《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》工廠

「詳しい説明は明日行いましょう。今日はお休みください」

「どこで寢るか。五番機にしようかな」

「センター橫に仮眠室のベッドがありますよ。ヒトがいなかったのでシーツとかないのですが……」

「ああ、そこでいい。案してくれ」

コウは仮眠室を確認したあと、三人に解散を命じ、部屋を出た。

「あれ? どこへ行かれるのですか?」

「せっかくだから艦を見て回ろうと思ってね。一人でのんびり行くから気にしないでくれ」

「わかりました」

そしてコウは後悔する。

巨大な空母型施設を歩く、という行為を。

は一層が航空機関連の格納庫跡地らしい痕跡が窺えた。

二層目はビレットと呼ばれる居住區域と工作施設や修理施設、力施設。

三層目が地上展開する部隊用の格納庫だ。

二層目は様々な施設の跡地があった。

一つの街の廃墟、そんな印象をける。かつて多くの人間がここで生活していたのだろう。

コウはそれぞれの場所で、小聲で呟いていた。

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一層目で目に付いた停止している機械に向かい、

「俺、航空機のことよくわからないけど、よろしくな」

三層目では、様々な車両や機械に対し、

「忙しくなったらすまないな」

彼の目的は二層目。工作層である艦工廠だ。

廃墟といえば廃墟なのだろうか。

だが、それは見慣れた景。人のいない工場そのものだ。

保全のために停止している工場に似ているのだ。

「おお、この大きな箱はマシニングかな。これはわかる。お前もよろしくな」

マシニングの作業中でも呟かない獨り言。會社では獨り言や鼻歌は厳だ。

それでも、機械の調子の良さはあるし、話しかけながら修理している場合は多い。

設備や保全のおっちゃんたちが、駄々っ子に接するように悪戦苦闘しているのを何度も見てきた。

その延長上で機械たちに話しかけていたのだ。この時代の工作機械たちは、本當の意味で自律機械だ。

意思あるものなら話しかけるぐらいしないといけないだろう。

知った機械もあれば見慣れない機械もある。

「やっぱり工場だなあ」

地球にいた職場をしみじみと思い出していた。

「こんばんは。コウ」

突如、頭上から聲をかけられる。頭上を見上げる。

シルエットサイズの機械の巨人。モノアイ形狀だ。

単眼がじっとコウを見詰めている。

「こんばんは。君がヴォイのいっていた大型工作機械か」

ヴォイがシルエットサイズの大型機械がいるといっていたのを思い出し、微笑んだ。

もう彼のことを知っているらしい。

「そうだ。私は主に鍛造を中心に様々な金屬加工を擔當している」

「鍛造! ここでするのか」

「君のいた時代の空母も小さな鍛冶場はあったんだよ。ましてここは工廠。自由鍛造、型鍛造、ダイカスト、他にも々できる。シルエットサイズの部品なら対応できるだろう」

「心強い。よろしくな。なんて呼べば良い?」

「一つ目だからキュクロプス型と呼ばれていたよ。鍛冶が得意な一つ目巨人のことだな」

「英語読みならサイクロプスって奴か。なら名前はアルゲースでいいかな?」

ゲームでみたサイクロプスの名前を思い出し、告げた。

「神話のアルゲースか。良い名をありがとう。工廠をみて回っているのだね」

「なんていうか。挨拶しておこうと思ってさ。俺が責任者になっちゃったみたいだし」

「命じればよい。コウは変な奴だ。だが、その気持ちは皆を代表して謝しよう」

謝とか。むしろ俺はやってもらう方だからな。設備とか保全の知識がなくて申し訳ないぐらいだ」

「専門の機械があるから安心しろ」

「そうだよな。素人が口出ししてもろくなことにならない。また明日くるよ、アルゲース。思ったより広くて」

コウはまた別室の工作室に移していった。

アルゲースはコウの移した扉をじっと見詰めていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

コウは知らない。

彼の行が逐一注視されていたことを。

ものいわぬ意思ある機械たちが、その行を好ましくじていたことを。

『アストライアより告ぐ。各端末意思。今艦を見回っている者がコウ。彼が機械に対しシンパシーをじている人間なのはわかっただろう』

アストライアは各端末の返答をすべて確認する。

『アシアによって最大権限を付與された彼に、當艦及びアストライア管理區域全域の権限を付與することになった。異議あるものは連絡せよ』

各地より一斉に返信がる。

『賛99%。反対0%。疑問1%。疑問への回答。彼の故郷ではモノに意思や神が宿る信仰が存在しており、なおかつAIさえ積まぬ道や乗りを擬人化してパートナーとして接する風土があった。意思があり、行する我らを擬人化するのは當然とさえいえる』

再び、各端末より様々な回答がアストライアに送られる。

『賛100%。當艦及び當施設初の賛率を達いたしました。當施設はこれよりモズヤ・コウの管理下にります』

アストライアは彼らの答えに満足したようだ。

それは人間の時間にしてほんの數秒にさえ満たぬ時間。

コウのしらぬ間に、必要な手続きは全て完了していたのだった。

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