《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第3話 一木弘和の喪失

よろしくおねがいします

二十世紀末に生をけた一木弘和は、二十一世紀も4分の1ほど過ぎた頃、平凡なサラリーマンとして生活していた。

あれこれと不穏な空気や衰退のが見えつつあった時代ではあったが、一木個人は友人もそれなりにおり、両親との関係も良好。仕事はさして高給ではない上に、やりがいと言うにはやや厳しい労働環境ではあったが、生きていく上で支障があるほどでも無く、時代を考えれば”普通の生活”といって差し支えないものだった。

そんなある日、一木弘和の人生における最初の転機が訪れた。

帰宅途中に大型トラックに轢かれ、瀕死の重傷を負ったのだ。

およそ人間の形と言えないような狀態になった上に、意識が戻らない昏睡狀態。

そのまま一木は九年の歳月を過ごすことになった。

そして両親が神と資金面で疲弊したころ、救済の手が差しべられた。

治療困難な難病患者や、昏睡、植狀態の患者に対する冷凍睡眠処置が実用化され、さらに保険の適用が認められたのだ。

この大膽な政策は、無論技革新という面もあったが、醫療費の圧という非常に切実な理由も関係していた。非かも知れないが、こういった患者を院させ続け、の健康を保つために使われる費用が、冷凍睡眠処置ならば數分の一になり、病院の負擔は大幅に軽減される。

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”解凍”に至る目処がたっていないという大きな問題も、未來の技に丸投げされたままの導だったが、結局の所”希”をつなぐことの出來るこの冷凍睡眠処置は、一木を始めとする多くの患者に用いられることとなった。

それから數十年後。

冷凍睡眠処置患者の、治療法が実用化された難病患者が社會復帰していく一方。一木のような患者の解凍処置は全くはかどっておらず、ある種社會問題となっていた。

家族も亡くなった、孤獨なの上でを損傷したまま目覚める事の出來ない數千人の人間への対処に社會が悩む中、ナンバーズの來訪によって目が変わった。

というのも、彼らのもたらしたアンドロイド技を応用することで、完全義、いわゆる全サイボーグ技の実用化に目処がたったからだ。

こうして脳の狀態を検査し、相が良好な義が製造できた者から解凍処置が施されていった。

そんな中、どの様な義でも脳が反応しない、いわゆる”相の悪い”人間がいた。

自作パソコンの様な話ではあったが、ナンバーズの技を持ってしても解決できない、質による解決困難なこの問題により、數十人の人間が眠り続けることとなった。

以後、毎年製造される醫療用義から軍用、警察用、競技用、産業用。あらゆる理論上人間の脳が搭載可能な機械と目覚められない患者とのマッチングが行われ、一人、また一人と社會に復帰していく中。

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2150年代になっても眠り続ける三人の人間がいた。

そのうちの一人が一木であった。

そして、結局一木が目覚めたのは2162年の事だった。

軍から払い下げられた型落ちの強化機兵が、奇跡的に適合したのだ。

そうして一木は目覚めた。

だが、その目覚めと、新しいによる生活は決して楽なものではなかった。

通常の義は當然だが、人間がそれを用いて生と同じように生活することを意識して設計され、製造されている。

しかし、軍用の。しかもSAが搭載されることを前提とした強化機兵に人間の脳を載せて、まっとうな生活が送れるはずもなかった。

最初に一木を苦しめたのは360度全周囲認識可能な視界だった。ものの數秒で気絶するほどの頭痛に襲われた。

しかも眼をつぶることも出來ない。強化機兵に瞼など存在しないからだ。

このままではリハビリもままならず、強化機兵に搭載されたシステム管理コンピューターに仮想空間を構築して、そこに意識を退避出來るように調整をけた。

後に一木は、人生で最も苦しかった時間を目覚めてから仮想空間が完するまでの、この三時間だと言ったという。

この恐ろしい苦痛に絶していた一木に、二度目の転機となる出會いが訪れた。

一木専屬の看護師となった、シキという名前のSLとの出會いだ。

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目覚めたばかりでアンドロイドもSLも知らなかった一木の一目惚れだった。

の獻的な介護もあり、一木は地獄の様な義のリハビリに耐えた。

耐えられない部分は機械的な改良を加えた。全の全周囲走査センサーを塞ぎ、目元に単眼式の可カメラアイを搭載したことを始めとして、人間的な作を邪魔する細かいパーツを取り除く改造が行われ、三ヶ月ほど経った頃には、一木はようやく義のまま一日現実世界で過ごすことが可能になった。

その辺りで、一木弘和という人間にとって初めてのプロポーズが行われた。

そしてそこで初めて、一木に現代の社會狀況と、アンドロイドに関する説明がなされた。

結論から言うと、この告白は功することになるのだが、ここで問題が発覚した。

一木弘和には膨大な借金が存在したのだ。

一木が金を借りていたわけではなく、一木が目覚めることの出來た理由でもある、強化機兵の値段だ。

冷凍睡眠にかかった費用は両親の支払いと、処置をけた當時の契約通り、國からの保険で賄われていた。そして、現代の生活にベーシックインカムによる完全な保障があることは先に述べた通りである。

では何故かと言うと、強化機兵が高すぎたためだった。

通常目覚めることが出來る義が見つかった時點で、その義の料金は”一定の範囲”で保証されることになっていた。

そして、正式採用から十年も経っていない軍事兵というものの値段は、個人が使用する全の値段とは比較にならなかった。

法律の不備と言えばそうなのだが、こんな高価な軍事用ロボットしか適合しない人間がいるなど、想定されていなかった。

そしてその結果、プロポーズが功したのにも拘わらず、一木はシキをパートナーとして登録できなくなってしまったのだ。

國に借金がある場合、この時代の法律ではベーシックインカム制度に基づいた”生きるために必要不可欠なもの”は全て保証されることになっていた。

そして、全地球市民の希であるパートナー支給制度は”必要不可欠なもの”にっていなかった。

そうなると借金を返済する必要があるのだが、これがまた難航した。

この時代全ての労働はSLが擔っている。ラーメン屋の店員から配送スタッフ、営業から農家まで、ほとんど全てだ。

そうなるとアルバイトもままならず、存在する生の人間の働き口と言えば、一握りの僚や會社役員くらいのものだった。當然二十世紀生まれのサイボーグに務まる仕事ではない。

好きあった一木とシキという二人が、一緒になることが出來ない。そんな悲劇が起こりそうな時、シキの法律上の所有者でもあり、一木のボディを製造したメーカーでもあるサガラ社の技顧問の老人がある仕事を紹介した。

それこそが「異世界派遣軍師団長育過程」の紹介狀だった。

高給で休みが多い、福利厚生が厚い、人手不足のため試験の倍率が低い、パートナーを副として登録可能。

この好條件の前に、一木に選択肢は無かった。

二つ返事でシキとともに異世界派遣軍に隊することを決めた一木。

生まれて始めて全全力でのやる気をだした彼は、リハビリと試験勉強を乗り切り、晴れて異世界派遣軍に隊し、將學校に學することが決定した。

この時點で定期収が発生したと見なされ、一木は給料から返済分が天引きされる事を了承する代わりに、各種権利が復活した。逆に言うと軍をやめればシキを失いかねないということだったが……。

それでも、この時の一木は幸せだった。たとえ生を失い、無機質な機械のになったとしても、大切な存在が出來たのだ。それに、多の不自由も仮想空間に意識を移させれば、疑似験とはいえ生の頃のを概ね験できた。

學校は厳しかったが、この時代での初めての友人が出來、全ては順風満帆に見えた。

「だが、そうはならなかった……」

著任の挨拶にきた一木代將とマナ大尉を、第049艦隊の旗艦シャフリヤールに送り出した後、副のスルターナ佐に彼の來歴を話し終えたサーレハ大將は言葉を濁らせた。

壁際に立つ黒を包んだスルターナ佐は、悲しそうに目を伏せた。

「つまり、彼は何よりも大切な存在を失ってしまったんですか? 」

「そういう事だ……不幸な出來事だったが……」

「よく短期間で立ち直ってくれましたね。やはり來訪前の人間は神力が強いのでしょうか? 」

現代人はベーシックインカムによって労働する事が無く、アンドロイドに依存しているため來訪前の人間に比べて神的に弱い。この時代、事実かどうかはさておいて常々言われていることだった。

だが、サーレハ大將は首を橫に降った。

「學校時代の評価を見る限り、そういったメンタルの持ち主という印象はけなかった。だが理由は想像が付くよ、あの娘。マナ大尉のおだろう」

一木代將の後ろに控えていた、長の大きなSSの。副であり、一木がパートナーと言うからにはある程度深い関係なのだろうが……。

「何があったのですか? 」

サーレハ大將の部屋を後にし、一木はエデンの月基地行きの定期便に乗っていた。月基地に停泊中のシャフリヤールに向かうためだ。

そこで艦隊司令部のスタッフと面會し、さらに著任する師団のSS達と合流するのだ。

「…………………………」

だが、沈黙が重い。隣に座るマナというが來てから二週間。シキがいなくなって一ヶ月。

一木の心は一向に晴れなかったが、隣のの事を考えるとこれ以上腐ってもいられない。

なぜなら、このは一木のためだけにに作られたのだから。

2週間前、シキとの別れの後。自分の仮想空間に引きこもり続けていた一木の前に、強制的に送り込まれてきたのがこのマナというだった。

いきなり自分の仮想空間にプロテクトを解除して現れたにも驚いたが、一番驚いた點こそ、長こそ違うものの、その顔貌がシキとほとんど同じだったことだ。

瞬間、困と怒りを覚えた一木は、が聲を発する前に二週間ぶりに現実空間に戻った。

を送り込んだ人に心當たりがあったからだ。

そしてそこには思った通りの人がいた。

三角形に整えられたアフロヘアという狂った髪型に、三國志から出てきた様な長いヒゲ。やたらと筋質のを高級スーツに包み込んだ年九十五歳の不良老人。

「やあ! 一木くん元気だったかね? 久しぶりだね! 人類に友と家族と伴を贈る、サガラ社技顧問、賽野目博士(さいのめはかせ)だよ」

一木のである55式強化機兵の製造元。アンドロイドを人間らしく見せる、外裝関連のシェア八割を誇る二十二世紀の大企業、サガラ社の創業時からのメンバー。

一木が目覚めた時から世話になっていた人でもある。そして何より、一木の妻でもあった試作型醫療SLシキの製作者……一木の覚で言えば父親にあたる人でもあった。

意見・想・誤字・字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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