《「気がれている」と王家から追い出された俺は、自説通りに超古代銀河帝國の植民船を発見し大陸最大國家を建國する。 ~今さら帰って來てくれと言っても、もう遅い! 超テクノロジーを駆使した俺の建國史~》亡國の一団

皇國兵の手で、殺されていた方がマシだっただろうか……。

護衛の一団に囲まれながら、この地――『死の大地』を歩むは、そのようなことを考えていた。

年の頃は、十代前半……。

優しげな眼差しといい、このような過酷な地にあってもしく輝く銀の髪といい、尋常ならざる高貴な筋であると、見ただけで判ずることができる。

特徴的なのは、人の耳を持たぬことであろう……。

その代わり、頭頂部からはキツネのそれにも似た獣の耳が生えている。

――獣人。

は、ファイン皇國における被差別種族……獣人族であった。

獣人なのはだけでなく、彼を囲む護衛たちもまた同様である。

ただ、薄手の著流し一枚というとは異なり、護衛らは足も大小も備えた完全裝備の――侍であった。

「ウルカ様、どうか、どうか今しがんばってくだされ……!」

護衛たちの中で、最も年かさの男……。

初老の域に達した侍が、――ウルカをそう勵ました。

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「でも、バンホー……!

もう、足が……も……かわいたの……」

聲を出すのもやっとなくらい消耗したに活をれ、そう絞り出す。

節約しながら飲んできた水も、ついに底を盡き……。

昨日からはもう、一滴たりとも水を口にしていない。

「それならば、どうぞ、拙者の背に……」

バンホーと呼ばれた侍が、しゃがみ込んで背中を見せる。

そこへ、おぶされと言っているのだ。

「でも、バンホーたちももう限界でしょう……?」

ウルカがためらうのも無理はない。

しでもウルカに多く水を飲ませるため、護衛の侍らは彼以上に水を節約してきたのだ。

いかに彼らが、滅ぼされたラトラ獣人國の鋭たちであろうと……とうに限界はきているはずであった。

彼らをかしているのは、このような狀況にあってもなお足を捨てぬ執念……。

そして、亡國の姫君たるウルカを延命させようとする――使命である。

「なんの……!

元を正せば、拙者らが皇國めの諜報網に引っかかり、ウルカ様の存在を知られてしまったのが原因……。

これくらいのことは、させてくだされ……!」

「そうです……!」

「我らがことごとく死に絶えようと、最後の王族であるウルカ様が生き殘れば、それで釣りはきます……!」

他の侍たちも、口々にそうはげます。

だが、ウルカは背負われるための一歩を踏み出すことができない……。

「……たしだけが」

「ウルカ様?」

「……わたしだけが生き殘って、どうなると言うのです!?」

これこそは、ロウソクが消え去る前の輝きであろう。

ウルカは、殘された力を用いて護衛らに當たり散らす。

「父上も兄上たちも、ことごとくが死に、影武者を使って生き延びたわたしも、今はこの有様……。

ここは、『死の大地』……!

よほどの魔巧者でなければ、生き延びられない土地です……!

わたしごときでも、分かります。

皇國がここへの逃亡路を開けていたのは、わざとだと……!

ここに骸を曬せと、暗に告げているのだと……!」

誰も、それに反論できる者はいない。

ウルカの告げた言葉は、事実だったからである。

一同の中に、魔を一寸でも使える者はおらず……。

そんな一団が、この『死の大地』を橫斷することなど、これは到底不可能であった。

そもそも、橫斷したとしてなんになるというのか……。

『死の大地』を挾んだ隣國、ロンバルド王國からすれば、すでに滅ばされた國の姫君とその家臣たちを助ける理由など、何もないのである。

「ここで、終わりにしましょう……」

乾いた大地の上にしゃがみ込んだウルカが、一同を見回す。

「短刀をお貸しなさい。

……わたしはそれで、を突きます。

バンホー、介錯は任せますよ」

「ウルカ様、そのようなこと……!」

止めようとすバンホーに、ウルカがかぶりを振る。

「もう、いいのです……」

「し、しかし……!」

そんなやり取りをわしていた、その時だ。

「――待たれよ!

これは、水の音……!?」

侍の一人が、頭頂の獣耳をぴくりとかしながら鋭く告げる。

「――何!?」

「幻聴ではないのか……?」

「否、これは――誠だ!」

常の人間には、到底捉えられぬほど遠方の音……。

獣人の特を生かし、それを聞いた侍たちの顔が、重い絶から希のそれへと変わっていく。

「ウルカ様!」

「バンホー……わたしにも、聞こえました」

今まさに命を斷つやり取りをしていた主従が、うなずき合った。

こうして、亡國の一団は最後の希……獣耳が捉えた水音へたどり著くべく、殘された力を振り絞ったのである。

--

――これは、いかなることか!?

その場へたどり著いたウルカ一行の脳裏をよぎるのは、ただただそのひと言であった。

侍の一人がごしごしと目をこするが、それも無理はあるまい……。

眼前に広がるのは、ここまで歩いてきた『死の大地』において……存在し得ぬはずの景だったのである。

おそらくは、土中から湧き出しているのだろう……。

湖とはいかずとも、池としては十分に過ぎる規模の水源がそこにはあった。

しかも、それを中心とした一帯では、何かの冗談のように草花が繁茂(はんも)し……リンゴの木々が、みずみずしい実をぶら下げていたのである。

「ささ、ウルカ様……これを!」

バンホーがリンゴの実を一つもぎ取り、ウルカに差し出す。

ウルカはそれを手に取ると、行儀など気にせずかじりついた!

味しい……! 本當に……味しい……!」

その滋味と果は、間違いなく彼らを救う救世主であり……。

侍らもそれに続き、次々とリンゴを口にしていくのであった。

--

「あー……どうしようか」

イヴに案され、連れてこられた『マミヤ』の船橋(せんきょう)……。

俺の知る設備は舵一つ存在せず、代わりに用途も使い方も全く分からない設備や道類で埋め盡くされた空間の中、俺は頭を抱えていた。

眼前に浮かぶのは、やはり空間そのものを切り取るようにして生み出された額であり……。

その中では、ファイン皇國に攻め滅ぼされた獣人國の民――獣人たちが、先ほど生えたばかりのリンゴで命をつないでいた。

帰還したキートンが置いてきた、『ドローン』なる品が映し出している、地上の景である。

「何か、問題があるのですか?」

船長席に座った俺の傍ら……。

そこに控えながら額を作してくれているイヴが、七に髪を輝かせながらそう訊ねてきた。

「あるんだよな……これが……」

変事というのは、重なるもの……。

俺が『マミヤ』を発見した當日に、招かれざる亡國の一団がこの場へ現れた事実に、嘆息をらした。

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