《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第4話 全権大使、決定
帝都は騒がしかった。
帝都は城壁の無い、開かれた街だ。統一戦爭後に造された人工都市のため、商業的な優位を優先させたためだ。
當然の如く噂や報がってくるのも早い。
その早い報の中には當然のようにルニ子爵領に海向こうからの使者が來た、というが含まれていた。
それというのもあの夜、騒ぎと喧騒に包まれていたルニの街は、子爵の判斷で外出止が宣言されたが、単純な話それよりも早く街を出した者たちがいたのだ。
その多くが商人で、不穏な空気を特有の嗅覚でじ取っての行だった。
荷を多く積んだ彼らの歩みは當然遅く、早馬を走らせる子爵の部下が追い抜いたが、彼らは危機管理だけではなく報への貪さも併せ持っていた。
帝都への約五日の工程をいくら軍馬といえど休まず走れるわけもない。商人たちは商隊の一部を街道の駅に先回りさせ、飼い葉や食事、替えの馬を準備して待ちけた。
気が転していた上に疲労していた子爵の部下は口が軽くなっていた。
もっとも、子爵に口止めされていなかった彼にしてみれば機洩に當たることではなかったし、異國の軍勢がいるのだ。民間人に注意を喚起するという意味合いもあって、詳細を商人達に伝えた。
あとは早かった。
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馬や手紙鳥によって海向こうからの使者來る、という報は早馬より早く帝都に屆き、使者が屆いた頃にはすでに重臣による會議が行われていた。
そして、その會議にはグーシュを始めとする皇族も出席していた。
「では、渉とその護衛、及び子爵領への増援を派遣することとする」
重臣會議が行われる帝城の會議場に、ルイガの聲が響いた。
會議場は場を和ませる為に部屋の中央に四角い泉があり、出席者はその周りの座椅子に座るようになっている。
涼し気な部屋は確かに裝飾としては優れているが、正直會議しやすいとは言い難い。
とはいえ熱くなった出席者が毆り合いになるのを防ぐ、という本當の目的からすると理には葉っている。
もっとも、現在の會議場はその真逆の空気だった。
というのも、報が足りな過ぎた。
あるはずの無い、海向こうからの使者とその軍勢という報は確かに衝撃的だったが、現狀では他に何もわからない。
噂話が広まった段階で急ぎ子爵領に斥候を出したが、その者たちが戻るのは不眠不休の強行軍でも八日以上かかる。手紙鳥を使えばもっと早く付く可能もあるが、いくら早くとも到著率が五割を切る通信手段を取ることは躊躇われた。
結果、毆り合いどころか先程の決定が粛々と決まるだけだった。
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グーシュとしては、本音で言えば海向こうからの使者との渉には、特に初期渉には自分が関わりたいが、流石に理由が思いつかない。ここであれこれ言っても、何一つ得はしないだろう。
(落ち著けわらわ……海向こうからの使者は逃げは……せんだろうな? いや、遠くから來ておいて帝都にも來ずに引き返したりはせんだろう……しかしやはり最初に會いたい……後からでは司共の決めたしょうもない取り決めが足を引っ張るやもしれん……いかんいかん、あとでミルシャを……して落ち著かねば)
もう兄や司に楯突くことはしない、そう決めていたグーシュは落ち著こうと努めていた。
その時だった。
皇帝の背後に司が現れ、何事か耳打ちする。すると皇帝はチラリ、とグーシュの方を見た。
靜かにしていろ、という意思を込めてのものだったが、グーシュにはあまり通じていなかった。
「皆、聞いてくれ。たった今早馬の第二陣が屆いた」
會議場がどよめきに包まれる。それを皇帝は手を上げて靜めた。
「父上、何か新しい報が?」
ルイガの問に、皇帝は重苦しく答えた。
「海向こうからの使者は薬式鉄弓裝備の歩兵約二千、さらに據え置きの薬式鉄弓を裝備した仕組み不明の鉄の箱で覆われた自走する破城槌が約二百臺」
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今度は困が広がった。
相手の軍勢があまりにも訳の分からないものだったからだ。薬式鉄弓は鉄でできた筒に火薬と鉄の塊を詰め、後ろについた火打ち石で著火して鉄の塊を出する兵だ。
大陸ではもっぱら、歩兵や並の騎士では勝てないような達人を倒すため、いわゆる火消し役としてごく數の薬式鉄弓隊が指揮直轄で用いられるに過ぎない。
それが二千、その上それを裝備した仕組み不明の破城槌二百など、理解に苦しむ他ない。
「陛下! 破城槌をそんなに大量に持ち込んだ時點で使者などではありますまい! これは侵略軍が使者を裝って時間を稼いでいるのです! 一刻も早く奴らを叩き出す準備をすべきです、騎士団全軍に出撃命令を! 」
そうだ、という聲が將軍達からあがる。その聲にグーシュは思わず聲を上げそうになった。
本當に破城槌なのかまだわからない、まったく異なる文化文明の、しかも我々の常識外の軍の編を見て、なぜその意図を図れるのか……。だが、言ってしまえば以前に逆戻りだ。
(いかんいかん、堪らえよう。また將軍たちに睨まれる……ミルシャの下著のことでも考えよう)
グーシュが煩悩によって自らの衝を抑えていると、ルイガが將軍たちを諌めた。
「決めつけるな! 先に手を出しては相手に大義名分を與えると分からぬか。ましてや相手は、言っていることが正しければはるか彼方の者たちだ。南方蠻地の者共より遠くのことを、あれだけの報で計るなど拙速に過ぎるぞ」
ルイガの言葉に將軍たちは黙り、司達はほぉっと心の聲を上げる。
グーシュも正直心していた。やはり兄はやる男だ、自分がでしゃばる必要はないのだ。
「ルイガの言うとおりだ。それに、報はまだあるぞ」
皇帝の言葉に場が靜まる。すると皇帝は、再びグーシュをちらりと見た。
「敵の使節団の代表は……王族もかくや、という甲冑をに著けた者だそうだ」
會議場が騒然とする。なおも皇帝は続けた。
「しかも相手方はその意味をきちんとわかっているようだ。相(・)応(・)の(・)相(・)手(・)を渉擔當として派遣してほしいと主張しているそうだ」
帝國の外慣例では、使節の代表がにつけているで使節の格が決まる。そして豪奢な全金屬甲冑は王族クラスを示す。王族クラスの甲冑をに著けた者が使節団の代表者なら、當然帝國からも甲冑をに著けた者、すなわち皇族が出席する必要がある。
しかも相手が、その慣例を理解った上でそう言ってきていると言う事は、皇族が出向かなければこちらの慣例を拒む口実にされかねない。
(……ああ、これなら、わらわが行く口実に……)
グーシュの思考が再び揺れいた瞬間、ルイガの目に一瞬怯えにもにたがよぎった。
「……遠方の相手の言うことなど聞く必要はありますまい。とはいえ格は考慮してここは貴族會議議長を……」
(兄上……日和ったな……海向こうとの渉に自分が行く可能を一瞬考えた……)
そこまで瞬時に考えた瞬間、ほとんど反的にグーシュは聲を上げた。
「お待ちを兄上! 」
會議場の視線が一気にグーシュに集中する。
多くの驚きと、兄からの怒りに満ちた視線だ。いや、皇帝からの諦めたような視線が一つ……。
ずっと我慢していた。大切なミルシャの為ならなんの問題も無いと思っていた。
しかしこのザマだ。グーシュは自分の中で”海向こうからの使者”に會うための道筋が見えた瞬間、悩むこと無く口を開いていた。
グーシュは靜かに、自分の分に対して怒りと諦めにも似たを抱いた。
あんなに大切な娘ですら、やりたいことに向けて突き進む自分の分を抑えられないとは。
未知。それへの渇と好奇心の前には、ミルシャですらどうでもいいのか……。そんな考えすら瞬く間に消え、グーシュは続けた。
「相手は想像以上にこちらの文化や報を知しています。しかしこちらは向こうのことを知らない。そんな中、相手はわざわざこちらの外慣例を守ってくれているのです。無論何らかの罠かもしれませんし、皇族を呼び出そうとする意図は不明ですが、これを拒否しては今後の渉でこちらの慣例や法令を破る口実にされかねません」
「だ、だが……」
言い淀むルイガに、慌てたように渉院の司が助け舟を出す。
「しかしポスティ殿下、意図も分からぬ未知の使節団のもとにどなたが行かれるのですか? 陛下や皇太子殿下は論外ですし、この場に居ない姉君のヨイティ様はこういったことには不向き。まさか、そのような危険な所に貴方様が……」
瞬間その司にルイガが「馬鹿者が! 」と叱責をする。
ああ、あの司は帝都に來たばかりで第三皇がどういうか知らなかったのだ。
グーシュリャリャポスティが未知の軍勢如きに怯むと思っていたのだ。
「わらわが行く、當然だろう」
渉院の司が口をあんぐりと開けた。ルイガや周りの顔を見回して、自分が失態を犯した事を悟り、何か言おうと必死に口をパクパクとかすが、何も言葉が出ない。
そしてその様子を見ていた皇帝が、諦めたような雰囲気で口を開いた。
「良いだろう。グーシュリャリャポスティ第三皇。お主に海向こうからの使節団との初期渉における全権を與える、ただし協定や條約などの國家間の約定を定める際、その容を相互友好の推進や渉に関する取り決めといった戦端回避に関する事柄に極力限定する、よいな」
要は突発的な戦闘の回避と渉の継続に関する事以外は決めてくるな、ということだ。
外素人の皇族を派遣するのだ、當然だろうとグーシュは納得した。
「父上! 」
しかしここでルイガが食い下がってきた。鬼気迫る形相で皇帝に迫る。
「グーシュをやるにしても全権を與えるなど! 渉院の者を同行させ、正式な事柄はこちらに持ち帰らせて決めるべきです! 」
「……ルイガよ。帝國が、それも遠く海向こうからの使者に対し、いちいち渉中に『本國に聞いてから』などと繰り返す中途半端な渉が出來ると思うか?」
「しかし、こいつは……! 」
「ならば、」
皇帝の発する空気にルイガは言葉を詰まらせた。
「お主が行くか、ルイガ。皇太子であるお主であるならば、條件抜きの全権を余は與えるぞ」
これは皇帝の助け舟だった。ここで即答すれば、限定された全権を與えると言ったグーシュより皇太子は信用や実力が上だと、皇帝が明言することになったからだ。無論皇太子のルイガが赴くことに危険は伴うが、こじれたこの場を乗り切るためには仕方ないと判斷したのだろう
しかし、ルイガは即答出來なかった。
得の知れない二千人の軍勢への恐れが頭をよぎったからだ。
「なあに、兄上。父上の冗談を真にけなさるな。大事な帝國の未來を危険に曬すわけに行かないでしょう。こんな危ない橋はわらわの様な放娘がちょうどいい」
そう言ってグーシュが聲を上げて笑うと、ぎこち無くではあるが場の空気が和らいだ。ルイガ皇太子を除いて……。
(助け舟を出したつもりだったが……逆効果だったか? )
「決まりだな。相手方の要請に対してグーシュリャリャポスティ第三皇に全権を與えて派遣することとする。騎士団長! 第三皇の護衛と子爵領の援軍の編を行え、規模はそなたに一任する」
「はっ!」
「グーシュは急ぎ準備の上明朝出立せよ。向こうのきも気になるからな。渉院はすぐに先れを出せ! 萬が一に備え早馬は複數出すのだ、よいな」
皇帝の指示を最後に、こうして會議は閉幕した。
誤字・字等ありましたら、よろしくお願い致します。
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