湖畔の街、マスカット。

地平線まで続く金の麥畑を風がでていく。

のぞかな田園の真ん中を貫く道の奧に、有達のギルド『キャスケット』はあった。

「梨ちゃん。ここが湖畔の街、マスカットだよ」

花音は慨深げに、マスカットの街並みを見渡しながらつぶやいた。

だが、花音のその聲が聞こえていないのか。

梨は目を閉じたまま、おしそうに風をじている。

「……優しい風」

「うん、風が気持ちいいね」

梨の言葉に応えるように、花音は相打ちする。

「ねえ、お兄ちゃん。梨ちゃんと一緒にウインドウショッピングして來てもいいかな？」

「妹よ、問題ない。報酬の件は、俺達の方でもらっておくからな」

喜び勇んで願い出た花音の頼みに、有はあっさりと承諾した。

ウインドウショッピングと聞いて、奏良は不意を突かれたように顔を直させる。

「有、悪いが、僕は梨を守らないといけない。報酬の件は、有達に全面的に任せよう。僕は、梨の護衛をする」

「奏良よ。本音がバレバレだぞ」

期待を膨らませたような奏良の聲に応えるように、有はやれやれと呆れたように眉を寄せた。

『キャスケット』のギルドから出て、田園通りを進んでいくと、店の立ち並ぶ通りに出た。

整然とした造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。

「あっ、梨ちゃん、この店、ってみようよ？」

「お店……？」

花音に呼ばれて、周囲を見渡していた梨は振り返る。

花音に招かれた店は、アクセサリーショップだった。

「いらっしゃいませ」

店にった花音達を、NPCの店員が応対する。

棚には、幾つもの裝飾品が並べられていた。

指、腕、ブローチ、ガントレット、アンクレットなどの裝備品から、ぬいぐるみやギルド専用のアイテム収集鞄もある。

「梨ちゃん、このブローチ、可いよ」

「……綺麗」

花音の薦めに、梨はしばらくブローチを見つめーーやがて優しい手つきでそっとれる。

「ペンギン男爵さんのぬいぐるみ、可いね」

スポットナビゲーターのぬいぐるみを発見して、花音は両手を広げて歓聲を上げる。

花音は楽しげに後ろ手を組んで、棚に並ぶ商品を見渡した。

「うーん。このアンクレットは可いけれど、効果はいまいちかな」

花音は、気になる商品に向かって指をかし、視界に浮かんだ商品名と効果、値段などを確認する。

「梨と買い、いいな」

「何故、僕はいつものように、梨を見守っているだけなんだ」

そんな中、花音達の様子を窺っていた二人の聲が揃って、店に響き渡った。

その途端、店に不穏な空気が流れる。

「おまえ、どうしてここにいるんだよ？　何で、梨達の様子を見ているんだ」

「君に話す必要はない。僕は、あの髪飾りのような彼に似合うものを探しているだけだ」

徹が非難の眼差しを向けると、奏良はきっぱりと異を唱えてみせた。

「あの星の髪飾りは、俺が梨に似合うかなと思って買ってきたんだ！」

「なっ、あの髪飾りは、君が渡したのか！」

激しい剣幕で言い爭う徹と奏良をよそに、花音と梨はお目當ての裝飾品を購して店を去っていく。

殘されたのは、険悪なムードで睨み合う二人の年だけだった。