《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第4話 右手Ⅰ①
※【前回のあらすじ】 ほ瓶でミルクを飲まんとす若きふたりだったけど、んな意味でもう限界だったよ。
逢初さんは固まってしまった。僕は――さっき暗闇の中で何が起こったのか? よく分からないんだけど、やはりほ瓶でミルクを飲むのは無理そうだ。
「あ~逢初さん。改めてなんだけど他に方法無い? 軍専用の錠剤とか點滴とか?」
「‥‥‥‥」
僕が質問を投げると、しばらく不だった彼も答えてくれた。『醫療人』として答えないといけないと思ったらしい。
「錠剤はないです。點滴は‥‥‥‥あるけど最終手段でお願いします。わたし準々醫師だけど資格だけのペーパーで、手技とかは未修得だから。咲見くんの腕に針を刺すなんて怖くてできないよ。それならまだ他の手段の方が」
え? あれ? 今の彼のセリフって?
「うん? じゃあ他にもいくつか手段があるの? ‥‥‥‥例えば最終手段のいっこ手前の手段とか?」
「うん。あるよ。わたしが咲見くんにスプーンでミルクを口に運ぶとか。でもかなり上手くやらないと、さっきみたいにむせ込む確率高いよ」
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「‥‥‥‥って手段あるじゃん? じゃあ『ほ瓶でミルク』は全力回避だ!」
「『ほ瓶でミルク』って、わたしワザとやってるんじゃないからね? 赤ちゃんは【おっぱい】飲むでしょう? 彼らの未発達な筋で、未発達な脳で、生れ落ちてすぐ【おっぱい】飲めるように本能にインプットしておく仕様。すべて生學的、運工學的に理に適ってるのが『ほ瓶』なのよ。赤ちゃんが【おっぱい】飲むってそういう事よ?」
同級生の子に、間近で真顔で連されるその単語【 】‥‥‥‥。僕は思わず「うああ!」と首だけ仰け反る。
「‥‥‥‥じゃあ、代案①! スプーンで【おっぱい】飲みましょう」
シー イズ ザ 『醫療人』。――神的に復活した逢初さんが僕に迫ってきた。
「摂食(せっしょく)・嚥下(えんげ) 能力が低下してるから、スプーンでし奧にれてあげるのがコツだって。そのタイミングで上手く飲み込んで」
「顔が近いよ逢初さん」
「ちゃんと嚥下(えんげ)‥‥ごっくんできたか確認するから近づくよ。出來なければもっと近づくわ――――」
と、彼は重心を前にシフトして、ベッドの上に左手を置いていた。
が、その左手が かくん、と崩れた。
「ひゃああ」
醫務室にき通った聲が響く。前にのめった逢初さんは、僕の顔の下あごあたりにぶつかっていた。
髪の香りと、プリンのようならかい頬のが走った。
‥‥さては‥‥‥‥この娘(こ)ドジっ子か。確かに點滴の針を持ったら怖い人種かも。彼は自分の口もとをおさえていた。どうやら口と口が、というのは回避されたらしい。
僕はどの道けないから、なにか事故があった時は0対100で相手の過失になる。そこにはし謝する。
*****
「‥‥‥‥じゃ、あらためて。呼吸を合わせてやりましょう」
しばらくして逢初さんが再度復活した。‥‥‥‥意外とメンタル強いのかも。
「ほ瓶はあきらめます。やっぱり恥ずかしいよね? 男の子は。今回は患者様(ペイシェント)の意向を汲みます。――――で、スプーンね」
彼の手には金屬製の匙が。普通のサイズだ。
「はい、あ~ん――で、口に運ぶから、上手く飲み込んでね」
それから、ふたりでの共同作業が始まった。やってくに、やはりというか――逢初さんはどんどん熱がって近づいてくる。
「もっとタイミングあうかな? あと舌を下に下げるじで。――そうそう。じゃあいくよ? はい。あ~~ん」
「‥‥‥‥」
「はい。あ~~ん」
「‥‥あの、逢初さん。スプーン構えた時に見つめ‥‥目をあわせるのは必要?」
「そこで呼吸をあわせてるつもりなんだけど? だめ?」
「うう~~ん。あと、顔も近いよ?」
「小児科あるあるかなあ? 普段はもっと近い覚なんだけど。はい。あ~~ん」
「ち、近いって」
「うふふ。つばめのお母さんになった気分」
「なんか言った?」
「いいえ。さ、はい。あ~~ん、っと」
甘い。僕ののの所だよ。まるで新婚カップルみたいじゃないか。の子と過ごすってこんな気持ちになるのか、と、僕は未知の験にじゅうがぞわぞわした。
たまらなく恥ずかしいのも何とか「これは単なる作業なんだ」と思い込む努力で封じこめようとしていた。
「はい。あ~~ん」
「作業」は続く。さっきみたいに、――イヤ、それ以上に、彼が右肩に接近、接してくる。
「はい。あ~~ん」
肩が著するこの距離とリズム‥‥‥‥むしろ二人三腳ってじかな。
「はい。あ~~ん」
普通サイズのスプーンで、300mlほどのを飲み干す。一回の量はたかが知れている。ミルクが全然減っていかない。
「はい。あ~~ん」
「あの、もっと大きなスプーンでも‥‥‥‥?」
「うん。そうしたいんだけど、今日は無理かなあ。さっきむせ込んでたし、そもそもの筋きにくいんだからね。‥‥ごめんね。大変だけど気よくやりましょうね」
「はい。あ~~ん」 「ぐほぁ」
雑念がったせいか飲み込みに失敗した。――――僕のせいだ。
彼は新しいタオルを僕の口もとに當て、テーブルの水分も素早く拭き取った。さすがに手馴れている。
「‥‥‥‥焦らなくていいよ。ゆっくりやりましょう。‥‥はい!」
「はい。あ~‥‥‥‥大丈夫? 一回を起こすね?」
「はい。あ~~ん。 上手上手。 はい! あ‥‥‥‥あ、ごめん、ちょっと早かったね」
僕は大バカ者だった。
醫療というものを知らなかった。
逢初さんはこの、「スプーンで飲ます」ことが膨大な労力なのを知っていて、ほ瓶を勧めていたんだ。素直にあれで飲んでいたら、彼はどんなに楽だったろう。
「はい。あ~~ん」
僕の、つまらない、――本當に本當に くっっっっだらないカッコつけのせいで、この子にものすごい負擔をさせてしまっている。
「はい。あ~~ん」
數えるのも嫌になるくらいの、何十回目かのスプーン。
「はい。あ~~ん」
そのスプーンが、筋疲労で震えていて、思わず見た彼のこめかみにひとすじ汗が流れているのを見つけた時、思わず顔をそむけてしまった。
「はい! ‥‥‥‥どうしたの?」
僕は目を閉じで、目から出る熱いを必死にこらえる。かした時に首が痛んだが、それが何だっていうんだ。
「‥‥‥‥どうしたの? 咲見くん」
右手を下ろして二の腕あたりをさすりながら、逢初さんは語りかける。
「――――気にしないで。気にしちゃダメ」
何かを察したみたいだ。
「あのね。わたしはこう思ってるの。咲見くんは艦外で、DMTで戦ってくれた。だから、わたし達はこうやって旅を続けられているの。――――あなたが、危険な任務をこなしてくれたから」
「や、‥‥‥‥でも、Botなら、DMTが勝つのは當たり前で‥‥‥‥」
「そうだとしても、だよ? 危険な事には変わりないよ? そして、その代償のMK後癥候群。だから、今度はわたしが使命を果たさなきゃ。課せられた主任務を。それは、咲見くんを、醫療の分野から人的介をして、現狀回復してもらうこと」
耳だけで彼の言葉を聞いていた僕は、首をもどした。
逢初さんの大きな瞳が待っていた。
「ギブアンドテイクだよ。そしてわたしは、わたし達は謝してるの。あなたがふたつ返事で戦闘行為を了承してくれたことに。この戦艦のたったひとりの男の子の、そのキモチに。ほ瓶は恥ずかしい? そうだよね。ふふ。別の方法があるなら、わたしがそれを全力で果たせばいいのよ」
「ミルクが冷めちゃった」と言って、彼はしなやかな黒髪を揺らしながらバックヤードに消えた。
僕は知った。
の人って、こんなに優しいんだって。の子って、こんなに人の心を穏やかにしてくれるんだって。
それを知ることができた、14才の夏だった。
※ ほ瓶回避良かったね。そして逢初さんいい子や! と思ったそこのアナタ!!
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