《兄と妹とVRMMOゲームと》第ニ十八話 二人の姫君④

「あっ……」

梨に異変が起きたのは、花音達がショッピングを終えた後、ギルドに戻ろうとして田園通りを歩いていた時だった。

梨ちゃん、どうしたの?」

「……っ」

花音が疑問を口にしたその瞬間、梨のに変化が起きた。

が放たれると同時に、ストロベリーブロンドの髪の煌めきが飛散し、芒が薄闇に踴る。

が消えると、そこには梨ではなく、が立っていた。

「ーー梨から、もとに戻ったのか?」

意識を取り戻した時、はすぐに違和に気づいた。

先程まで自の特殊スキルにより、梨とれ替わっていたはずなのに、いつの間にか元の姿に戻っている。

周囲を見渡すと、の視界には、幻想的な淡い夕暮れがどこまでも遠く広がっていた。

「ど、どういうこと? 梨ちゃんが、くんに戻ったよ?」

「魂分配(ソウル・シェア)のスキルは、魂を分け與える力だ。梨に魂を分け與えたことで、ゲームでも、スキルを使うことで梨とれ替わるみたいだな」

花音が戸ったように訊くと、は顎に手を當てて、真剣な表で思案する。

はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、梨の時と同じように自のレベルが上昇していることを確認した。

「そうなんだね。じゃあ、くんがまた、スキルを使ったら、梨ちゃんになるのかな?」

「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」

花音の疑問に応えるように、は再び、自のスキルを口にする。

しかし、今度は何も起こらない。

狀況がいまいち呑み込めず、は苦々しい顔で眉をひそめた。

「変化なしか」

くんと梨ちゃんが、ゲームでもれ替わる現象。どうして、こんなことが起こったのかな」

赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて聲を震わせる。

すると、はそんな彼の気持ちを汲み取ったのか、頬をでながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。

「花音。俺も、そして梨にも分からないみたいだけど、答えを探す努力はするからな」

「……うん。くん、ありがとう」

顔を上げた花音は、のつかえが取れたように微笑む。

は深呼吸をすると、元に戻ったことを確認するようにをほぐして両手をばした。

「とにかく、有達のところに行こう。もとに戻ったことを伝えないとな」

「うん」

手を差し出してきたいに、花音は満面の笑顔で頷いた。

梨ちゃん、帰りは一緒に手を繋いで帰ろう』

『……う、うん』

ショッピングをしている最中にわした花音と梨の會話。

梨とわした約束を、は顔を赤らめながらも律儀に守ってくれている。

花音は微笑むと、今日の思い出を心の中に仕舞う。

ーーくん、梨ちゃん、ありがとう。

それは、三人だけの大事な約束だった。

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