「バイタル正常です、目立った外傷も無し、奇跡ですね」

無な、冷たいの聲でグーシュは目を覚ました。

どうやら寢臺に寢かされているようだが、隨分と上質のだ。帝城の自室にも劣らない、いや、りと掛けられている布の軽さに於いてはこちらの方が上かもしれない。

しかしどんな上質な寢臺にいても、が痺れてうまくかない。何が起こったのかも思い出せない。芯まで冷え切ったが、頭から考える力を奪い、ただただ寒いというだけを際立たせる。

「脳波に反応あり、覚醒してますね……グーシュリャリャポスティ様、私の聲が聞こえますか？　聞こえたらしでもいい、右手をかしてください」

この聲の主は誰なのだろう？　グーシュは疑問に思ったが、何も考えられない。それでも、寒さに震えるに力を込めて、微かに右手をかす。ピクリと、ほんのしだけ右手が震えるようにいた。

すると、ギュッと手が握られた。聲質と違って隨分と溫かい手だった。

そう言えば、ついさっきも同じように手を握られていた様な気がする。

そこまでグーシュが考えた所で、もう一人人間が室してきたようだ。全力を振り絞り目を開けると、掠れながらも今いる場所が見えてきた。

そこは白い部屋だった。天井も同じように白く、蝋燭やランプとも違う、炎とは違う白い明かりが部屋を照らしていた。その部屋の中には二人の人間がいた。

寢臺に近い場所にいるのは大柄なだった。薄い緑の服を上下に著込み、その上から白く丈の長い上著を著込んでいる。白で、髪は金……背丈は一ダイス一ガー弱（160ｃｍ＋30ｃｍ弱）くらいだろうか。長で金髪の形と言えば南方蠻地特有の特徴だが、なぜこんな所にいるのだろうか。

もうひとりは後から部屋にってきた人間で、こちらは小柄なだった。長はちょうど一ダイス程。

緑の鉄兜を被り、肩口から袖のない緑の上著と、膝上ぐらいの長さの筒狀の布を下半にに著けていた。北方諸國のがにつけるに似ているが、隨分と短い。北方では足首まで隠れる程長いが普通だったはずだ。

不思議なのは手足だった。袖の無い上著から出た腕は二の腕の上部までは白いが出していたが、その下からは指先まで艶のない真っ黒で質な何かで覆われていた。足も同様で、筒の下から膝上程までは白いが見えるの、その下からは艶のない質な何かで覆われ、ふくらはぎ辺りからは隨分と頑丈そうな長靴で覆われていた。

「課長、電気布持ってまいりました」

新しくやってきたは舌っ足らずに喋ると、グーシュのいる寢臺の足元に験したことがないほどらかい布を置く。

「よし、伍長。殿下を持ち上げて頂戴」

「了解」

すると反応するまもなく、グーシュのは小さなによって抱きかかえられる。ふらつきもしないその力に、グーシュは驚く。そうしている間にもが寢臺にらかい布を敷き、端にある部品をいじると、何やらカチリと音が響く。その後がグーシュを寢臺に下ろす。するとグーシュのはみるみるに暖まっていく。驚くことに布自が熱を発していた。に熱が戻ってくると同時に、頭が働き出す。

ところがそれに反比例して、強い眠気が意識を奪っていく。

「そなた……達は……」

眠気が意識を奪う前に、戻った思考力を振り絞って思いついた事を聲に出していく。

が嬉しそうに喋ろうとするのを制して、白をまとったが答えた。

「私は衛生課課長……分かるように言うと海向こうの醫者です。どうか安心してお休みください」

そう言うと、はグーシュの腕に半明の筒を押し付けた。押し付けられた場所にじんわりとした熱さと痛みが奔る。

「栄養剤を打ちました。起きるころには元気になっていますよ」

優しく頭をでるに、意識を喪失する瞬間。一番大切な、絶対に聞かなければならない事を聞く。

グーシュはここまでこの事を思い出さなかった自分に怒りを覚えながら、絞り出すように聲を発した。

「ミルシャ……は……わらわの……ミルシャ……」

その事を聞くと、は困った様な顔をした。その表をみてグーシュの意識に焦りが浮かぶ。

「そのことですが殿下……出來ることならばお早いお目覚めを……ミルシャ様のおが保ちません」

その言葉を聞いて焦りを浮かべたと同時に、グーシュの意識は途切れた。

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