《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》超番外編 サイボーグだってウナギが食べたい
この話の時間軸は本編とはまったく関係の無い時期のものです。
完全な思い付きなので、ちょっとしたひつまぶしにどうぞ。
※ 一部改稿したものを場所移したものです。
一木の視界には、サイボーグらしく様々な報が映し出されている。
メインスクリーンの橫にはサイドバーという様々なアプリをまとめた部分があり、意識をそちらにやるだけで様々な機能を呼び出すことが出來る。
その中の一つに、日々のちょっとした報を映し出す一行コラムというものがある。
正直言ってめったに使うようなものではないのだが、その時は特に仕事も無く、書類の整理をするマナを邪魔するのも悪い気がしたため、一木は久しぶりにそのアプリを起してみた。
『本日は日本自治國において、土用丑の日と呼ばれる……』
土用丑の日。
言わずと知れた鰻を食べる日である。
生の頃はマスコミや世間の流れに乗って毎年鰻を食べていた。
數千円もするようなうな重ではなくコンビニやスーパー、牛丼屋のうな丼ではあったが、なんだかんだで楽しみにしていた。
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たった一行のコラムをきっかけに、一木の脳裏には様々な記憶が呼び起こされた。
ホカホカのご飯の上に乗った鰻。
香ばしい香り。
ふわりと香る山椒。
口に含むと、フワフワのの食。
口の中にうま味たっぷりの油がじんわりと広がり……。
「鰻……」
「?……弘和君、どうしました?」
そんなことを考えていたら、自然と一木のスピーカーからは呟きがれていた。
もはや我慢が出來なかった。
「マナ、すまないがシャルル大佐を呼びだしてくれ」
「ど、どうしたんですか?」
一木のただならぬ気配に、しびくついた様子のマナに対し、一木は力強く言った。
「鰻を食べられないか聞いてみる!」
唐突な食に突きかされた末の行だったが、意外な事にシャルル大佐の返事はOKだった。
さすが食道楽。食事參謀のシャルル大佐だ。
心中でシャルル大佐を稱えながら、一木はマナを引き連れて意気揚々と食堂へと歩いて行った。
一木が現実空間で食事をするためには、食事機能と味覚センサーを搭載したアンドロイドが必要不可欠だ。
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結果的にマナの仕事を中斷させることになってしまったが、もはやこの求を抑えようがなかった。
幸いな事にマナも一木との食事が楽しみなのか、ウキウキとした様子だった。
「鰻はまだ、実際に食べた事がありません」
「そうだな。仮想空間では……何回か食べたか? あれも味しいんだが、どうも実が薄いからなあ」
サイボーグになった人間の味覚やアンドロイドの味覚センサーは、たまに使わないと鈍ると言われていた。
正確には、有線で接続された一木の脳の味覚関連の神経が段々と鈍く、反応しづらくなっていくのだそうだ。
一木の反応が鈍くなれば、自然とマナのセンサーも鈍くなるという訳だ。
そのため、一木は栄養的には首の後ろから毎日ブドウ糖を注するだけで十分なのだが、神的な安定と娯楽のために定期的な実際に食事を摂るようにしていた。
仮想空間での食事はどうしても一木の記憶だよりなため、あまり多用しすぎるとやはり味覚が鈍るのだ。
「はい、ですから嬉しいです。弘和君が満足できるように、ご飯大盛りだって食べちゃいますよ!」
「ははは、あんまり無理するなよ。お腹が破裂するぞ、比喩じゃなく。しかしそんなに喜んでくれるなら、そうだな。シャルル大佐に頼んで、これからはいろいろな行事に合わせて、俺の故郷の料理を一緒に食べようか?」
「はい!」
どことなくカップルのような雰囲気で、楽し気に歩く一木とマナ。
二人がいい雰囲気で食堂の扉を潛ると、そこには地獄が待っていた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ダン!!!!!!
食堂では多くのアンドロイドが壁の隅でおびえる中、中央のテーブルでシャルル大佐が鰻を捌いていた。
先ほどの大きな音は、首のあたりに目打ちと呼ばれる金屬製の杭を打ち込んだ音だった。
「あああああああああああああああ! シュナ! こんなにまるまる大きく育って……脂がのって味しそう……ううううう……味しく料理するからねえええええええええええええええええ!」
(……やっちまった……)
青ざめる一木の腕に、マナがしがみついた。
一木もマナに抱き付きたい気持ちだったが、上であり人間の自分がそんな態度をとるわけにはいかない。
意を決してシャルル大佐に近づいていく。
「シャ、シャルル大佐……その、鰻…………」
一木が聲を掛けると、シャルル大佐はきを止めてギリギリと顔をかして一木の方を見た。
そのきはエクソシストに出てきた悪霊を彷彿とさせた。
どこに貯めてあったのかと言うほどの眼球洗浄を流しながら、それでも顔には笑みを浮かべているのがさらに不気味だ。
「ああ、気にしないでください一木さん……魚を貰って二年……シュナと名付けて育ててきたのは、ひとえに味しく食べるためなんです……味しく料理しますから……どうか、一木さんも味しく食べてやってください……」
そう言うとシャルル大佐は調理を再開した。
人間離れした凄まじい腕前で、瞬く間に鰻は捌かれ、見覚えのある形になっていく。
どことなく落ち著かない様子で、一木は椅子に座った。
マナもびくびくとしながらも、一木の首元に自分の首からばしたケーブルを繋ぐと、隣に座った。
そうしている間にも、奇聲を上げながらシャルル大佐は調理を続けていく。
「……………」
「シュナァァァァァァ」
「……………」
「シュナァァァァァァァァァァァ」
「あ、あの……」
その時、マナが聲を上げた。
シャルル大佐が、また不気味なきで顔をこちらに向けた。
「その……肝焼きっていうのがあるって、聞いたんですが……弘和君に食べさせてあげたいな、と」
「……」
すると、シャルル大佐が突然真顔になった。
あまりの恐怖に、一木はマナと固く抱き合った。
「肝って言うのは……串一本で八匹分の肝が必要なんですよ……」
そう言った瞬間のシャルル大佐の顔は、ホラー映畫さながらだった。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「マナ大尉は、私からうなちゃんず全員を奪うつもりなんですかあああああ!」
「ご、ごめんなさい!」
そんな調子で、いつもとは一味違う狂気に取りつかれたシャルル大佐の調理は、長く長く続いた。
串うちが終わった頃には、すっかり一木とマナから生気が抜けていた。
これでは、何のための土用の丑なのか分かったものでは無い。
それでも、待った甲斐はあったようだ。
一木の香りセンサーに、懐かしいあの香りが知された。
憔悴しつつも、どこか満足げなシャルル大佐が持ってきたのは、生の頃は縁の無かったお重だ。
漆塗りと思しきお重などどこから持ってきたのか……疑問だったが、シャルル大佐の事だ。
生きた鰻同様、どうにかしたのだろう。
「はい、一木さん……シュナです……じゃなかった鰻重です。味しく食べてあげてください」
そう言ってシャルル大佐が置いたお重を、マナと二人で寄り添うようにして眺めた。
そしておずおずと二人で蓋に手をばし、意を決して開ける。
するとふんわりした湯気と共に、今まで以上の濃厚な香りが漂ってきた。
そこにあったのは、素晴らしい逸品だった。
どう見てもプロの仕事にしか見えない、見事な焼きと、伝……かどうかは知らないが、照り艶の見事なタレが、フワフワのをしくコーティングしていた。
思わずマナと一緒に鰻を凝視していると、シャルル大佐が靜かに山椒の小瓶を置いた。
もはやどこから、などとは言うまい。
とは言えだ。
そう、鰻にはこれが無ければ始まらない。
一木は強化機兵の無骨な指で瓶を摑み、慎重に振った。
小瓶からパラリと舞い降りた山椒が、得も言われぬ香りを屆けてくれる。
「ああ、いい香りだ……じゃあマナ、頼む」
「はい、いただきます!」
手を合わせ、どこか張した面持ちでマナは箸を摑んだ。
そして、山椒が掛かった部分を選び、一口分だけ鰻を箸で切り分けた。
「すごい、らかくて……箸で簡単に切れる……」
マナの言う通り、箸で軽くれただけで、重厚のある合いの鰻は、見た目に反していとも簡単に切れていく。
蒸しと焼きが完璧な証拠だ。
あとは、シャルル大佐ののなせる業(わざ)か……。
「マナ、早く!」
思わず急かした一木を、マナは優しく一瞥した。
そして大きく口を開いて、ゆっくりと鰻とご飯を口にれた。
じっくり味わうように。
一木に味が伝わるように、ゆっくりと咀嚼する。
唾と同じ働きをする溶がマナの口に染みだし、咀嚼された鰻とごはんと混ざっていく。
それらがマナの口味覚センサーで検知されると、ケーブルを伝って一木の脳にその報を伝えてくれるのだ。
夢見心地の一木に、懐かしいあの味が……。
「……ゴボッ……」
しなかった。
「弘和君……この……噛むとアンモニアが……え、ナニコレ……センサーが、エラーを……」
「なんだこのヌメリ……いや、臭! なにこれすごく臭い!」
「ひ、弘和君…吐き出してください! なにこれ腐ってる!?」
「いや、吐き出すのはマナだか……うげぇ……」
サイボーグが優先接続したアンドロイドによる食事介助をけた際、最大の問題は食べたを吐き出せない事だ。
非常切斷アプリもあるのだが、それをインストールすると味覚に悪影響を及ぼすので、一木は使っていなかった。
つまり……。
一木はこの地獄のような不味さをどうにかする手段が無いのだった。
阿鼻喚の二人を、悲し気に眺めながらシャルル大佐は十字を切った。
「おお、神よ……やはりダメでした。我が最のシュナーブダイオウ寄生蟲のシュナ君に祝福あれ……」
「「鰻じゃねえのかよ!!!」」
一杯のツッコミをれた瞬間、一木とマナの意識は闇に落ちた。
むしゃむしゃして書いた、反省はしてない。
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