのお兄ちゃんは、きっと怒ったりしないよ。梨ちゃんのために、くんに特殊スキルを使ってもらおうとして必死だったもん」
「くん……」
「もしかして、梨ちゃんのお兄ちゃんから、くんのことを聞いたの?」
「……うん。私を生き返させてくれた人」
花音の問いに、梨は躊躇いながらも頷いた。
梨の表がく強ばったことに気づいた花音は、し困ったようにはにかんでみせる。
「そうなんだね」
「……うん」
泣き出しそうに歪んだ梨の表を見て、花音は言葉を探しながら続ける。
「ねえ、梨ちゃん。私と友達になってくれないかな?」
「友達?」
「だめかな?」
花音の訴えに、梨は不安を吹き飛ばすように首を橫に振った。
ゆっくりと立ち上がった梨が心配そうに尋ねる。
「でも、すごく人見知りだけど、こんな私でもいいのかな?」
「うん。梨ちゃん、よろしくね」
花音の言葉に、梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「有、花音。君達も、しは手伝え! 僕一人で、ボスモンスターの足止めをさせるな!」
そんな中、一人でボスモンスターと戦っていた奏良の悲痛なびが、最深部に響き渡ったのだった。
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