二十世紀は映像の世紀だった、というドキュメンタリーがかつてあったが、では二十一世紀はどんな世紀だったのか。

アメリカ同時多発テロ事件や世界レベルでの過激派によるテロ行為を取り上げて、テロの世紀だったという聲があった。

中東や南米、歐州での凄慘な戦や、先進國での分斷された世論を取り上げて、分斷の世紀だったいう見方もあった。

資源枯渇を見越した米中による熾烈な核融合爐開発競爭と、それによる陣営構築に伴う全面戦爭の危機を以って、エネルギー戦爭の世紀だったという主張もあった。

しかし、それらの主張はすべて過去のものとなった。

全てを覆す出來事が２０５２年、月面軌道上で起きたからだ。

２０５０年代　米中対立の中心は核融合爐開発競爭に移っていた。

というのも、このエネルギーをメインとした制を構築出來た場合、月面のヘリウム３採掘を獨占してしまえば相手陣営を事実上屈服させることが出來たからだ。

しかも宇宙軍と言うものは、相手を一度壊滅させてしまえば、再建を許さず一方的に叩くことが出來る。

これにより、技や資源、環境とは無関係の「相手を倒す手段」としての新エネルギー開発競爭が始まっていた。議會や國民に宇宙軍の拡充を認めさせるという意図もあり、またたく間に開発競爭とそれに伴う宣伝は加熱していった。

中國は資本と人材、環境を考慮しない開発でアメリカに先行し、アメリカは安全運用に不可欠なヘリウム３採掘施設を先んじて月に建設、さらに月面の獨占的開発を強行した。この対立は中國の核融合爐完宣言とアメリカのヘリウム３輸出拒否宣言により頂點に達した。

地球では米軍による中國の核融合爐空が、宇宙では中國宇宙軍による月面降下作戦が間近とされ、世界は第三次世界大戦の足音に恐怖していた。

そして２０５２年７月７日。中國宇宙軍の月面降下の直前、月軌道上に突如巨大な円形の鏡面が現れ、中から一隻の宇宙船が現れた。混する地球、そして月面周辺に展開する両軍に、宇宙船は通信を行い、地球規模での戦爭行為の停止と、代表者に宇宙船での會談を求めた。

これに応じた米中両國は競うように宇宙船に人員を派遣した。

宇宙船に乗っていたのは自らをナンバー１からナンバー７と呼稱する七の土偶の様な見た目のロボットだった。

彼らは自分たちを、數萬年前に滅んだ文明に製造された、文明管理用のロボットであり、地球人に新たに主になってもらうべく來訪したと主張した。

この事に地球各國は様々な反応を示したが、概ね好意的に応じた。

高度な文明による支援が行われれば、危機に瀕した地球は救われると思ったからだ。

しかし、この思いが甘かったことにすぐに各國は気がついた。

彼ら、これ以後ナンバーズと呼稱された、が示した條件は困難なものであった。

まず、彼らが地球にもたらす技として示したのが以下のだった。

月面軌道に展開した巨大な鏡面、すなわち『空間灣曲ゲート』による長距離移技。

ゲートの先にある、エデン星系と呼ばれる星系に設置されたダイソン球と、広域無線送電システムによるゲート越しの太系全域に対する無盡蔵のエネルギー供給。

ナンバーズの構造をコピーし、人類の報を用いたアンドロイドによる無盡蔵の労働力。

彼らはこれらを、全世界で停戦した上で、地球が早急に統一された政を構築することを條件に即時提供すると宣言した。

當然これだけで即座に地球がまとまる事は無かったが、一つの出來事が流れを変えた。

地球全土に対する停戦勧告（主要國以外はそもそも無視していた）に従わないアフリカの過激派活地域に対し、軌道上から無差別に砲撃を加えたのだ。

現在もアフリカクレーター地帯と呼ばれる、大無人地域を生んだこの攻撃による死者は推定で三億人以上。

これにより地球各國は、ナンバーズが善意の存在ではなく、地球人類を主にふさわしい存在にならなければ殺す、と恐喝しに來たことに気がついた。

２０５２年８月１日　ナンバーズ仲裁による世界規模の停戦が正式なものとなる。これ以後この停戦協定參加國が中心となりナンバーズとの渉が行われることとなる。

米、中、、日、EU、反EU連、トルコ、イラン・シリアが中心となったこの協定參加國が、後の地球連邦政府の雛形となった。

以後協定參加國はナンバーズの指示に従いながら法令整備や反対勢力の制圧などの連邦設立準備に奔走。

２０５３年にはナンバーズの提言案に沿って地球連邦の設立を目指すことが公式に宣言された。

あまりに拙速なきに反発の聲も広がったが、同時に供與が開始されたダイソン球と無線送電技による無盡蔵のエネルギーと、アンドロイド技による労働力、そして段階的に行われるベーシックインカム制度導宣言により、賛派も増加していった。

ダイソン球からのエネルギー供給が世界の主要地域で開始された２０５５年には、最初の実用アンドロイドが公開された。その能と人間と変わらない見た目に、世界中から賞賛と反対の聲が巻き起こった。

しかし、ナンバーズの後押しと、後に『札付き』と言われるナンバーズのシンパによる後押しもあり、以後アンドロイドは急速に普及することになる。

アンドロイドは四種類のタイプが開発、製造された。

労働力としてあらゆる産業に従事する『Servant(サーヴァント)　Labor(レイバー)』通稱　ＳＬ(エスエル)。

軍事、警察用途として地球連邦軍に優先配備された、『Servant(サーヴァント)　soldier(ソルジャー)』通稱　ＳＳ(エスエス)。

人型にこだわらず、その制系を施設や艦艇、車両に搭載した管理システムである『Servant(サーヴァント)　Armour(アーマー)』通稱ＳＡ(エスエー)。

そしてもっとも目玉とされたのが、地球連邦の市民権を得る全ての市民に配布されるパートナーと呼ばれるアンドロイドである。

パートナーとは文字通り人生を共に過ごす相棒であり、伴であり、親だった。対人関係が希薄になりつつある地球市民に心理的安息をもたらし、不満を抑制する最終手段として喧伝された。

當初は激しい反発を生んだものの、あらゆる階層の人間がベーシックインカムにより安定した収を。パートナーの配布により個人のむあらゆる人間関係を。無盡蔵のエネルギーによりかな生活をする。実際にそれらを得れば、文句を言う人間などほぼ存在しない。

ナンバーズによる恐喝によってではあったが、人類はついに有史以來の悲願であった全人類が平和と安全を得ることに功したのだ。

無論、地球社會に生じた歪はとてつもなく大きなだったが、全てを得た市民にとっては些末なことだった。地球から全ての問題は消滅したかに見えた。

しかし、統治する側にとっては、到底看過できない事があったのだ。

このかな地球社會は全て、月面軌道上の空間灣曲ゲートの先にある、エデン星系にあるダイソン球に依存していたのだ。

だが、このエデン星系にも複數の空間灣曲ゲート開通可能ポイントが存在しており、政府は萬が一敵対的な存在がここから現れる事を恐れた。エデン星系が萬が一失われれば、全てが失われる事は火を見るより明らかだった。

しかもナンバーズ達はこの問題に対しては口をつぐみ、正確には人類への『宿題』として積極的な関與を避けていた。

この問題に対し政府が出した対処法こそ、陸、海、空、宇宙、海兵隊に続く六番目の連邦軍である外宇宙派遣軍を結し、エデン星系防衛のための報収集を行うことであった。

この決定を聞いたナンバーズ達は政府の対応を評価。同時に、彼らは地球連邦政府に全てを委ね、安定した星間國家を建國することを新たな宿題として課すと、新規技を供與した後休眠狀態となった。

新規に得られた、主に軍事に関する技によって、ＳＦ映畫さながらの宇宙艦隊が組織され、ＳＳとＳＡを用いることによる規模に比して驚くほど省人化された軍を組織することに人類は功した。

そうして派遣された艦隊は、エデン星系にあった三つのゲートから外宇宙と呼稱される未知の宇宙に乗り出していった。

それらのゲートの先には、ダイソン球では得られない富な鉱資源をもった小星や、別のダイソン球が存在し、人類の発展はさらに確約されたかに思われた。

だが、危懼していた存在も発見された。

それが後に通稱『異世界』と呼稱される、地球人類とほぼ同様の伝子を保ち、ある程度似通った文化文明を持つ存在が居住する數多の星だった。

収斂進化(しゅうれんしんか)によって地球の人類と同じ形質を得た、という主張もあったが、その存在はあまりに似通っていた。

ナンバーズや、かつて存在したその主による作為を疑う聲もあったが、証拠となる報をすぐに得ることは難しかった。

何より、そういった議論を行う余裕が無かった。

よりによってエデン星系のゲートを一つくぐった先に、宇宙開発レベルに達した文明が存在したからだ。

星カルナーク。

その星を統治する國家名から名付けられたその星は、人口約三十億人。星上に存在する全ての國家、領土が一黨獨裁の國家によって統治されていた。

「ヤー！　ラシュ！」（代表！　集中！）というびと共に右手を握りこぶしのまま振り上げる敬禮や、民族浄化を推奨する國。代表と呼ばれる獨裁者による統治。

これらが地球市民に強い危懼を與えた。

ナチスのような國家が、地球の心臓の隣にいる。

この報にナンバーズのシンパは飛びついた。

曰く、「これは地球の危機だ」「一九六〇年代程度の技がある彼らを放置すれば、百年程で地球に追いつく」「しかも彼らの星系にはダイソン球がある」「その技を使われれば、地球の安全と平和は失われる」「地球は異星のナチズムによって民族浄化の憂き目に合う」「これは侵略ではない、自衛権の行使だ」

実の所、カルナークはたしかに立過程では褒められた様な政権では無かったが、地球の來訪當時はそこまで悪辣な政権ではなかった。（民族浄化がほぼ完了していた、ということでもあるが）

実際突然現れた外宇宙派遣軍の艦艇に対し、彼らは友好的な接を求めていた。

しかし、地球連邦政府が取った行は友好的なではなかった。

カルナークの存在を理由に、ナンバーズシンパはゲート向こうにある數多の人類居住星を制圧し、ナンバーズの宿題である星間國家の建國を達することを目論んだ。

無盡蔵のエネルギーが投じられ、外宇宙派遣軍は異世界派遣軍へと再編、拡大された。

そして、友好的な通信を送り続けていた星カルナークに対し、戦端が開かれた。

航宙艦艇約二百隻。航空ＳＡ六百機、地上組み立て式海上艦艇三十隻、地上戦用ＳＳ、ＳＡ五百萬。かつて地球で反連邦主義者を制圧した実績から、連邦政府はこの戦爭を一方的なになると楽観視していた。

しかし人類は侮っていた。地球人類がついぞし遂げなかった、全世界統一政府による総力戦と言うものの力を。

結局、粘り強いゲリラ的抵抗によりこのカルナーク戦役は十五年続いた。

當初は大隊長までを人間が努めていた異世界派遣軍も、終戦間際になると人員不足と消耗率の高さから、師団長のみ人間が務めるようになっていた。

結局、カルナーク人死者一億二千萬人、異世界派遣軍死者ニ萬人、損壊ＳＳ、ＳＡ八百萬という激戦は終わりを告げた。

これによって一時は盛り上がった異世界攻略熱は、連邦市民の間で急速にトーンダウンしてしまった。

無理もない。開戦以來、十五年で熱意ある人材の多くが失われ、多くののんびりとした生活を送る市民にとっては、延々と凄慘な映像と報を見せられ続けただけだったからだ。

だが、連邦政府としてはやめるわけにいかなかった。これだけの脅威が存在するのなら結局の所、地球の繁栄を守るためには異世界を制圧し続けなければならない。ナンバーズからの宿題である星間國家建設という目的達のためでもあった。

しかし、結局の所、地球連邦政府とは民主主義國家だった。

「嫌だ」という民意がある限り、どんな必要があったとしても異世界を制圧し続けるなど出來はしない。

以後、異世界派遣軍はＳＳとＳＡに頼りながらも規模を拡大。

「ナンバーズがもたらした未解明の技を解析する手がかりを得る」

「人道的見地から介しなければならない」

「武力行使せず、平和的渉で連邦への加を促す」

「未知の技を捜索するため」

………………。

政権代や僚、政治家の方針転換。世論調査の結果に連邦軍の人事異などにより、コロコロと目的や方便を替えつつ、制圧、流のある星系が百を超えた２１６５年現在。

今も曖昧な目的のまま、それを達することのない強大な暴力機構は、新たな異世界を求めて活し続けていた。

ワーヒドという星での活も、その一環である。

ただ、この作戦には奇妙な點が多くあった。

通常、空間警備を主とする打撃艦隊とペアで行する所、地上部隊の運用を行う機艦隊のみで作戦を遂行する點。

さらに、定數七個師団が通常の機艦隊において、編途上で一個師団のみの第０４９機艦隊を派遣した點。

そして、將學校を卒業し配屬されたばかりの一木弘和代將を渉擔當者として送り出した點。

この異常なまでに小規模で未な編で派遣された第０４９艦隊。

その経緯は、今から一ヶ月ほど前に遡る……。

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