地球の月面軌道上にある、直徑百二十キロの鏡面をくぐるとたどり著くのが、エデン星系である。太とほぼ同規模の恒星を中心に、十二の星が巡る星系で、恒星は幅數百キロにも及ぶ部品で構されたダイソン球によって取り囲まれている。

ダイソン球とは簡単に言うと、太全を覆うように発電裝置を取り付け、太から発せられるエネルギー全てを余すこと無く利用するための巨大な裝置の事だ。

厳にいうと、このエデン星系のダイソン球は網目狀になっているため、全てのエネルギーを取り込んでいるわけでは無い。

それでも無線送電システムで數割ロスした上でも、太系全域に地球の年間消費量の數億倍という膨大なエネルギーを送り続けていた。

そんな重要な場所だけあって、宇宙軍と異世界派遣軍の艦隊が厳重な警戒をしいているため、あちこちに航宙艦が行きう。

ここはまさに人類の心臓とも言える場所であった。

そんな星系の星の一つが、星系名にもなっている星エデンだ。エデンは地球型の星になっている。呼吸も可能で居住も出來るが、微生を除く植が一切存在しない砂漠と巖だらけの不の星であり、數箇所ある閉型の気都市に數萬人の軍関係者が居住するだけの茶い星だ。

そんな名前とは真逆の星の衛星軌道上にあるのが、異世界派遣軍の本部衛星である。ＳＦ映畫に出てくる宇宙要塞さながらの直徑數十キロに及ぶ球形の施設だ。

その本部衛星のとある通路を、一機の５５式強化機兵が、長１８０ｃｍ程の大柄のＳＳを連れて歩いていた。

強化機兵とは、要は強化外骨格の中をＳＡに切り替えた歩兵支援用の機兵である。

通常長３ｍ程で、15mmアサルトライフルや３０mmライフル、60mm迫撃砲やレールガンを裝備して歩兵や戦車の支援を行う、陸軍でも採用されている兵だ。

この５５式は２１５５年採用の機種で、サイズを２ｍとコンパクトにして扱いやすくすることを目指しただが、従來の武裝が扱えない事等から普及せず、生産中止となった不遇の機種だった。

なんにしろ、本部施設の廊下を歩くようなではない。

その不可思議な強化機兵は、目當てと思しき部屋にたどり著くと、しばし深呼吸するような作をした後、意を決してインターホンを鳴らした。

「失禮いたします。一木弘和代將、參りました」

強化機兵から発せられた聲は若い男のものだった。

「りたまえ」

答える聲は年配の男のもの。

一木と名乗った強化機兵は、扉が開くと同時にすばやく室した。

「本日付で第０４９機艦隊の第四四師団長に配屬されました。一木弘和代將であります。只今をもって著任いたしました」

名乗ると同時に、部屋にあるデスクに座るアラブ系の將が顔を上げた。猛禽の様な目つきの男だったが、続いて聞こえてきた聲は意外なほど溫和で靜かなものだった。

「よく來たね代將。著任を歓迎するよ。艦隊司令のアブドゥラ・ビン・サーレハ大將だ。そこにいるのは副のスルターナ佐だ」

そう言われて初めて、一木と名乗った強化機兵は扉の真橫に、黒いヒジャブを被った人影がいることに気がついた。目元以外は全を隠していて表などは窺えず、その上一言も喋らず、靜かに敬禮するだけだ。

「よろしくおねがいします。ああ、こっちは……マナ、君も名乗りなさい」

「一木代將の副を務めさせていただく事になりました。マナ大尉であります」

一木が促すと、ぎこちなくついてきたが名乗った。表やきはどこかい。

「ああ、事は聞いている。大変だったね、一木くん」

サーレハ司令はマナ大尉を見ると、何かを察したように一木を気遣った。

「……いえ……けない話です……ですが、同期の仲間や恩人のおで立ち直りました。このマナを新しいパートナーとして、骨砕頑張っていく所存です」

「マナ大尉も頑張ります」

大きなでペコリと頭を下げる一機と一。

ここで、この強化機兵、もとい一木弘和について語らなければならない。

この、不幸な男の事を。

話は、２０２０年。今から１４５年前に遡る。

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