《兄と妹とVRMMOゲームと》第ニ十九話 魔天樓を見上げて①

「有」

「お兄ちゃん」

よ、もとに戻ったのか?」

花音とともにギルドに戻ってきたの姿を見て、有は明確な異変を目の當たりにする。

。おまえに戻ったのか……」

徹と遭遇した件を、有に報告をしていた奏良は落膽した聲でつぶやいた。

運営側にコンタクトを取っている有の母親に目配りしながら、有は仕切り直して続ける。

、奏良、妹よ。今後のことで相談したいことがある」

「相談したいこと?」

が問いかけるような聲でそう言うと、有は軽く頷いてみせる。

「まず、梨の件だが、世間では両親の口論に巻き込まれた際に心肺停止の狀態になり、そのまま病院に運ばれたが、奇跡的に助かったという認識になっている」

「実際には、梨は両親の言い爭いに巻き込まれて死んだんだよな」

「正直なところ、僕としても、この事実は意外だった。僕の認識では、今も『梨は両親の言い爭いに巻き込まれて死んだ』ことになっているからな」

の言葉を追隨するように、奏良は苦々しい表を浮かべた。

今も……?

もしかして、私達の認識と、世間の認識にはズレが生じているの?

話についていけなくなった花音が、かろうじて問いかける。

「お、お兄ちゃん、くん、奏良くん、どういうこと?」

「つまり、俺達の認識では梨は一度、死んだことになっているが、世間では、梨は心肺停止の狀態に陥ったけれど、無事に助かったということになっているんだ」

「妹よ。恐らく、特殊スキルの使い手がいるギルドのメンバー達は、特殊スキルによる世界改変の影響をけないのだろう」

と有の説明に、特殊スキルの変革の真実に気づいた花音の瞳が見開かれる。

梨はの特殊スキルによって生き返ったが、そのことを認識しているのは達や紘達、特殊スキルの使い手がいるギルドのみである。

それ以外は皆、梨が一度、死んだという事実さえも知らない。

その矛盾した事実が正しい歴史として紡がれていくことに、達は戦慄してしまう。

は瞬きを繰り返しながら、梨としての記憶を思い出してつぶやいた。

「特殊スキルは、仮想世界のみならず、現実世界をも干渉する力か。だけど、俺も梨も、自の特殊スキルについてはよく分からない點が多いからな」

不可解な謎を前にして、は思い悩むように両手をばした。

有の母親が先程、わした運営とのやり取りのメッセージを共有すると、有は表を引きしめる。

、奏良、母さん、妹よ。今後の方針についてだが、今回のクエストで手にった転送アイテムを用いて、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドがある王都、『アルティス』に赴くつもりだ。そこで、れ替わった際における梨の一時的なギルドの兼任の要請、そして、新たなギルドメンバーを探そうと思っている」

「新たなギルドメンバー……!」

梨ちゃんが、私達のギルドにるの?」

梨が、僕達のギルドに一時的に加するのか!」

有の決定は、達の理解の範疇を超えた代だった。

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