《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》戦場のラジオ

師匠が後部座席から聲をかけてきた。

「コウ。ここは敵の勢力圏。目的地は二つある。まずは人類の生存圏まで撤退。そこで人間社會に合流することだ」

「もう一つは?」

「私の願いでもあり、君の力にもなる施設がある。そこへ行けば大抵はなんとかなるだろう」

「後者で」

迷いはなかった。師匠の願いがあるなら、そこへ行くべきだろう。

「補給もない。敵地の中心に乗り込むことになる。いいのか」

「人類の生存圏に戻って、師匠が生きている間に目的地にいける可能は?」

「……君に託すだけだな」

「なら迷わない。俺と五番機はそこへ行く。なんていう場所だ?」

「地名にもう意味はない。そこにいけば、【工廠】がある。もう、くこともない、封印された施設だが……」

くあてはあるんだな?」

「君だよ。【構築技士】。無制限権限を持つ君ならかせる」

「【便利屋】だろ?」

コウは薄く笑った。便利屋という響きはいい。

「そこに師匠の願いがあるんだな」

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「ああ。もう葉わないと思って諦めた夢だ。君に付き合わせるはめになり、心が痛む」

「気にするな。師匠がいなければあそこで地面のシミになっていただけだしな」

「わかった。目的地は封印された【工廠】。時速80キロ巡航で五日」

「遠いな……」

東京から福岡までで考えると、1100キロで14時間程度。

「舗裝された道路でもないし、直線距離でもないからな。途中で戦闘も考えられる。十日以上かかると思った方がよいな」

「了解。じゃあ、行くか」

膝を屈め、ローラー移で走りだす。

無人の荒野への、旅立ちだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ん?」

巡航モードだ。五番機は移している。

時間をみると夕暮れ前。五番機が何かを信し、コックピットに流す。

「音楽?」

コックピットに音楽が流れていた。

『アシアC212領域の皆様、こんばんは。ダスクバスターの時間です。戦場の皆様に心和らぐ曲をお送りしたいと思います。パーソナリティのブルーです。本日もよろしくお願いします。最初のナンバーは……』

「ラジオ!」

のある綺麗なの聲が聞こえてきた。

ラジオとしか思えない音聲だ。ラジオなどあるとは思わず、驚きを隠せない。

「ラジオか。ん? ということは展開している部隊が付近にいるかもな」

「この星にラジオがあるのか」

「そりゃあるさ。戦場で映像放送をみるわけにもいくまい。數ない娯楽でね。大きな部隊が放送する場合があるのさ」

コウの知っている曲が流れてきた。

この時代でもナンバーというのか、と思う。不思議なじだ。

「娯楽か。確かに邪魔にならないな」

「そうだな」

二人は音楽を聴きながら、無人の野を走っている。

「近くに人間の居住區域があるか、大がかりな部隊が展開している可能もある」

「居住區なら補給できるか? 補給するものはそうないと思うけど」

「それぐらいの寄り道は可能だろう。君もしはこの時代の人間と流したほうがいい」

「ずっと一人は無理だよな」

機械の整備、補給。生きる。それらを考えると、早急に現地の人間と合流する必要があった。

「師匠」

「ん?」

「転移者もたくさん死ぬのかな?」

「たくさん死んでるね」

「そうか」

師匠の返答に彼は納得した。自分も死にかけたのだ。

五番機が無ければあの廃墟から生き延びたとしても、いずれ死ぬことになるのだろう。

「敵はマーダーのような殺戮無人兵だけじゃない。いつかシルエットに乗った人間ともやりあわないといけない。ストーンズにも協力している人間の勢力はある」

「覚悟している」

損得勘定は人間誰しもある。もし自分に害が及ばないのなら、ストーンズについたほうが勝算はあると考える勢力はいるだろう。

そうなればコウも戦わないといけないのだ。

ファミリアたちを破壊することに積極的なストーンズに與することは考えられなかった。

毎日刀を振っていた。

剣先にいる、存在しない人間を相手に。

もちろん神修養の一環だ。平和な日本で刀を持つ意味はない。

実際に人を斬る機會などあるわけがない。それでも、居合いは想定しないといけないのだ。

敵がいて、どう迎え撃ち、どう反撃するか。誰もいないその先、そして自分自を。

生き殘るためにためらっている余裕はない。

そういう意味でみずからを異端者であることは自覚していた。

「みんな、地球に戻りたいんだろうな」

「そうだろうね。コウもかい?」

「俺はさほど。親いないし」

「そうか。郷の念に駆られられても困るが、この世界で君の居場所が見つかるといいな」

「ん?」

コウは笑った、

「ここ、じゃないか」

レバーを叩いた。

「そうだな、野暮だった」

そういって師匠も再び眠りにったのだった。

殘されたコウは、ラジオに耳を傾け、久しぶりに聞く音楽に癒やされた。

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