《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第1話 新兵
緑深き森と、なだらかな草原が広がっている。陸の乾いた風が吹いている。
その草原の一角に、人影が5つ。十代半ばくらいの達だ。皆それぞれ、その中學のものと思われるバラバラな制服姿である。達は皆腰を落として、一心に足もと一面に広がる植を採っては、傍らのカゴにれていく。
菜摘みだ。初夏の日差しはもう強い。達は、日を選びながら、菜摘みを続けている。が降り注ぎ、風が木々を揺する音と、小鳥のさえずり、それしか聞こえない、のどかな風景であった。――――が。
ドォォォォォン!!
遠方で大きな音がした。長く響く音だ。5人のはうさぎの様に一斉に顔を上げ、不安げな表を浮かべる。森の方、木立の隙間から、音のした方角に土煙が立つのが見えた。
「逃げよう!」
1人がそう言った。
「Botが出たんだよ!」
もう1人が続けて言った。
達は聲を上げながら一斉に森を離れ草原側へ走り出す。その先の緑の中に、全長10m程の白亜のクルーザーがあった。
「急いで」
「早く早く」
5人は乗り込むと、その中の1人が運転席に勢いよく駆け込み、エンジンを起する。らかな駆音と共に、クルーザーは空中に浮かびながらき出す。
快調に加速し、森の中を駆け抜けようとしたその剎那。
クルーザーの後方の草木が弾け飛んだ。
先ほどの音と煙の正、Botがその姿を現した。
全長は6m程の球形、クリームの樹脂のような裝甲に、幾つかの黒い、スリットがっている。本から四方に架臺の様なアームがびていて、その先端には浮遊裝置、フローターが取り付けられている。そのフローターで木々の合間をフワフワと浮遊しながら、メインカメラで逃げるクルーザーを捉え、追いかけていく。
「やばいよ。追いつかれる」
Botがクルーザーに迫る。本下部から金屬製のアームを展開し、その先鋭な腕先をクルーザーに向けてばしてくる。
「きゃあああ!」
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Botの腕がクルーザーに屆こうかというその剎那、巨大な落下が二者の合間に割ってった。
響き渡る轟音と飛び散る砂礫。
その轟音の中心にいたのは、肩高15m程の人型の兵だった。
その人型はゆっくりとを起こすと、その頭部がBotを視認する。
國鉄の骨格に白銀の裝甲、左手は巨大な四角盾と、その右手には自の長の2倍はあろうかという長さの、長柄の槍を裝備している。
中型クラス(ケントロン・イソス)の人型戦闘兵、
DEAMETER(デアメーテル)だ。
バババッ!!
Botが3條のビームを発した。白銀の巨人は避けるでもなくそれを肩でけ止める。命中したビームは裝甲の表面で弾かれ、の粒子が巻き上がった。
「みんな! 大丈夫?」
見上げる程の白銀の巨の、その大きな、壁面のような背中でクルーザーをかばいながら、DMT(デアメーテル)に乗る年、咲見(さきみ)暖斗(はると)が聲をかけると、暖斗のインカムは一斉に黃い聲で満たされた。
「あ、あのう、あ、ありがどうござ‥‥」
「ナイスフォロー。暖斗くん。助かったよぉぉ」
「ちょっと、ちなみさん、いちこのセリフに食い気味に來ないでよ!? ほら、いちこ。ちゃんと咲見さんにお禮言いなよ」
「え~。ちなみが悪いのぉ? 詩(うため)ちゃん」
「いいから。ちなみさん、ちゃんと運転して」
「まずは安全圏まで行くっス。咲見さんが戦えないっス」
目の前のBotを牽制しながら、達のそんな聲を耳だけで聞いて。
クルーザーがこの場から、十分に離れて行くのを確認して、暖斗はあらためて槍を構える。Botは「3機現れた」と聞いていたが。今視認できるのは目の前の1機のみだ。
「暖斗くん、他に2機いるけど、距離がある。合流される前にコイツを叩こう」
あの5人とは違うの聲と共に、灰の3 m程の球が、構えをとる暖斗のDMTの右側にフワフワと現れた。
Botに似てはいるがこれはKRM(ケラモス)、暖斗のDMTをサポートするドローン。
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作しているのは、岸(きし)尾(お)麻(ま)妃(き)だ。
麻妃のサポートドローンは、暖斗のDMTのまわりをつかず離れず浮遊する。
「侵角度は100點満點。AI最善手だよ。上手くクルーザーを逃がせたね」
麻妃はし呑気な口調で言った。
「じゃあ、暖斗くんの初陣ということで。シミュ通りにやってみようか?」
「うん」
「重力子エンジンは異常ない?」
「うん、OK。正常出力だよ」
「よっし。じゃあ、回転槍(サリッサ)の刃部(じんぶ)回転を始めるよ? シールド殘量はアナウンスするから」
「わかった」
ゴリゴリゴリ‥‥‥‥ガリガリガリガリ‥‥‥‥
暖斗の答える聲と共に、回転槍(サリッサ)の回転が始まった。「サリッサ」というのはDMTが持つ長柄の槍の名稱だ。長い柄の槍で、その先端に半明の三角錐、先が尖ったドリル――刃部(じんぶ)を持つ。複雑な多面の角に刃が付いていて、それを回転させながら、戦闘は行われる。
Botがビームを撃ってきたが、暖斗は上手く躱した。
その間に、サリッサの回転が速まっていく。
「麻妃(マッキ)。まだ?」
「もうちょい。もうちょい回避してて」
そんなやり取りの間に、サリッサの刃部はその回転を増し、周囲に獨特の回転音が低く響き渡る。
「よし。暖斗くん、シールド殘量十分。サリッサ刃部の回転數が規定値を超えた。突撃(アサルト)して」
「了解。‥‥‥‥突撃(アサルト)!」
麻妃がそう言い終わるのを待たずに、暖斗機は風になった。
鋭く突撃した槍の一閃が、Botに突き立てられていた。
ガギン!!
視界が一瞬炎でふさがり、それが晴れると、大きく裝甲を削られたBotが目にってきた。
暖斗はそのまま槍に力を込めていく。
「おお! 暖斗くん、芯を食ってる。いいじ!」
Botから火花が飛び出てきた。回転する刃が複合樹脂の裝甲を研削し、フレーム、部骨格に達した証左だ。火花がまるで噴き出るのように、四方へ飛び散る。
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「うおおお!!」
暖斗がさらにもう一段、槍を突き込む!
部を大きく穿たれたBotは、力なく地に落ち、スリットかられていたも消えた。
1機撃破だ。敵の殘骸からサリッサを引き抜く。と同時に、麻妃の聲がした。
「2機來てるよ! 5時の方向!」
「了解!!」
暖斗はそのまま引き抜いたサリッサを水平に薙いだ。右後ろの方向だ。
赤紫の槍先が一閃!!
背後から近づいていたBotはその槍先に打ちのめされ、巖壁に激突する。
Botというのは、AI搭載の移兵だ。前の戦爭の時に地雷のように、そこら中に敷設された。そのの3機が、暖斗たちの戦艦か、菜摘みの娘たちに反応したのだろう。
あらかじめ力された行パターンに沿ってく。全長6mという大きさから見て、小型のタイプだ。
普通に戦えば、中型クラスのDMTに敗ける要素はないが――――。
「3機目は7時。距離とってるよ。砲撃注意」
3機現れたBotの、最後の1機は暖斗に近接せず、一定の間合いでフワフワと浮いたままだった。1機目が予想外に早く落とされたので、消極的な選択をしたのかもしれない。
果たして、3機目は麻妃の予想通り、ビームを放ってきた。暖斗は左右に機して、弾を躱していく。何発かは盾や本に當たったが、裝甲の表面で弾かれての粒子に変わった。
砲撃を避けながら、上手く3機目のBotに近づいて、回転槍の一撃をれる。
バギン!!
急所に槍を打ち込まれたBotは、部機を四散させて煙をあげた。
「ビームによる裝甲損傷なしだよ。うん、これはイケそうだね。さすが暖斗くんだ」
麻妃の弾んだ聲が、暖斗の耳のインカムからってくる。
「シールドがちゃんと機能してるよね」
暖斗も答える。
暖斗機は長方形の巨大な盾を持つ。そしてそれとは別に、DMTのエネルギーを使って生み出される対學兵用の防システムが「シールドバリア」。先ほどから被弾したビーム砲を、DMTの裝甲表面での粒子に変えているのがそれだ。
巨大盾も含めて、DMTの全を覆っている。シールドを生み出すエネルギーが無くなるか、張られたシールドを上回るエネルギー量のビームに被弾するとシールドが割られ、本にダメージがる。
ちなみに、サリッサの回転刃のような理攻撃は、シールドでは防げない。あくまで學兵のみだ。理防の「盾」、學兵防の「シールド(バリア)」この2つを使いこなしながら、戦闘が行われる。
「なんかさあ、母艦の方で盛り上がってるよ。『#暖斗くんカッコイイ』とかで」
「ええ? 麻妃(マッキ)。全回線(チャット)開いてんの? なんで?」
「そりゃあ、ウチがこの戦闘データ、リアタイで送信してるから。通信アプリで」
「よくこの距離で送信できたね」
「今さ、クルーザーのリスクオフで戦艦が進出してきてて。いやあ、みんな心配してたんだよね。Bot3。暖斗くんが排除できない、となると、この先の旅が難しくなるし、やっぱDMT戦闘は危険がともなうじゃん?」
「‥‥『パイロット枠』で選ばれたのは僕だけなんだし、16人中男子は僕だけなんだから、いいよ、こういう事は僕がやるから、あんまり気にしないでって言っといて」
麻妃は、大げさに聲をあげる。
「聞いた? 聞きました? 皆さん。どうですか。ウチの馴染みは男気があるでしょう?」
ちょっとディスられてる気がするが。
「ちょっと待った! ‥‥僕の音聲まで聞こえてんの?‥‥そっちに」
「うんうん。みんな謝してるって。『どうかご無事で帰ってきてね』って。あ、音聲だけじゃなくって、映像も送ってるから。ウチのKRM目線(カメラ)のヤツ」
「な‥‥!? 早く言ってよ」
暖斗は赤面した。今まで初陣に上手く集中できていたハズだけど、15人の子に注視されていたとすると、やはり気恥ずかしい。だいたい自分は、注目されるとしくじるタイプだ。
もう戦闘は終わりかと思われたが、生き殘りのBotが砲撃をしかけてきた。慌てて躱す暖斗。さっき巖壁に叩きつけてやった2機目が復活したようだ。
「シールドダメージ微小。暖斗くん。突撃(アサルト)できるよ」
「うぉ‥‥!」
麻妃の聲と同時に、回転槍を構えて突撃した――――。が、しかし。
Botに避けられてしまった。かなり華麗に‥‥。
サリッサの三角錐の大きな刃部が、空しく空を切る。
めっちゃ恥ずかしい。
とりあえず後進(バックステップ)して間合いを取った。
「‥‥暖斗くん。今『うおおお』って雄びあげようとして、ためらったでしょ」
「お、俺、雄びなんかあげねーし‥‥」
「いや、さっき言ってたじゃん。普通に。‥‥あと一人稱が『俺』になってるよ。そんなに子の目線を意識しなくていいって」
「べ、別に、してね~し。っていうか、そういうイジリは戦闘中は‥‥」
「あっ來た!」
先程のBotが、距離をつめながらビーム撃をしてきた。暖斗のMDTは盾でそれを防ぎつつ、敵の懐に飛び込んで長槍を繰り出す。突槍が何度か空を切ったが、かすめる刃部の回転が徐々にBotの裝甲を削っていき、敵の反撃は止まっていった。
ガギン!!
暖斗の繰り出した最後の一撃が、Botの急所であるスリットのをとらえた。
そのまま地面に押し付けて回転を叩きこむ。
裝甲が研削される白煙の後、金屬同士がぶつかる甲高い金斬り音、大量の火花とともに、Botは発四散した。
暖斗は、撃破を喜びつつも、心中複雑だった。
「思ったより手間取ってしまった‥‥。まだ新兵(ベイビイ)なのかな。僕は」
「やったね。暖斗くん。おつかれさま」
麻妃は、そう暖斗に聲をかけると同時に、母艦のIT解析部門に呼びかける。
「どう? 解析できてる?」
「ああ、暫定値だけど出たよ。結論から言うと、咲見くんはやはりギフテッドで、『アレ』が発癥する率は100%。あれだけMDT本に被弾したのに、エネルギー殘量が多すぎる」
麻妃の耳につけたインカムに、すぐさま返答の聲。聲の主はいが、利発そうな口ぶりだった。
それを確認した戦艦の艦長が、號令を発した。
「わかった。ありがとう。それじゃあ出番が確定ね? 醫務室の逢初(あいぞめ)さん、手筈通り準備をお願い。あと、庶務係の人中心にDMTデッキに集まって。暖斗くんを迎えるわ」
「‥‥‥‥はい」
艦長のインカムに、逢初(あいぞめ)依(えい)と呼ばれたの、小さな返事が響いた。
艦長は艦長席から降りながら。
「わたしもデッキで暖斗くんを迎えるよ。心配だし。その間ここを頼むわね」
戦艦の艦橋、そこにいる數人のが、艦長の聲に反応して頷いた。
*****
「あ~~良かった。何とかBotを撃破できたよ~」
戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」へ帰艦する、DMTの隔壁縦席(ヒステリコス)の僕は、安堵の気持ちでいっぱいだった。
「途中、グダっったけどな」
「それは麻妃(マッキ)が、茶化すような事言うから」
「でもまあ、良かったよ。Botが排除できるんなら、このエリアの掃空ができる。そうすれば先へ進める。このガンジス島にある、わが軍の戦略資集積基地、ポイント=カタフニアに」
ポイント=カタフニア――僕らが、そこに行くように、と指示された場所だ。基地があって、きっとプロの正規軍人さんがいっぱいいるはずだ。
そこまで行けば、安全だろう。
だけど。
その間の航行は、この戦艦に乗艦する中學2年生16人、本當にこれだけのメンバーで行わなければならない。
そして、男子は僕ひとり。
「この戦艦を、みんなを守らなきゃ。この僕が。‥‥‥‥なんとしても!!」
程なくして、暖斗のDMTは無事著艦した。
暖斗はDMTの隔壁縦室(ヒステリコス)のハッチを開き、エンジンをアイドル狀態にする。
甲高いモーターの駆音と共に、開いていくハッチ。その向こう側に、タラップに並ぶ子たちの制服姿が見えてきた。
7人はいるだろうか? 何のために?、は愚問だ。みんな、初陣を飾った自分を出迎えに來てくれたのだ。
その暖斗の予想は自意識過剰などではない。ハッチが開くその向こうに、暖斗の姿をみとめると、子達は誰ともなくパチパチと拍手をしだした。
自分の初陣にしては大げさだと、素直にじた。暖斗は思考する。
さっき麻妃にからかわれたけれど、この戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」は、僕以外は全員子。たった16人の中學2年生で運航されている。そのの7人が、わざわざDMTデッキまで「お迎え」に來てくれている。
正直こそばゆい。
そういえば麻妃が、「みんなで応援してた」とは言っていたっけ。後半の戦いが若干グダグダだったし、ハズいので足早に立ち去ろう。
そう暖斗は考えて、タラップに軽快に駆けあがった――――はずだった。
「待って! 咲見くん!」
ズダン。
艦長の聲が屆く頃には空しく、暖斗はタラップの階段で
思いっきりコケていた。――――のみならずアゴの辺りを痛打する。
「痛‥‥‥‥ぐっ」
痛てて。というセリフを慌てて飲み込んだ。カッコ悪すぎる。うわ‥‥やっちゃった。と頭の中が焦燥と忸怩(じくじ)で、こんがらがっていく。
痛いのもあったが、とにかく恥ずかしかった。
子たちが一斉に駆け寄ってくる。
「いや、大丈夫だから。皆さん、そんな大げさな」
暖斗はそう言った。いや、そうでも言わないとカッコがつかない。あわてて苦笑いを顔に張り付けてから――――立ち上がろうとして。
「‥‥‥‥?」
――――立ち上がろうとして。
「‥‥‥‥?」
――――立ち上がろうと、して?
暖斗は自のの異変に気付いた。
首から下が、まったくかない――――。
「咲見くん。落ち著いてね。大丈夫。大丈夫ですからね」
艦長のの聲も、暖斗の耳にはらなかった。そのまま7人の子たちの協力で、擔架に乗せられ、醫務室へと運ばれた。
DMTの整備場所から醫務室へは、同じ1F。暖斗を乗せたキャスター付きのベッドが、戦艦の廊下を進んでいく。天井に向けた視線に、いくつもの廊下の照明が通りすぎて行くのを見上げながら――
――暖斗は呆然としていた。
だがこの先の醫務室で、さらに暖斗を困させる事態が起こる。そこで暖斗は、「たった1つしかない選択肢」を選択することを迫られる事になるからだ。
醫務室は、先述の通り、戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」のDMTデッキと同じ、1Fで。
り口は両戸開きの自ドアだ。
「逢初さん、連れてきたよ」
「は~い」
艦長の言葉に明るい返事をした、逢初(あいぞめ)依(えい)、と呼ばれる。
紺の襟の白セーラーとその元には赤いラインのった水のリボン。同じ紺のプリーツスカートと、なぜか制服の上から白――丈の短いドクターコートを著ている。艶やかなセミロングの黒髪は軽く白にかかり、白のの中に浮かぶ大きな黒瞳が、暖斗をのぞきこんできた。
顔の距離がすごく近い。
「あ~、アゴも打ってきてますね。ああ、外傷はないけど、出してくるかな? これは~」
「ちょっとさわりますね」
は、暖斗のアゴにれた。
特有の、らかくしなやかな指が、頼りなげに暖斗の下顎をすうっとでる。
「痛い? ‥‥った覚はありますか?」
逢初が、その大きな黒瞳で質問してきた。
この時點で、暖斗のは、首から下がまったくかすことができなかった。
軽く息を吸って、口腔や舌がくのを確認しながら、取りあえず質問に答える。
「うん。うっすら、指がれたのがわかったよ」 と答える。
「よかった」
は、15㎝ほどの距離のまま暖斗を見つめながら、笑顔になった。
「下顎の打撲傷は大丈夫。言語の発音も異常は認められない、と」
そして、暖斗を連れてきた子たちに目配せする。
「‥‥‥‥ああ、私たちはじゃあ、これで。咲見くん、あとで岸尾さんも來ると思うから。の異常は、この逢初さんに聞いて下さいね。おだいじに」
そう言って艦長たちは醫務室から出て行った。
そうか、さっきデッキに子が集まったのは、僕を迎えるため――じゃあなく、けなくなった僕を運ぶため、か。
暖斗はそう考えた。
そうか、調子に乗ってイキリムーブをしなくて良かった。
ここ醫務室は、5 m四方くらいの白壁の部屋だ。部屋の隅には柱があって、そこに全方位から見えるモニターがある。暖斗にはよく判らない數字が並んでいるが、たぶん自分の脈とか圧なのだろう。
自分のいるベッドは壁に長辺を付ける形で置かれていて、天井に吊るされたカーテンを引けば一応簡易的に個室みたいになるじだ。
奧の方にも空間があるようだが、ここからではよく見えない。
ただ1つ、病院と似つかわしくないところがある、部屋の照明だ。白い蛍のライトでは無く、オレンジの、まるで夕暮れのような味と明るさだった。
まるで、そう、――――今から誰かを寢かしつけるような。
「さて、咲見くん」
夕日のような照明を背にしたが、キャスター付きの丸椅子、――ドクターズスツールという名前なのは後に聞いたのだが――、その椅子(スツール)を引いて、暖斗の寢るベッド傍らまでやっていた。そしてプリーツスカートがシワにならないよう、両手を後ろ手に回しながらゆっくりと著座する。
ドクターコートの間から見える水のリボンが、かすかに揺れた。
「あのう、僕のは治るの?」
暖斗は、単刀直に聞いた。
この、逢初とは、実は同じ中學でクラスメイトなのである。
學校ではほとんど會話をした記憶がない。
たしかこの春、2年生から同じクラスだったか。ほぼ面識がないが、「初めまして」をするよりは、まずはこの狀況を早く確認したい、そう考えたからだ。
は、笑顔のまま答えた。
「せっかちな質問ですね。でも自分ののことだし、心配ですよね。うん。じゃあ、細かい説明は省きますよ?」
そう言うと、は、左手の人差し指を立てながら続けた。
「まず、あなたのがかないのは、DMTに乗って戦った『後癥』と呼べるものです。そしてそれは、適切な栄養補給と休息で完治、癥狀は消え去ります」
「よかっっった~!」
暖斗は大聲を上げた。
「いやあ、早く言ってよ。戦闘の衝撃で頸椎ガー、とかを想像したんだからね。なんだ、治るのか~。よかったあ」
暖斗の張が一気に解けた。それはそうだ。最悪「一生ベッドの上」を想像していたのだから。みんなと、この目の前のクラスメイトの様子から、その最悪はなさそうだとはじていたけれど。
とにかく、Botも撃破できたし、この癥狀も治るし、と、暖斗はやっと気持ちを落ちつかせることができた。
ああ、早く風呂にって自室でゲームでもやりたい。
「‥‥‥‥ん? 何それ」
疑問を投げかける暖斗の視線のその先には、の右手があり、その右手には、白いがっているガラス製の小瓶がにぎられていた。
「何それ」
暖斗はもう1度たずねた。
小瓶の上部には、ラテックス製の造作(ぞうさく)がしてあった。暖斗にはそれに見覚えもあるし、自ら使ったこともあったはずだ。はるか昔の話ではあるが。
は、申し訳なさそうに、小聲で話し始めた。
「咲見くん。これがなんだかわかるよね。そのを治すためには、これで栄養を摂ってもらわないといけないんです」
逢初依は真顔だった。
「ええッ!! マジで?」
「うん。申し訳ないのだけれど」
「ウソでしょ!?」
「いいえ。わたしも醫學を修める。噓は言いませんよ」
暖斗は、けないベッドの上で首を振る。必死の形相だ。
「ちょっと待ってよ。いきなりすぎだよ」
「説明は省くと言ったから‥‥‥」
「省きすぎだって!! じ、じゃあ、治らなくっていいよ! それやるくらいなら!!」
逢初依は困り顔を作り、弟に諭すように、さらに顔を近づけた。
「そうもいかないわ。この戦艦で正パイロットは咲見くん1人。早く回復してもらわないと、みんなが困っちゃうし、あなたを治すこと、それがわたしの職責だし。それにまた、Botが出たりするかもよ?」
追い詰められた暖斗が、絶した。
「だってその飲み、ほ瓶とミルクじゃないかあああぁぁぁ!!!」
「‥‥‥‥」
依は困った顔のまま沈黙していた。絶してからしして、まわりが見えてきた暖斗が、頭に浮かんだある疑問をここで口にする。
それは恐ろしい質問だった。
「あれ‥‥、僕は今、その『後癥』ってヤツで首から下がかないんだよね?‥‥‥‥一、‥‥‥‥一、どうやって、そのほ瓶でミルクを‥‥‥‥飲む‥‥と?」
それまでその、からこぼれ落ちそうな黒瞳で暖斗を正視していた依が、はじめて目を逸らした。見れば、彼は不安げに髪をさわり、消えらんばかりに顔を赤らめている。
そして、うつむいて、
消えそうなほどのかすかな聲で、
こう囁いた。
「‥‥‥‥‥それは、‥‥‥‥‥わたしが」
※ 本気か!? ほ瓶はマジ無理! というそこのアナタ!!
ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!
ブックマーク登録、高評価が、この長い話を続けるモチベになります。
ぜひぜひ! お願い致します!!
評価 ☆☆☆☆☆ を ★★★★★ に!!
↓ ↓ このCMの下です ↓↓
Twitter いぬうと ベビアサ作者 https://twitter.com/babyassault/
Twitterでの作品解説、ネタバレ、伏線解説、ご要があれば。
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